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律は狡い。
何かあるといつも、『子供』の一言で片付ける。
私だって、早く大人になりたい。余裕のある大人になって、律にもっと……好きになってもらいたいのに。
「琴里」
「え?」
名前を呼ばれて我に返る。
「ほら、もうすぐ着くぞ」
律の住むアパートから私の家までは車でニ十分くらいの距離にあって、学校が律のアパートから比較的近くだから学校帰りは必ずと言っていい程寄っている。
律は小説家だから常に家に居るし、家事が苦手だって言う律に代わって私が家事の一切を取り仕切っている。
傍から見れば、それなりに彼氏彼女として成り立っていると思われる私たち。
だけど、何か違うっていうか、足りない気がするの。
だって、私は常に『好き』って言ってるけど、律は一度も言ってくれないから。
いつも、不安になる。
「着いたぞ」
家のすぐ近くに車を停めてくれた律。
帰らなきゃいけないのは分かってるんだけど、律の傍を離れたくなくて動けずに居る。
「また明日会えるだろ?」
煙草を灰皿に捨てながら優しい口調で諭してくれるけど、
「……だって、もっと一緒に居たいもん……」
どうしても離れたくなくて、我儘を言う。
これだから子供って言われるのは分かってる。
だけど、好き過ぎて一秒だって離れたくないのだ。
「あんま遅いと、親御さん心配すんだろ? な?」
「…………でも」
「……琴里、こっち向け」
「え?」
そう言われて俯いていた私が律の方を向くと、ふいに――短いキスをされる。
「またな?」
自宅のすぐ側での不意打ちのキスに顔が赤くなるのを感じていく。
(だ、誰かに見られてるかもしれないのに! もう!)
嬉しい反面恥ずかしい私は、律の顔を見ないで車を降りて、玄関前まで走って行く。
それとほぼ同時に車のエンジン音が聞こえて思わず後ろを振り返ると、律は不敵な笑みを浮かべ、ひらひらと手を振りながら車を走らせて行ってしまった。
「……またね、律。気を付けて帰ってね」
そう呟いた私は家の中に入って行った。
律は大人だから、恋愛経験もそれなりみたいだし余裕もある。
それに比べて私は、恋愛経験も無ければ我儘ばかりの子供。
愛想を尽かされないように良い子を演じるべきか迷ったけど、ありのままの私を好きになって欲しいから、我儘を言うのも、甘えるのも止めない。
《律、我儘ばっかり言ってごめんね、嫌いにならないでね?》
寝る前に今日の事を反省した私はメッセージを送ると、
《それくらいで嫌いになんてならねーよ、おやすみ》
そんな答えが返ってくる。
《ありがとう、大好き! おやすみ》
律の言葉が嬉しかった私はそう返信して、また明日、律に会えるのを楽しみに早々に眠りについた。