20##年。
下半身不随の俺は病院のベットから、曇った空を窓越しに見ていた。
俺の名前は山崎愛歌。
子供の頃トラックに轢かれるも、奇跡に近い形で一命を取り留め、悪い意味で注目された男だ。
それからは、ずーっと病院生活を余儀なくされてしまった。最初は怖かったが、7年も過ごすと、流石に慣れてしまう。匂いも、ここの顔ぶれも、外への憧れも。
好きなものと言えば、ラノベだろうか?
学校に行けない俺に漢字を教えてくれた大事な教材でもあるし、数少ない娯楽でもある。
数年前までは、恋愛系が多い傾向であったが、今年度は転生系が多い。
けれど、大体内容は一緒で、「俺TUEEEE!!」で終わってしまうのが残念な所でもある。
もしも、ラノベのように生まれ変われたら。
俺は最強の主人公ではなく、蝶になりたい。
異世界に行って、色んなモノを見たい。
人外でも良いから、押絵の風景としてではなく、実際にこの目で見てみたい。
叶わない望みだろうけど‥…‥
ボーッとしていたら、ベットが揺れ始めた。
ゴゴゴゴ
地面が揺れる。
最近、地鳴りが多い。巨人の軍勢でも来てるのかな‥…‥
ゴゴゴゴゴゴ
‥…‥‥…‥‥…‥‥…‥?
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
地鳴りが長い。オカシイ。普通はこれぐらい揺れたら終わるのに、終わる気配がない。逆にドンドン激しくなっていく。
俺はベットの近くにある呼び出しボタンを押そうとしたが、それは叶わなかった。
ピキリ
と、床がひび割れる。
「お‥…‥あ!」
下半身が動かない俺は、ベットから抜け出すことも出来ない。
そんな俺に本棚が倒れてきた。
「た、たすkッ?」
この日、山崎愛歌は死亡した。
床が雲のようにモヤモヤしてる所。
言い表すならば、あの世だろうか。
あの世で俺は女神に凄まれている。
「再度口にするが、私は多忙の身だ。早く名前と希望を言え。」
「‥…‥マジで異世界転生はできないんですね‥…‥」
俺の死因は圧死。
地震で倒れた本棚の下敷きになって死んだらしい。
しかも、その地震は南海トラフの大地震であり、俺以外にも5000万人が死亡したそうだ。
神の役目は、人が死んだら転生させたり、天国に行かせたりする事だが‥…‥5000万人が死んだ。
なので、女神さん達は5000万人を捌かなければならないと言う事で‥…‥‥…‥
「早くしろ!」
「‥…本当に異世界転生はできないんでしょうか?」
「‥…‥あ?何回、言わせれば気が済む。異世界枠は埋まってる。1200人ジャスト!」
さようなら‥…‥蝶の夢…‥…‥
「じゃあ、もう一回地球に転生する事は…‥…‥」
「ダメに決まってるであろーが!!人外にでもならない限り、地球転生は無理だ!」
こんなに忙しいのは世界大戦以来だと悪態をついてる女神さん。
人外…….あれ?蝶の夢復活?
「ちょ、蝶に転生する事は?」
「貴様、煽ってるのか?虫ケラに転生したところで、考える脳ミソもない。本能のまま、鳥に食われて終わりだ。」
「…‥…‥天国はどんなところなんですか?」
「天国と呼ばれてるだけで、魂の焼却炉だ。霊滅すると言えば分かるか?」
「れーめつ…‥…‥」
なんか凄そう…‥…‥
「‥…‥そんなに地球に戻りたいのか?」
「あ‥…‥はい‥…‥」
望みを言ったら、異世界で蝶になって飛び回りたい。
「…‥…‥ほれ、地球ではあるが、転生させるから元気を出せ。」
俺が落ち込んでるように見えたのか、女神さんは、俺の肩をポンポンしてくれた。
「え?良いんですか?」
それに驚く俺。
「別に良かろう?このぐらい。」
「なんか‥…‥すみません。」
「安心しろ、愉快な特典も付けてやる。それで生き抜け。」
「ありがと‥…‥ございます。」
この人、良い人だ。間違いない。
後、めっちゃ気になる。特典って何だろう。
やっぱ、無双系かな?地球で無双とかSFすぎるな。
‥…‥でも、人間に転生するわけじゃないでしょ?
