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朝の陽射しがカーテン越しに差し込む中、フランスは玄関先でコートを羽織っていた。
フランス「準備できた?」
英「はい。……緊張してるんですか?」
仏「うん、ちょっとだけ。だって、今日から“うちの子”になるんでしょ?」
英「……なんか、照れますね。その言い方」
仏「照れてるの、君じゃん」
英「……言わせたのは誰だと思ってるんですか」
そんな、軽く突っつき合うようなやり取りをしながら、二人は電車に乗って、里親募集をしているカフェへ向かった。
店に入ると、ガラス越しの部屋に、数匹の猫たちが自由気ままに寝そべっていた。
その中に――彼女はいた。
白とクリームの入り混じった毛並み、まあるい耳。ちょこんとした姿で、ふたりをじっと見つめている。
仏「……あ、いる」
英「はい……なんだか、前より大きくなった気がします」
店員に案内されてガラスの中へ入ると、彼女はとことこと歩いてきて、真っ先にイギリスの足元へすり寄った。
英「……あ……」
仏「完全に君のこと覚えてるじゃん。ずるいなぁ」
英「……君も撫でてみたらどうですか。ちゃんと覚えてますよ、きっと」
フランスがしゃがんでそっと手を伸ばすと、彼女はごろりとお腹を見せて寝転んだ。
仏「……やばい。天使だ」
英「……バカみたいな顔してますよ、フランス」
仏「君だって、顔ゆるんでるよ」
英「……そうですね。……ずっとこの子を見てたら、緩まずにはいられません」
書類を書き終え、必要な準備もすませ、いよいよ連れて帰る時間がきた。
キャリーケースの中で、丸くなった彼女に、フランスはそっと声をかけた。
フランス「よろしくね。今日から、君のうちはここだよ」
英「……名前、決めました?」
仏「一応、いくつか候補はあるけど……君は?」
英「……“ミル”って、どうでしょう」
仏「ミル?」
英「“milk(ミルク)”の短縮形です。……毛並み、そんな感じですし」
仏「……うん、いいね、それ」
英「……じゃあ、ミル。ようこそ、うちへ」
仏「君の名前、呼ぶたびに、僕も癒されそうだよ」
英「……それ、なんですか」
仏「ん? 僕なりの照れ隠し」
英「……ほんと、ややこしい人ですね、あなたは」
でもそのあと――
キャリーの中の小さなミルが「にゃあ」と鳴いた瞬間、ふたりは顔を見合わせて、そろって笑った。
それはたぶん、これから始まる2人と一匹暮らしの、最初の合図だった。