テラーノベル
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昼休み、机を寄せて友達とお弁当を食べていると、急に同じクラスの女子がニヤニヤしながら言った。
「ねぇ、〇〇って最近、先生に冷たくなくない?」
「は?そんなことないけど」
思わず口調が強くなる。
「だって前まで“うざい”とか“嫌い”とか言ってたじゃん」
「……」
言い返そうとしたけど、昨日の玄関先や、あの時の背中の感触が脳裏をよぎって、何も言えなくなった。
「ほら、図星じゃん」
「ちがうってば」
必死に否定しても、友達はにやけたまま。
それが余計に心をざわつかせる。
午後の授業中、先生が質問してきたときも――
「……はい」
自分でも驚くほど柔らかい声で答えてしまった。
先生は特に何も言わず、すぐに次の説明を始めたけど、その一瞬、口元がわずかにゆるんだ気がした。
授業後、友達がまた囁く。
「やっぱり、〇〇変わったよ」
「……そんなことない」
でも、胸の奥では“もしかして”が小さくうずく。
――なんでだろう。
嫌いなままでいるほうが楽だったのに。
今は、あの声も、あの目も、気づけば探してしまっている。
翌朝、教室に入ると、黒板の前に先生が立っていた。
いつも通りの無愛想な顔――のはずなのに、昨日の背中を思い出してしまう。
(…なんで、こんなに覚えてるんだろ)
あの時、背中から伝わった鼓動。低い声。
ただの先生なのに、なんでこんなに気になるんだ。
授業が始まっても、妙に先生の声に耳が向く。
黒板に文字を書く横顔を、つい目で追ってしまう。
「……〇〇、ノート、取ってるか?」
急に名前を呼ばれ、ビクッとする。
「と、取ってます!」
クラスがクスクス笑い、顔が熱くなる。
休み時間、先生が廊下を歩いているのを見つける。
(話しかけたい…でも理由が…)
結局、通り過ぎる背中を見送るだけだった。
その日の放課後、職員室の前をうろうろしている自分に気づく。
(何してるの、私…)
ドアが開き、先生が出てきた。
「お前、こんなとこで何してんだ」
「えっ…あ、その…」
「用ないなら早く帰れ。暗くなるぞ」
冷たいようで、ちゃんと心配してくれる声。
胸が少しだけ高鳴るのを、自分でも否定できなかった。