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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第42話 〚静かに見ている者〛(澪視点)
昼休みの教室は、
どこか歪んでいた。
笑い声はあるのに、
温度がない。
私は、自分の席に座ったまま、
視線だけを少し落としていた。
……聞こえている。
りあの方から、
微かに震える気配。
声は小さいのに、
言葉は、はっきり刺さる。
前なら。
きっと、
胸が締めつけられて、
心臓が痛んで、
予知が流れていた。
でも。
今日は、
何も来ない。
心臓は、
静かなまま。
それが、
逆に怖かった。
——私は、
立ち上がるべき?
助けるべき?
でも、
足が動かない。
りあが言っていた言葉が、
頭の奥で、
ゆっくり再生される。
「三軍のくせに」
「調子乗ってる」
あの時の私は、
笑われる側だった。
今は、
見る側になっている。
……同じ立場なのに。
胸の奥が、
少しだけ、
きしんだ。
正義感じゃない。
復讐でもない。
ただ、
分からなかった。
今、声を上げたら、
この状況は本当に“良くなる”のか。
りあの孤独が、
さらに深くなるだけじゃないのか。
「……」
隣の席で、
海翔が、
何も言わずに前を見ている。
でも、
その指先は、
きゅっと握られていた。
見ている。
気づいている。
でも、
動かない。
それは、
逃げじゃない。
選んでいる、
沈黙。
私は、
机の上で、
小さく深呼吸をした。
今は、
踏み込む時じゃない。
予知が来ないのは、
未来が決まっていないから。
——たぶん。
この出来事は、
誰かが“救う”話じゃない。
りあ自身が、
何かに気づくための時間。
そう思った。
チャイムが鳴る。
りあは、
俯いたまま、
席に戻っていく。
その背中を、
私は、
ただ静かに見送った。
心臓は、
まだ、
何も語らない。
でも。
この沈黙の先で、
何かが動く。
そんな予感だけが、
胸の奥に、
静かに残っていた。