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手を額から剥がし、顔をあげた。

「だから、直します」

今度は手足を動かさないこと、聴衆の目を見て心のベルトをかけることの両方に専念した。やってみるとそのことに必死で、緊張している余裕などなかった。

話し終えて教室を見回すと、退屈そうな顔をしている生徒は半減した。しかし、面白そうな顔をしている人は誰もいなかった。

「なぜだか分かる?」

「いえ」

「君のは、両親の話とか、町の大人の話とか、友達の話とか、話があちこち散ってるのよ。持ち時間が三分なら、テーマは一つに絞ること。さあ、もう一度」

今度は話を、思い切って「イスケンデル食堂の不機嫌なおばさん」一本に絞った。

「今回は君のいう世界の様子が、よく伝わってきたわ」と先生は言った。しかし、クラスのほとんどが無関心な様子だ。あくびをしている人もいれば、隣のコとおしゃべりしている人もいる。

「なぜだか、分かる?」

「わかりません」

「聴衆分析をなさい」

「何ですか、それ?」

「ここにいるみんなは、今どこにいる?」

「壁のこっち側です」

「君の側の話ばかりしてたら、みんなは共感がもてないぞ」

今度は向こうとこっちをつなぐ場所、「城壁」に焦点を充てた。登るときの汗、腕の筋肉の震え、踏みあがるときに伝わってくるレンガの感触、肺の収縮、耳の奥に聴こえる呼吸の音、城壁の上を過ぎる風の感触、降りるときの注意点と土を踏むまで気を抜けないこと、汗だくなYシャツ、手足のすり傷とかさぶた。

「よくなってきたぞ」教室の後ろからの声は、なんとケマルだった。

しかし、クラスの半数はまだ首を傾げている。

「なぜだか、分かる?」

「全然です」

「アーとかウーとかエーとか、そういうの一切やめる。いいわね? エーとか言いそうになったら、口を結んで『間』にすること」

なんだか、言ってる意味がよくわからない。

「今のあなたはこう。『エー、岩の窪みは、アー、そのー、ケッカンではなくって、アー、僕には、エー、壁を乗り越える、ウー』」 

先生は俺を馬鹿にしているのか?

「そうではなくって、こう。『岩の窪みは欠陥ではなくて……壁を乗り越える手がかりだった』」

思わず手を叩いてしまった。特に……の間が効いた。先生の魂が、そこで染み入って来たのである。

「やってみます」

エーと言いそうになったところすべて口を結んだ。かなり間だらけになってしまった。それでも、話し終えて見回すと首を傾けている人は減った。

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