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「じっとして」
低い声で言われて、
ぜんいちは反射的に動きを止めた。
「……なに」
そう聞く前に、
手首を取られる。
強くはない。
痛くもない。
でも、外そうとすると――
ほんの少しだけ、力が足される。
「ほら」
マイッキーが近い。
「そうやってすぐ離れようとする」
責めてる口調じゃない。
むしろ、落ち着かせるみたいな声。
「俺、嫌なんだよね」
手首を掴んだまま、
距離が縮まる。
「ぜんいちが、俺から引くの」
「……引いてない」
「じゃあ、動かないで」
即答だった。
ぜんいちは、
息を詰めたまま頷く。
手首を掴む指が、
ゆっくり位置を変える。
親指が、内側に触れる。
何もしてない。
でも、
逃げられないと体が理解する。
「ねえ。」
マイッキーが囁く。
「最近、俺のこと疑ってる?」
「……してない」
「ほんと?」
顔を上げさせられる。
顎に、指先。
軽い力なのに、逆らえない。
「なに目逸らしてんの〜?笑」
その一言で、
ぜんいちは完全に固まった。
視線が絡む。
「言って」
「……なにを」
「俺のこと、信じてるって」
喉が鳴る。
「……信じてる」
「即答じゃないの、可愛いね」
くすっと笑われる。
でも、
手は離れない。
「でもさ」
マイッキーは、
さらに距離を詰める。
「その顔されると」
一拍。
「一緒にやってくの、ちょっと考えちゃう」
――来た。
「……やだ」
声が、勝手に出た。
「何が?」
「それ」
「それ、言われるの」
マイッキーは、
少しだけ目を細める。
「じゃあ」
掴んでいた手首を、
ぎゅっと包む。
「俺のそばにいなよ」
「離れなきゃいいだけ」
「簡単でしょ?」
簡単じゃない。
でも。
「……うん」
そう答えた瞬間、
力が緩む。
「ほら」
ようやく手が離される。
「できるじゃん」
でも、
逃げようとすると、
背中に手が回される。
壁じゃない。
抱きしめでもない。
ただ、
“行き先を塞がれる”。
「今日はさ」
マイッキーが言う。
「俺の言うこと、ちゃんと聞けたから」
「解散とか、考えなくて済みそう」
その言葉で、
全身が一気に軽くなる。
「……よかった」
本音だった。
マイッキーは、
何も言わずに少しだけ離れる。
「次も」
振り返らずに。
「同じでいようね」
ぜんいちは、
頷くことしかできなかった。
手首に残る温度が、
なぜか一番消えなかった。