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「――メリット……。
光竜王様が、ご自身の魂を捧げるメリット――」
「……アイナよ。近くに寄り、我が身体に触れるが良い……」
「え……?」
突然の要求に、私はルークとエミリアさんと顔を見合わせてから…そして光竜王様に近寄った。
近付けば近付くほどに光竜王様の顔は見えなくなり、私の目の前にある身体も、何だか立派な像のように思えてきてしまう。
寒さを感じるほどの強烈な雰囲気の中、ようやくその美しい竜鱗に触れてみると――
「冷たっ」
生物学的に見れば、ドラゴンは変温動物なのだろうか。
いや、外装である竜鱗が冷たいだけなのだろうか。
しばらく冷たいのを我慢していると、10秒ほど経ってから、ようやく光竜王様が話を続けてくれた。
「――……なるほどな。……うむ、良かろう。問題は無い……」
「えぇっと……。もう離れても良いですか……?」
「元の場所まで戻るが良い……。その場所にいられては、お前の顔が見えないのでな……」
こちらとしても、それは助かる。
このままだと、何だか壁と話しているような感じだし……。
許可をもらったので、私は小走りでルークとエミリアさんのいる場所まで戻った。
「ところで、今のは何だったんですか?」
「……少しお前の記憶を覗かせてもらった……。
必要な部分だけだから、あまり心配することは無い……」
え、えー……?
恥ずかしいことまでは見られていないよね……?
「す、凄いですね……。
そういう話は創作物で見たことがありますけど……大体は頭に手を触れていたような……」
「それが最も見やすくはあるのだが……。
我の手がお前の頭をかざすなど……恐ろしいであろう?」
光竜王様は何となく、悪戯っぽい感じで言ってきた。
確かにあんな巨大な手が私の目前にまで来たら――うん、正直不安と言うか、恐怖と言うか、完全に戦慄レベルだ。
「お気遣い、ありがとうございます。
それにしても何で私の記憶を?」
「これから話をすることには、いくつか前提条件があるのでな……。
……我とて万能では無い。お前のことをずっと見ていたわけではないから……記憶から補完させてもらったのだ……」
「な、なるほど……」
そういえば『意識をすればどこでも見ることができる』って言っていたもんね。
逆にいえば『意識をしなければどこも見ることはできない』のだろう。
「――話を続けるが……、まずはここで『転生』の話をしよう……」
「え!?」
突然の単語に、私は驚きの言葉を発してしまった。
ルークとエミリアさんは、そんな私を少し不思議そうに見ている。
「今回は竜王種による転生の話だ……。安心するが良い……」
……ああ、私の転生の話では無いのか。
突然こんな場所で私の転生が暴露されたら――いや別に困ることは無いんだけど、何となく心の準備というか。
「光竜王様の転生……ですか?」
「うむ……。
竜王種は神の眷属……。それゆえに長い寿命を持っておる……。
しかし自らの意思で、ある程度自由に次の命を得ることができるのだ……」
「……次の命?」
「古き身体を捨て、新たな身体を得る……。
今の力を失うことになるが、しかしまた成長することが可能になるのだ……」
「最初から成長した状態では無い……ということですか?」
「竜王種が持つ力は大きいものだ……。
再びそれを得るためには、ある程度の時間が必要になってしまう……。
他の生物であれば、最初から成長しきった状態――というのも可能ではあるがな……」
ふむふむ……。私の場合は人間種族だったから、最初から成長しきった状態だった、と……。
いや、17歳が『成長しきった状態』なのかは議論の余地があるだろうけど、可能性に満ちた年齢であることは確かだからね。
「それでは竜王様は、これから転生をして……若い身体になると?」
「……この身体を見よ……。
300年をこの状態で過ごしているからな……。……案外と、中身もボロボロになっているのだよ。
そのために、我が神力も衰え始めておる……」
案外と――って……。
そんなに柱が刺さった状態で、300年も生きているだけで十分に凄いんだけど……。
……それに、『神力』?
初耳だけど、今まで私たちが感じ取っていた『魔力のようなもの』の話かな……?
