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「晴とは、どこやっけ桜町?で会ったんだっけ?」
甲斐田の肩に腕を回して、不破は思い出しているようだった。
不破より背が高い甲斐田は、不破に合わせて少しかがんでいる。
「あ、盛大に転んだ晴を俺が助けたんよな。」
不破の言葉に甲斐田は少し恥ずかしそうな顔をする。
「その節は…ありがとうございました…。」
数ヶ月前、不破は遊郭を出てからいくつかの町を訪れた。
その一つが桜町と言う場所だった。
不破は桜町に入り、何か軽く出来る仕事を探していた。
土手の人通りの多い道を歩いていると、一人の青年が目に入った。
灰色の髪をした甲斐田だった。
甲斐田は、風呂敷いっぱいに本を持っていた。
それを背負い歩いているが、明らかに限界そうな顔をしている。
周りの人も甲斐田を心配そうに見ている。
「なんか、すごい奴いんなぁ。」
不破は関係ないかとそのまま通り過ぎようとした。
不破の前の方から歩いて来る甲斐田。
不破の横を通り過ぎた甲斐田、その瞬間叫び声が聞こえた。
「うわぁぁぁぁぁぁあああ!」
甲斐田は足がからまり、体制を崩して叫んでいた。
何事かと不破は勢いよく振り返る。
甲斐田は本の重りで横に倒れた。
不破達が歩いていた道は土手だったので、甲斐田はものすごい勢いで下へ転がっていった。
甲斐田が転がる道には風呂敷の本達が並んでいた。
甲斐田は土だらけになりながら「痛い」とつぶやく。
「ぷっ、うはははははは!そんなことある!?なんやお前おもしろ!」
不破は思わず笑ってしまった。
そして、所々に散らばった本を集め始めながら甲斐田の元へ向かう。
そんな不破の姿を見て甲斐田はポカンとする。
「いやぁ、笑ってごめんな。面白くてつい。大丈夫?」
不破は片手に集めた本を持ち、反対の手を甲斐田の前に出した。
「…はい。すみません…。あ!本!」
不破の手を取り立ち上がる甲斐田。
立ち上がった瞬間、まだ散らばっている本を集め始める。
不破は風呂敷を持ってきて、地面に敷く。
その上にどんどん本を置いていく。
甲斐田は集めるたびに本の中身を確認していた。
「ありがとうございました。全部、本は回収できました。」
風呂敷の上の本を見ながら甲斐田は不破にお礼を言う。
「いいよ。…なぁ、運ぶの手伝おうか?」
不破は風呂敷を包もうとする甲斐田に話しかけた。
「え!いいんですか?!」
甲斐田は涙を浮かべながらキラキラとした笑顔を不破に向けた。
不破と甲斐田は、自己紹介をしながら本を分けて持ち、歩きはじめた。
「不破さんは、どうして桜町に来たんですか?」
甲斐田は歩きながら聞く。
「いやぁ、かくかくしかじかでなぁ。」
不破は、これまでのことを甲斐田に話す。
甲斐田は「すごいですね!」などと反応をしていた。
「ところで、この道ちっちゃい鳥居多くない?」
不破は辺りを見渡す。
不破の言う通りいたるところに小さな鳥居と小さな社がある。
「桜町は、神様がお休みになれる社を様々なところに設置しているんです。」
甲斐田は桜町について話す。
桜町には神様が多く存在していて、こちらの世界に来たときの社として使っていただく為に設けられたらしい。
「ふーん。なんかすごいとこなんやな。」
不破は不思議そうに頷く。
そんな話をしているうちに甲斐田の家に着く。
「あ、着きました!ここが僕の家です。」
甲斐田の家は立派な屋敷だった。
屋敷の門が開き、中へ二人は中へ入る。
「この部屋に並べて欲しいんですけど…。すいません、最近整理整頓が出来てなくて…。」
甲斐田が示した部屋は、たくさんの本や原稿などが散らばり、山積みだった。
「甲斐田は、本書いてる人なん?」
不破は廊下に本を置き、足元にある原稿を見る。
「いや、研究をしています。」
甲斐田は、床に置かれている本の隙間に足を置いて歩く。
「へー、なんの研究なん?」
不破は、何となく甲斐田に聞く。
「…………伝説上の生き物とかですかね。」
甲斐田は少し動きを止めて、答えた。
そんな甲斐田に違和感を覚えたが、不破はそれ以上聞かなかった。
「あ!不破さん、仕事探しているって言ってましたよね?!」
甲斐田は、目を輝かせて不破の方を振り向く。
不破は、甲斐田の言葉に察しがついた。
「まさか、これを整理整頓しろって?」
不破は部屋を見渡す。
「もちろん、報酬ははずみますよ。それに整理整頓が終わるまで、ここに泊まってもらっても構いません!」
甲斐田は、不破の手を取る。
不破は、少し考えた。
しかし、こんな好条件の仕事を断る理由はなく了承した。