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「またねーアリエッタちゃ~ん」
「あ……めれいず?」
撫でられてだいぶ落ち着いた…というよりは状況に慣れたアリエッタに安心し、メレイズは迎えに来た親と共に帰っていった。もちろんアリエッタは、初めて聞く別れの挨拶を理解していない。
「みゅーぜ?」
「うんうん、もう夜遅いから、メレイズちゃんは帰ったのよ。落ち着いたらピアーニャちゃんの家に遊びに来てくれるって」
「?」(ぴあーにゃがどうしたんだろう? めれいずは?)
「ほら、パフィの所に行くよ~」
「ぱひー?」(え? なにするの? あ、手……)
事態は全く分かってないが、ミューゼに手を繋がれて思考がそこだけに集中した。少しドキドキしながら大人しくついて行く。
たどり着いたのは少し離れた場所で話をしていたパフィ達のいる場所。既に『雲塊』が広げられ、木が乗せられている。
「何その木……え? あれ?」
「あー言いたい事は分かるのよ。とりあえず乗るのよ。もう深夜らしいのよ」
ミューゼが木の生き物に気付いたが、アリエッタがいるのにこのまま夜の公園に留まるのは良くないと、まずは帰る事を優先する事にしていた。
先にミューゼとアリエッタが乗り込むと、他の3人も乗り、屋敷に向かって移動を開始。その道中で、ハウドラントでの自分達の現状を知る事になる。
「深夜だってのに眠くないねー」
「まぁ昼から夜まで寝てたのよ。たっぷり寝たから眠気なんて無いのよ」
「仕方ないよ。ドルネフィラーでの事をまとめるから、少し手伝ってくれる?」
寝起きの4人は全く眠くはなく、この後どうしようかという話になっていた。しかしそこにピアーニャが呆れたように真実を突き付けた。
「おまえらがドルネフィラーにはいってから、もうヨッカたってるぞ」
『……へっ?』
寝ている時と起きている時の時間感覚は違う。過去にはドルネフィラーに取り込まれてから10日以上経った後でも、何事も無く生還した例もある。
一同が驚いている中、ネフテリアだけは納得しながら苦笑していた。
「どうりで眠くないハズよね。4日分も寝溜めしちゃったかー」
「ネダメて……まぁこんやはネムれないだろうな」
「そうね、今夜は寝かせないわよ?」
「いいかたが、なんかヤだな!?」
ニヤニヤしながら変な言い方をしたが、実際持ち帰った情報はかなり多い。
全部話してまとめていたら、一体何日かかるんだろうと、同乗している木の生き物に視線を移しながら、内心ため息をつくネフテリア。そのまま目を細め、生き物を睨んでいた。
「寝起きだからかな、お腹空いたね~アリエッタ」
「?」
今はパフィに抱っこされているアリエッタにミューゼが話しかけた時、タイミング良く「く~」という音がアリエッタから発せられた。
なんとなく和んでいた『雲塊』の上だったが、さらに温かい空気へと一気に変貌した。
「う~……」(今の絶対全員に聞かれた……)
「ふふふ、帰ったら何か作るのよ」
「あーそうだな。ショクザイすきにつかっていいから、パフィがなにかつくってやってくれ。うちのモノたちを、てつだいにつかってもいいぞ」
屋敷でその道のプロとして働いているだけあって、ピアーニャの実家のメイドや料理人は腕前は確かである。
しかしそれでも食に関しては、食材と料理に囲まれて生きてきた天性の料理人であるラスィーテ人には及ばない。味に関しては修行すればなんとかなるが、能力によって正確さや速度にどうしても差がつくのである。
「ありがたいのよ。戻ったらさっそくキッチンに駆け込むのよ」
「怖い目に合ったみたいだし、何かアリエッタの好物をお願いね」
「……いつもなんでも美味しそうに食べてるから、好物が何か分からないのよ」
「あ~そういえば」
「?」
あえてアリエッタの好物とするものを挙げるならば、『パフィの料理』だろうか。パフィやクリムが作ったものであれば、何であろうと幸せそうに食べてしまう。ラスィーテで土などを料理した時にビックリしていたものの、その事が原因で2人の作ったものはどんな物でも食べる事が出来る…と、信じるようになってしまったのだ。
