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その次の日も、渉はあれこれと用事が入って昼飯を一緒に食えなかった。一人で屋上にいるのも暇なので、飯をかっ込んで旗を振る練習をした。
屋上で笹本と背中合わせの練習をするようになってから、四日目。彼の旗を空中に放ってからキャッチする技を見てコツを掴もうとしていれば、技を終えてから俺に視線を向けてきた。
「石本先輩、昼休みも練習しているんですか?」
「してるけど、なんだよ?」
「僕も昼休みに、練習しに来てもいいですか?」
一瞬だけ渉との唯一の二人きりの時間を思い出したが、どうせ明日も来ないだろうからいいぞと頷いた。
次の日。渉からメールが来ないので屋上にいってみると姿はない。急な用事でも入ったに違いない。
笹本もすぐに姿をみせたので、二人して旗を回してキャッチの練習をする。やっぱり今日も来なかったと、落胆で旗を何度も落とした。
そうして、昼休みが終わりに近づいた時。扉の開く音がして、そちらに視線をやる。そこには、汗だくの渉が立っていた。
「渉!!」
応援団の練習と言っても屋上に行っているので、実質三日ぶりの渉となる。渉の白髪とか、顔付きとか、足先から指先までを確認したとき。感動しすぎて泣きそうになった。けれど涙を堪えながら近づこうとして、相手の視線に気付く。彼が静かに怒っている。笹本を見つめながら静かに怒っている。
「わ、渉……あの……」
「鳴海さん、誰そいつ?」
「えっと、白組の旗手務めてる笹本司君です……」
「へぇ……俺が必死こいて来てみれば、新しい弁当仲間がいたってわけか……邪魔したね」
取りつくろうしまもなく、渉は派手な音を立てて扉を閉めさっさと階段を下りていってしまった。追いかけようにも、あの様子では話を聞いてくれそうにない。彼が俺の隣に来て、頭を下げてくる。
「すいません、なんか……僕がいるせいで」
「いや。お前がいなかったところでどうせ喧嘩してたから、同じようなもんだよ。お前は何も悪くねぇ。ほら。あんな馬鹿ほっといて、練習しようぜ!」
しかし、どれほど練習しても心のわだかまりは溶けない。そのまま空中に放る技を失敗すること何十回、チャイムが鳴って昼練が終わった。
放課後の練習もそんな感じで味気ないもので、実にならない。渉に誤解を解くためのメールを送ったが、どれも返信は帰ってこなかった。
どうにもやる気が起きず、笹本に了解を得てその日の練習は終わりにして屋上を出る。今日は紅組が校庭で練習しているので、外から大翔の声がする。
教室にバッグを取りにいき、そそくさと他の生徒たちに混ざって帰ろうとした。三階から二階への階段を下りているとき、疲れのせいかあるいは油断していたせいか。右足がすべった。
「あっ……」
手すりを掴もうとしたが、手に力なんか入らなくてそのまま階段下まで転がり落ちた。
目の前が一瞬にして反転、前転。なにも見えなくなって、気付いたときには体のふしぶしが痛んで仕方なかった。意識が揺らいで、何も見えない。
腕と足が動かせるようなので、心配はいらない。起き上がろうとしたが、視界がまだ揺らいでいるので上手く体が持ち上がらない。しかし、それよりも俺の体に電流が走ったのは次の瞬間だった。
「……みさん……鳴海さん!!」
耳元で渉の声がして、すぐ隣に視線をやる。彼が俺の体を支えながら、寝ている自分の顔を覗き込んできていた。
渉が、渉の、渉、渉、渉。彼の吐息が顔にかかったのを感じた直後、反射的に相手の体を突き飛ばす。
「わた、渉!!馬鹿、こっちくんな!!」
「えっ……」
「ふざけんなっ、お前!!」
動悸がいっそう激しく鳴って、はじかれたようにふらつく足で立ち上がる。そして、彼を睨みつけた。しかしすぐに自分の犯した過ちに気付いて、「あっ……」と口元を押さえた。何か言おうとして口を開こうとしたが、相手の方が早かった。
「へぇ、俺のこと嫌いになったんだ……」
初めてみる渉が本気で怒っている顔。前髪から覗く眼差しに射すくめられて何か言おうと考えるが、思考が追いつかない。踵を返して立ち去ろうとするので、「渉!」と名を呼んで相手の肩を掴もうとした。しかし。
「触るなよ……」
絆創膏まみれの手を振りはらった。血豆の潰れた痛みが指先から走って、顔をしかめる。相手はさっそうとその場を去って行った。
今の渉は俺の言葉すら聞きいれないだろう。もし聞いてくれたとしても、良い言い訳が思いつかない。
あれ……俺、思い出……あれ?
周りにいた生徒たちが、二人の様子にひそひそと噂を立て始める。力の入らない体で学校を出た。どうやって帰ったか記憶にないが、ベッドに倒れたとたん涙が止まらない。枕に顔を押しつけた。嗚咽が止まらなくなって、むせび泣く。
好きでたまらないから、一緒に、一緒にいられると思ってたのに、なんでこんなことに。渉は頑張っているし、それで俺が我儘とか。だってお前も頑張っているから、俺も頑張らなきゃで、セックスしたいとかふざけすぎだろ。あの渉が、俺のためにとかいってくれたのに。俺だってあいつが、好きだから。好きなのに、なんで、こんな……嫌われることばっかしてんだろ……あれ、なんで俺、こんなことしてるんだ……なんで隣に立てなくなってんの?
「なんでって、渉が好きだからだよ……」
好きは惹かれあうと反射するという言葉を思い出しながら泣く。両掌の血豆が痛くて、筋肉痛が痛くて。それでも涙を止めることなんてできなかった。
コメント
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うわぁ…すれ違いがどんどん深くなって、読んでて胸が締め付けられました。渉が屋上に来た時の「誰そいつ?」の冷たい言い方、そして最後の「触るなよ」の拒絶…あの絆創膏まみれの手を振り払う仕草が、めちゃくちゃ痛かったです。主人公が「好きだから」って泣きながら自問自答するシーン、好きなのに隣に立てないもどかしさが切なすぎる…次、どうなっちゃうんだろう。
#じゃぱぱ愛され
めう💭🎀
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