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#シークレットベビー
夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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仲人さんは車から降りることなく、ホテルに私を下すとさっさと去って行く。
身一つで見上げたホテルは白と青を基調として、窓の縁がイエローのお洒落で可愛いホテル。入り口までいくつもの噴水と広々とした庭が広がっている。
私がホテルを見上げていると、白いスーツの仲人さんが走ってきた。
「大変申し訳ありません。お迎えするはずが」
「あ、いえ、あの私、何階でしょうか」
「立崎さまは、最上25階です。窓は開閉できません。洗濯は全て仲人に渡していただければクリーニングいたします」
「ほえ!?」
パンツまでクリーニングに出すの!?
なんてお馬鹿な質問をしていいのかな。
にこにこ笑う綺麗な仲人さんは中性的だけど多分女性かな?
年齢不詳な美魔女の仲人さんとは違う、艶っぽい人だ。
「花巻さまはすでにお掃除を終えられ、お料理をするとスーパーに買い出しに行かれ先ほど帰宅しておりました」
「さ、左様でございますか」
携帯を確認すると、まだ16時。
今から夕ご飯作るって、どれだけ豪勢なのを作る気なんだろう。
全体的に可愛いデザインのホテルだけに、ルームシャアの相手がハムスターだと思うと複雑だ。
いや、こんな素敵な空間だ。お料理をして待っていてくださる花巻さんを見たら、もしかして人間に見えるかもしれない。
25階までのエレベーターの中、髪を何度も梳いてリップを塗って深呼吸する。
相手はハムスターではなくプロのスポーツ選手。
私の未来の旦那様。
しっかりイメージすれば、きっと大丈夫。人間に見えるはず。
25階に到着すると、どうやら部屋は一つらしい。
真っ青で大きなドアの前に立って、私はすぐに気づいた。
カレーの匂いがする、と。
恐る恐るインターフォンを鳴らすと、中で『ズタタタ』とか『ゴン』とか謎の音がしている。
「おかえり! ご飯にする!? 映画にする!? それともハムスター!?」
「え、ひえ、ひいい」
飛び出してきたハムスターを全力で避けてしまった。
卓球の玉みたいに飛んできた物体が花巻さんかな。
「驚かせてごめん」
「いえ」
「これ、裸エプロンじゃないから! キッチンが熱くて、上だけ脱いだら正面から見たら裸エプロンだだけで、後ろから見れば半ズボンは死守したから」
「まって。色々待って」
まず私にはやはりハムスターにしか見えないし、エプロンは見えないけど、そもそも半ズボンのみの男性とか怖いし、死守したって誰から死守したの。
色々と言いたいことが溢れていたけど、開け放たれた家からカレーの匂いがして少し心が落ち着く。
「ハムスターなのにキッチンで料理できたんですね」
「もちろん。本当の俺は190センチだからね。カレーは一番最初に好きな辛さをお互い知る必要があるし。っと」
部屋の中に入ろうとした私の前に、フリルと大きなピンクのハートのポケットがついたエプロンのハムスターが立ちふさがった。
小さくて踏んでしまいそうになるので、飛び出さないでほしい。
「中に入りたいのですが」
「お姫様抱っこして玄関をくぐりたい」
ハムスター花巻さんが、頬を膨らませてもじもじしながら言うので、両手を出した。
「私の手のひらに乗りますか?」
「君の手に乗ったら、複雑骨折だ。ではなく、俺が君をお姫様抱っこ」
どや顔のハムスターが、ちょこんと両手を出してきた。ひまわりの種をそっと乗せてあげたくなるぐらい可愛い。
いやいやいや、私にはハムスターに見えてしまう以上、どうしてもハムスターにお姫様抱っこされる想像ができない。
「なんでお姫様抱っこなんですか?」
「新居の門を新婚がくぐるときに、そんな儀式があるらしい」
「へえ、ロマンチックです」
が、少し考えてから首を傾げる。
「でもここはお見合いセンター内施設です。新居ではないですね」
「まじで!」
カレー作りに夢中で、途中から本当に妻を待つ旦那の気持ちになってしまったらしい。
「あのう、ゆっくり進みませんか? 私、全くハム……花巻さんのこと知らないし」
「今、ハムスターって言おうとした。一慶って呼んで」
「一慶さん、まずはカレーが食べたいです」
この開けたドアの向こうから漂うカレーの匂い。甘口なのかな、スパイスの強い刺激ではなく蜂蜜みたいな匂いが強い。
「もち、もちのろん。ろんろんろん」
「意味が分からないです。手を繋いでみましょうか?」
ハムスターの姿でコロコロ嬉しそうに転がる一慶さん。
私には手のひらの上に乗せたようにしか見えないが、彼にはちゃんと手を繋げているのかな。
恋愛結婚憧憬症候群になると六感全てもお見合い相手の前では麻痺してしまうらしい。
部屋は白の壁、青の家具、黄色の食器とキッチンと、意外とホップで可愛い。
青色のソファの上に、一慶さんと同じ身長のデディベアが座っていて、ウエルカムと書かれたボートを持っている。
教室ぐらいありそうな広いリビングは、一河の豪邸のリビングと一緒。
国が援助する最高の広さがここぐらいなのかな、と邪推してしまう。
自分の部屋には、カードキーが刺さったまま。
当然だけど、まだ一慶さんも私の部屋には入っていないらしい。 、
「女の子ってどんな部屋が好きなのか分からなくて、よければ次の日曜にお皿とか家具とか見に行かない? 好きに改造していいらしい」
もこもこのスリッパの中から顔を出し、スケボーのように廊下を走る一慶さんを見て感心した。いや、多分普通に歩いているんだと思うけど。
可愛い系のアイテムが好きなのかな。エプロンも可愛いし。
「家具とか高いから完備されているものでいいですよ。でも足りないものがあったら確かに買いに行くのは楽しそうですね」
「やったー。恋愛結婚憧憬症候群中のデートは回数がカウントされないらしいから毎日デートできるよ」
「……すみません、私のせいで」
一慶さんはスリッパからキッチンへ壁を使い数回ジャンプすると、カレーの入った鍋の取っ手に飛び乗った。
「ううん。俺はめちゃくちゃ楽しい。昨日とか眠れなくて、試合近いのに師匠に怒られちゃった」
「試合……」
「カレーはあと10分煮込んでちょっと寝かせたら夕食時には玉ねぎが良い感じだと思う。俺、玉ねぎは原型残さない派なんだよね」
「私もですが……」
「その間に映画見ない?」
一慶さんは口から先に生まれてきたように、話したいことがたくさんある子どもみたいに、始終喋りっぱなしで、会話には困らなさそうだ。
「えっと、映画もいいんですが」
「うん。映画好き。地方営業の時、俺、いつも映画ばっかみてる」
「私は『今』の一慶さんについて色々教えてほしいな」
せっかくルームシャアするのだから、恋愛結婚憧憬症候群を治すためにも色々と一慶さんについて教えてほしい。
鍋の中のカレーを見て、小さなハムスターがおたまで混ぜていたので代わりに私が混ぜてみた。
「玉ねぎがトロトロ派なのは私も一緒です。あと甘口と中辛のルーを混ぜるのも好きです」
「あ、俺、……甘口のカレーが小さな頃食べたくて、甘口しか今も食べてない」
「なるほど。じゃあ今度は私が作ったカレーでちょっと辛いカレーもチャレンジしません?」
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