もっとも、好物の幅が広すぎるせいで、一番好きな物を絞る事が出来ずに困っているわけだが。
「今度、好きな物が何か聞けるような言葉教えないといけないのよ……」
そんな日常的な雑談を続けている間に、屋敷へと到着したのだった。
「──で、なんでここにいるんですか?」
「いや、それはむしろボクが聞きたいんだよ。こんな事はあり得ないハズだったんだ」
他の全員が休むために屋敷に入った後、少し見ておきたいものがあると言い、ネフテリアは1人で庭に出た。そして庭の端に行き、持ち込んだ派手な木に向かってジト目になって呟いた。木の下から聞き覚えのある声が聞こえた。悪夢の中で話をしたドルネフィラーの声である。
ドルネフィラー自身も、どうして夢であるこの生き物が外にでているのか理解出来ていない様子。
「この事を知る人は、多い方が良いですか? 少ない方が良いですか?」
「……少ない方で」
というわけで、屋敷にいたピアーニャとルミルテだけを呼びつけ、事情を説明した。ワッツは今も外でシーカー達や住民に指示を出している為、ここにはいない。
「なるほどわかったわ、そーゆーことねっ」
「……かーさま、ウソはダメだ」
2人とも理解が全く追い付かなかった。
それもその筈。ドルネフィラー産の生き物で、ドルネフィラー本人が一時的に乗り移っている所はハッキリしているが、どうして今の状況になったのかが本人達にも分かっていない。しかもまだ途中経過については報告前なのである。結果だけ説明しても、それを理解する材料が全く無いのである。
「まぁ色々とやり場に困るから、この生き物はこの屋敷で飼育してくれないかなと思ってね。人もそんなに立ち寄らないし、何よりあのドルネフィラーの一部だし」
ピアーニャはもとより公園でその話をしていたので問題は無く、ドルネフィラーとルミルテは顔を見合わせ、あっさりと納得した。
代々リージョンシーカーの総長を務めているピアーニャの家は、確かに都合が良いのである。
「感謝するよ。ほんと、どうしてこうなったんだろう……」
「昔の行いが悪かったとか?」
「否定出来ないけど、手探りと感覚で世界創ってたんだから仕方ないでしょ!?」
だからって自分を世界にする事はないでしょう…と言いかけたが、さすがにこれ以上リージョンという存在に文句だの指摘だのしていたら、後で絶対自問自答してよく分からなくなると思い、ネフテリアは笑って誤魔化す事にした。
頭では理解しきれず、理性でも理解したくない残りの2人は、スケールの大きすぎる話にほとんどついて行けず、完全に置いてけぼり状態である。ネフテリアも事前に話を聞いていなければ、同じ状態になっていただろう。
「ところで、その生き物の名前はなんですか?」
飼育するとなれば、その生き物の事を知らなければ難しい。ルミルテが聞くと、ドルネフィラーは首を傾げ、答えた。
「特にヒトから呼ぶような名前は無いね。この子がいたリージョンには言葉を持つ存在はいなかったから」
言葉は無くとも夢は見る。そういった沢山のリージョンの生物から夢を回収してきた事で、ドルネフィラーには様々な夢が集まっていたのである。
「ということは、そこはまだミトウのリージョンか!?」
「どんな世界だったか分かりますか?」
「全てが植物で出来ていたかな。生き物だけじゃなく、大地もね」
「ほぉ……」
ピアーニャは、未踏のリージョンに思いをはせた。リージョンシーカーの総長をするだけあって、未知の領域には目が無いのだ。先代総長の妻であるルミルテも、同じ気持ちになっている。
現在分かる事は全て話し終え、もし何かあったらここに顔を出すと約束し、ドルネフィラーの意識は帰っていった。
「……う~ん、まさかリージョンそのものとお話する事になるなんてねぇ」
「なんかもうつかれた……」
「総長とあろう者が何言ってるの。食事の後が本番よ?」
悟りを開いたかのような目でネフテリアが宣告すると、屋敷の庭にピアーニャの悲痛な叫びが木霊した。
その後、無慈悲にもアリエッタが屋敷から出てきて、やさしいお姉ちゃんといった顔でピアーニャの手を取り、張り切ってエスコートし始めてしまう。ピアーニャの精神は、まだ本題が何も始まっていないというのに、限界に達するのだった。