多分、人外だと思うけど‥…‥見当もつかないな。
「よっし。では、早く済ませよう。」
「お願いします。」
体が発光したから、ビックリして目を瞑ってしまい、どうやって転生するのかは見逃してしまったが、なんも感じなかった体が、ジメジメとした空気を感じたことで、転生したのを本能で理解した。
「おお!これは、すごい。」
転生先はやはり人外。
転生した場所の近くにあった木があんなにでかく見える。
体が小さくなったんだろうか。
周りを見渡す。
茂みの溢れる樹林のようだ。あちこちにコケが生えており、人跡未踏の遺跡みたいに感じざるを得ない。
でも、一つ、とっても違和感のある物体が森に紛れ込んでいた。
「車‥…‥なのか?」
コケに覆われたり、木の根が絡んでいたりと、自然の緑に塗られたせいで、本当に車なのかは分からないが、俺の目には、確かに車のように映ってた。
その車の形をした物体は斜めに地面に沈んでいる。
車の近くに行こうとするも、車(仮)の周りは大きな水溜まりで色付けられている為、車(仮)の近くに行くのは抵抗感が少しある。
「アデッ」
水溜まりを踏み越えようとするも、転んでしまった。
びしょ濡れ。
気付かなかったけど、俺はさっきまで四足歩行だったみたいだ。
二足歩行で行ける
車の近くまで行くと、まだコケなどに覆われてない部分が見える。
バックミラーだ。
車は、斜めに地面に沈む形だったから、見るのに都合が良かった。
バックミラーを覗く。
バックミラーは少し風化しており、見えづらくもあったが、全く見えないという訳ではない。
そこには、一匹の小汚ないアライグマが映っていた。
「カワイーって‥…‥俺かよ!」
一人でボケ、一人で突っ込むも、現実は変わらない。
アライグマか‥…‥‥…‥田舎では害獣だけどな…‥…‥
悪くはないな‥…‥‥…‥
天界オリュンポス。
堅物として、有名な女神アテネに、ヘルメスが駆け寄った。
「先輩、これで、1万人目が終わりましたぁぁぁ!!!」
「ああ、ご苦労。」
南海トラフの大地震にて、5000万人が死んだ結果、神々は残業という形で死者の処理をしなければならなくなった。
「アテネの姉貴ぃぃぃッッッ!!ヘラがやらかしたぁぁぁ!!500万人、天国送りだってぇぇぇぇッッッッッ!!!!!」
「アレス静かにしろ。ヘルメス、アレスと一緒にヘラを押さえて来い。」
「分かりました。行ってきます!」
ヘルメスがアレスと一緒にヘラ鹵獲に向かおうとするが、思い出したかのようにアテネに振り向いて質問した。
「なんかいたって言ったじゃないですか。地球転生者でしたっけ?ソイツの転生特典は何なんですか?人間じゃないんでしょう?」
アテネは不適な笑みを浮かべた。
「フフフ…‥…‥よくぞ聞いてくれた…‥…‥”人化”だ。」
「‥…‥ズルじゃないですか?」
「ルールには従っている。大丈夫だ。問題ない。」
「いや…‥…‥でも‥…‥クロノスに怒られますよ?」
「その時は、その時だ。」
「因みに‥…‥ソイツは何に転生したんですか?」
「ん?アライグマだが?」
「何でそのチョイスなんですか?」
「フゥー、ヘルメス。勉強が足りんな。」
アテネが姿勢を正して言った。
「いいか?人間界では、アライグマは人に化けると言われているんだ。これ以上ないチョイスだろう?」
「それってーー…タヌキじゃないんですか?」
「え?」
「え?」
顔をやや青くし、ヘルメスにもう一回質問する。
「アライグマじゃないのか?」
「タヌキですよ?」
「え?」
「え?」
ナニイッテンダコイツ
二人の中ですれ違いが生まれる。
「もしかして、姉貴、ヤラカシた?」
隣で会話を聞いていたアレスが勘づいて、口を開けた。
「どうやら‥…‥そのようだな。」
「‥…‥一旦忘れて、ヘラ潰しに行きましょうか?」
「そうしよう。その方が良い。」
三人は行き場のない不安をヘラシバキで忘れようと、ヘラの神殿に向かうのであった。
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