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冬美の夫、亮一視点。




あれは、3週間ほど前のことだった。

開店準備でみんなが忙しくしている時、俺は入り口の自動扉の動きを確認していた。

前日にお客様から、自動扉の動きがおかしくて体にドアが当たったとクレームがきたからだ。

人を感知するセンサーが壊れたか、埃でも付着していて誤作動をしたのだろう。


人の動きと自動扉の動きを見るために、近くにいたアルバイトの青木佳苗に声を掛けた。


「青木さん、ちょっとこっちへ来て手伝ってもらえませんか?」

「は、はい…」

「その自動扉の真ん中を出たり入ったりしてもらいたいんだけど」

「こーですか?」


自動扉が開いて外に出てまた入って来た時、

向かって左側のドアが一回ひっかかるような動きをした。

そのまま佳苗が羽織っていたカーディガンを引っ張って片袖が脱げた。


「あ!」

「きゃっ!」


慌ててカーディガンを引っ張って袖を通そうとした佳苗の左腕の内側に、大きな内出血の痕が見えた。


「ね、それ、今のって…」

「え?あ、なんでもないです」

「なんでもないこと、ないよね?痛いんじゃないの?その腕で仕事できるの?」

「大丈夫です、転んだだけの打ち身ですから」


そう言うと、カーディガンの前ボタンをとめようとしている。

季節は初夏。

いくら冷房が効いているとはいえ、厚手のカーディガンは暑いと思うのだけど。


「転んだって、他には?他に怪我してるとこないの?」

「あ、ありません!」


背中を向けた佳苗の作業服のポロシャツの襟元に、丸いいくつかのアザが見えた。


「ね、首にもあるよ、ちょっと見せて!」


そんなふうに近寄って髪をかきあげて襟元を見るなんて、他人が見たらセクハラになるだろうけど、その時はそんなことは考えられなかった。

その丸いアザがすごく気になったから。

襟元をめくって佳苗の首を見た。

それはどう見ても指の形に見えた。


「まさか!これ!」

「なんでもないです!大丈夫です」


それだけ言うと、走って奥へ入ってしまった。

あれは、首を絞められた痕?

さっきの左腕の内出血も?

転んだだけではあんなふうにはならない。

もしかしてDVとか?


それからは、特に佳苗のことが気にかかった。

開店準備の時間からお昼までのアルバイトで雇用した、23歳、既婚。


他のパートさんに比べると、とてもおとなしくあまり笑った顔を見てない気がする。

職場のみんなにも、まだうちとけていないようだった。

うちのようなスーパーは、パートさんたちで仕事をまわしているから、できるだけみんなとうまくやってほしい。


…というか、あれこれトラブルが起きやすい女性たちをまとめるのも、店長の仕事だと思っている。


佳苗が何かトラブルを抱えているとしたら、それは店長として解決の手伝いをしないといけない。

少しばかりの責任感と、佳苗への興味が、この後俺を泥沼に引きずり込むことになるとは、この時は予想もしていなかった。




あのアザを見てしまった3週間前から、何かあるたびに佳苗を見ていた。

いつもカーディガンを着ていて、袖まくりもしない。

ポロシャツのボタンも、きっちり全部とめている。


売り場に立つときはマスクをしているけど、ときおりそのマスクの下に、赤黒いアザが見えることがあった。


「ね、青木さん、また、怪我してるよね?どうしたの?」

「なんでもありません」

「いや、気になるよ。俺でよかったら相談に乗るよ?」

「そんな、店長に心配してもらわなくても」

「店長だから心配してるんだよ、みんなが働きやすいように、いろんなことを調整するのも店長の役目なんだから」

「…すみません」

「話せるようだったら、話して、ね?」

「ありがとうございます…」


そこまで言うと、伏せ目がちにうつむいた。

泣いているのか?


「あの、青木さん?」

「ごめんなさい、すみません、仕事に戻りますね」


パタパタと駆け出して行った。


「店長、何話してたんですか?」

「うわっ、びっくりした、なんだチーフか」

「そんなに驚かなくても…。青木さん、何かありました?」

「いや、別に。ちょっと元気がないようだったから熱でもあるのかと聞いてたんだ」

「青木さん、いつもあんな感じですよ」

「あ、そう。じゃ、あの、怪我は?」

「は?怪我?青木さん、怪我してるんですか?」

「あ、いや、なんでもない」


そうか。

佳苗のアザのことは、俺しか知らないんだ。

だから、噂好きのパートさんたちも何も言わないんだな。

そっか。

俺にだけ見せてしまったんだ。

まぁ、DVの話なんて同僚には話せないよな。

これはますます、俺がなんとかしてあげないと。


「店長も早く仕事に戻ってくださいね!今日はセールもあるから忙しいんですよ」

「はい、チーフ!頑張ります」


俺はふざけてチーフに敬礼をして、自分の机がある事務所に戻った。


スマホを取り出して、佳苗にLINEをした。


〈時間を作るから、一度きちんと話してください。なにかしらの手助けはできるかもしれません〉


ぴこん🎶


《ありがとうございます。いつか時間がある時にお願いします》






そして今日。

仕事を休んだ佳苗と、午後休にした俺はスーパーから少し離れた隣町の駅で待ち合わせることにした。

ちゃんと話を聞いて、何かしらの解決策を出してあげようと思う。

なんてったって俺は、店長だから。

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