テラーノベル
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涼は温かいほうじ茶を湯のみに入れて、准に差し出した。少々わざとらしく腕を組み、対面する席に座る。
「にしても准さんってすぐ酔うし、警戒心なくなるから心配だなぁ。外で飲んだら変な男にホイホイついてっちゃいそう。例えば加東さんとか加東さんとか加東さんとか」
そして本当に露骨だ。その敵対心、もう隠す気ないんだな。
「そこまで外で飲まないし、思ってても名前を出すんじゃない。俺の上司だから……って、あれ? 噂をすれば」
涼を叱った途端、スマホが鳴った。メッセージを受信したみたいだけど、その相手は、
「加東さんだ!」
一体どうしたんだろう。どうせ今日も仕事で会うのに。名前の表示のみだった為画面をタップして確認すると、「今日の夜空いてる?」というシンプルなものだった。これは答え方によって逃げ道がなくなる。
「どうしよ。空いてるは空いてるけど、何の用事かな」
「さぁ……でも落ち着いて、とりあえずこう返信しましょう。俺のチャックは常時開いてるけど、ちゃんとホテルの部屋も空いてるか確認しといてくださいって痛ぁっ!!」
毎度の事ながら、最後まで喋り終わらないうちに准は彼の鳩尾を突いた。
「オーケー、返事しとくよ。そういうわけだから今日は帰り遅くなる」
「ゴフッ……は、はい。お気をつけて」
食事も歯磨きも終わり、鞄を持って玄関へ向かう。
涼が小鴨のように、後ろから早足でついてきた。
「じゃあ行ってくるけど、ちゃんと鍵かけてくれよ?」
「かしこまりました!」
子どもみたいな笑顔で上着を差し出す彼には、苦笑しか出てこない。
だって家族みたいだ。
長いこと独りで暮らしてた自分としては、誰かに見送られるというのも悪くない。
────でもこんな関係、いつまで続くんだろう。
なにかなければずっと変わらなくて、なにかあれば簡単に終わってしまう気もする。
俺がいくら訊いても、涼は何も話さない。気まずそうに視線を逸らし、「すいません」と謝るだけ。
気になるけど、絶対に聴き出してやろうと思ってるけど、……心のどっかで逃げていた。しつこく聴き出そうとしないのが何よりの証拠だ。
今の生活を失くしてまで、彼に無理やり事情を喋らせようと思ってない。それが自分でも本当に不思議だった。
だけど本当に、できるだけ早く折り合いをつけなきゃいけない。
こんなにも、涼とふざけ合う日々が気に入ってるなんて。信じられないし、……認めちゃいけない気がしたから。
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