「――……さて、次にお前が望む神器の話をしよう……」
「は、はい!」
「お前の記憶は見させてもらった……。
すでに『光竜の魂』以外の素材は揃っている……。そして、神器作成に必要な呪文――『宣言』も暗記しているようだな……」
「うわぁ……。そんなところまで見たんですか?」
誰もいないところで、口に出して練習を続けていたものだけど……何回か舌を噛んじゃったのまでは見られてないよね?
「……ふふ、安心するが良い。舌を噛んだところまでは見ていないからな……」
「……見てるじゃないですか……」
「…………すまん、失言だ……」
「はい……」
…………。
「……話を進めよう……。
実は竜王種が転生するときには、その魂も再構成されるのだ……。
神や竜王といった存在は、時を経るに従いその魂も大きくなっていくのでな……」
魂も大きく――
それは何とも超越的な話だ。……というか、私は魂なんてものを見たことが無いから、ここら辺は捉えにくい話ではある。
「私には理解が追い付きませんが……。光竜王様は、すでに長く生きていらっしゃるんですよね?」
「うむ……。加えて言うと、その魂の大きさ故に、転生後に自身の魂をすべて持ち越すことが出来ないのだ……。
……従って、我が転生するにあたっては多少の魂が余ってしまう……」
「もしかして、その余った部分で神器を……?」
「通常は新たな眷属を生み出したりするのだが、今回は……な。
……我が転生に際して新しい魂を錬成するから……お前はそれを使うだけで良い」
「新しい魂を……? 光竜王様は凄いんですね……」
……凄いのも当然か。
何せ神様の眷属。さらに光属性というのであれば、何となく六属性の中でも序列が一番高そうだ。
「――……ここまで話をすれば十分か……?
他に聞きたいことがあるなら答えるが……」
「光竜王様が先ほど仰られたメリット……というのは、何ですか?」
「すでに話した……転生、だな。
転生後に、我は新たな命と自由を得る……。……もちろん、人間に害をなすことはしないから安心するが良い。
……こう見えても、人間というものはなかなか好きなのだ」
光竜王様の目が、ふと、ずっと遠くを見た気がした。
好きな人間によって封じられてしまった自身に、何かしらの思いを馳せているのだろうか。
光竜王様は、私たちの助力で自由を得る。
私たちは、光竜王様の導きで神器を作ることができる。
お互い、良いことづくめに見えるんだけど――
「……もし、私が光竜王様の助力をした場合、まことに申し上げ辛いのですが――
私にデメリットはあるのでしょうか」
「ふふ、我にそれを聞くか……」
光竜王様は笑いながら、のそっという感じで、その身を少し動かした。
少しとはいえ巨大な身体だ。それだけで地面が軽く揺れることになる。
「――……お前のデメリットは大いにあるぞ……。我からは教えられんがな……。
しかしお前には、神器を作ることが出来るという大きなメリットがあるだろう……?
……どちらを取るかは、お前が自分の意思を以って決めるが良い……」
光竜王様の話に乗れば、私には大きなメリットがあるが、大きなデメリットもあるらしい。
大きなメリットというのは、私の旅の最後の一欠片。
大きなデメリットというのは、……まるで正体が分からない。
「――迷っておるのか……? ……それならヒントくらいは与えてやろう……。
そのデメリットというのは……宗教観で言うところの、いわゆる『試練』というものだ……。
お前自らが変わるものでは無い。仲間が変わるものでも無い。
……故に、お前の仲間たちと乗り越えていけば良いだろう……」
頼まれもしないのに、光竜王様はヒントを出してくれた。
きっと光竜王様としても、この機会に転生をしたいのだろう。
光竜王様――……完全無欠の荘厳な竜王だと思っていたけど、何だか少しだけ可愛いかもしれない。
それに、辛い試練が待っていようとも、きっとルークとエミリアさんがいてくれれば、乗り越えられる気がする。
それならば、私の答えは――
一度、ルークとエミリアさんの顔を見る。
二人は強く頷き、私の決意を後押ししてくれた。
「――分かりました、光竜王様の助力をさせて頂きます!!」
この返事から続く未来を、私たちはまだ知らない。
しかし、きっと後悔はしないはずだ。……そう、信じたい。