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リク「……やっと、木が薄くなってきた……?」
アイビー
「マジ?あたしもう体力の限界……お腹減った……あと、服がまだちょっと濡れてる……」
リクは笑いそうになりながらも、足を止めた。目の前の木々が急に開け、視界が一気に広がる。
そこに現れたのは、まるで世界が裂けたような崖の先――
断崖絶壁の谷間を、激しい音を立てて流れる一本の巨大な川。その川は遥か上空へと、逆巻く流れを作ってそびえていた。水はまるで空へ向かって落ちていくように、逆流している。
川の始まりには、苔むした石碑のようなものが立っている。そこには不気味に歪んだ文字でこう刻まれていた:
無限上流-Infinity Stream
“流れに抗う者、真実へ近づく”
アイビー
「はぁ!?登るの!?ねぇ、やばくない?てか、どうやって!?滑るじゃん!死ぬじゃん!!」
リクは目を細め、水の流れと崖の地形を観察する。苔の生えた岩、ツタ、崩れかけた足場……
すべてが不安定で、少しのミスで命を落としそうな場所だった。
リク
「行くしかないよ。DreamCOREで立ち止まっても、何も変わらない。僕たちは……先に進むんだ」
アイビー
「リクって、ほんとたまに主人公みたいなこと言うよね」
そう言いながらも、彼女はバックから手袋を取り出し、手に装着した。
アイビー
「じゃ、行こうか。もう慣れてきたし、ヤバい世界」
リク
「……僕は全然慣れてないけどね」
ふたりは視線を交わすと、崖に刻まれた細い足場へと足をかけた。
無限上流――重力に従う水流に抗い、上へ上へと進む命がけの旅が、いま始まる。
ざああああああああっっ――!
怒涛の水音。水は下へと流れているはずなのに、目の前の現実では真上へと駆け上がっている。全身を叩きつけるような飛沫が、二人の視界を何度も曇らせる。
足元は滑りやすいツタと岩場で構成されていて、ほんの少しの油断で滑落しそうになる。
リク
「……っ、これでまだ25メートル……!?信じられないな……」
標高に対してまったく視界が開けない。まるでこの“無限上流”は上昇する者を拒むように、足元ばかりを見せている。
アイビー
「はぁ……っ、ちょ、リク、ちょっと休もう!もう足が、足がー!!」
二人は近くのツタが絡まる安全そうな突起に腰を下ろす。
風は強く、冷たい。だが、それよりも体を冷やすのは、水と高度による恐怖だった。
リク
「見て、あの岩……濡れてるのに苔が全然生えてない。酸性が強いのかも」
アイビー
「よくそんなこと気にしてるね!?私なんて今、頭の中“落ちたら死”しかないんだけど!?」
それでもアイビーは、笑った。
この恐ろしい状況で、隣に誰かがいる。それだけで少しだけ、笑う余裕ができる。
リク
「……でも、妙だよね。この川、どうしてこんなに高く流れてる?重力がそのままなら……本来、ありえない」
アイビー
「うーん……夢だから?この世界、マジで物理をナメてるよね」
空を仰ぐと、遥か上方には逆巻く流れの先に淡く光る門のようなものが見える。
だが、そこに到達するためには、まだ何百メートルも登らなければならない。
リクはふと手帳を開き、水濡れでにじんだ文字の隙間に何かを書き込む。
リク(心の声)
「……どこまで行けば、“出口”が見えるんだろう」
アイビー
「リク、そろそろ行こ。止まってると寒いし、私、手が凍りそう」
立ち上がったリクは、一瞬だけ躊躇してからうなずく。
リク
「うん、行こう。……また、“上”を目指すんだ」
水流を必死に登っていくと、やがて川の壁面に円形に並んだ浮遊石の床が現れる。
5つの石が円を描くように並び、その中央にはかすかに青白く光る結晶が浮かんでいる。
アイビー
「……なにこれ、足場……?止まっていいの?」
リク
「おそらく……。見て、流れもここだけ不自然に緩やかになってる」
ふたりは石の上に慎重に降り立ち、息を整える。
空気はひんやりとして、まるで眠りを誘うような心地よさを漂わせていた。
アイビー
「……夢の中って、こういう場所に“誰か”がいたら安心するのかもね」
リク
「誰か……?」
アイビー
「ううん、なんでもない!さーて、おやつにしよっか!」
リュックから取り出したクラッカーとドライフルーツを手渡しながら、アイビーは笑う。
リク
「まさかここに来て、こんな本格装備が役立つとは……」
二人は食事をしながら、次のルートの確認をする。
結晶の光は、微かに周囲の空間を“スキャン”しているようにも見えた。
リク
(心の声)
「この上にも同じような場所があるとすれば……何か意図があるはずだ。
設計された夢、もしくは……誰かの意識の中……?」
休息も束の間、再び川を登る音が空間に満ち始める。
アイビー
「よーし、次の50m、いっくぞー!!」
川を遡る夢のような風景。
標高67m地点に到達したリクとアイビーは、細く突き出た岩の上で小休憩を取っていた。
吹き上げる霧混じりの水しぶきが2人の身体をじっとりと濡らす。
アイビーは気にせず靴を脱ぎ、ズボンの裾を絞っている。
ふとした瞬間、リクは横目にアイビーを見る。
――服の素材が濡れて身体に貼り付き、うっすらと肌の輪郭が浮かび上がっていた。
リク(心の声)
「うわっ……ちょ、ちょっとこれは……!?」
思春期の少年には刺激が強すぎた。
脳内で警報が鳴り響く。視線を逸らそうとしたその瞬間、
リクの靴裏が濡れた岩の苔を滑った。
リク
「うわっ――――っ!!?」
バランスを崩したリクの身体が、岩から川へと落ちる。
アイビーが慌てて手を伸ばすが、間に合わない。
アイビー
「リク!!?なにやってんのよーーっ!!?」
ごうごうと音を立てる川に、リクの姿が吸い込まれていく――
リクの身体は空気を裂き、下へと落下していく。
耳元で風と水の轟音が混じり合い、景色がぐるりと回転する。
リク(心の声)
「やばい――!このままじゃ……!」
意識が混濁しかけたその時、目の端に突き出た岩の縁が映る。
反射的に手を伸ばすリク。
ガッ!!
手が滑りそうになりながらも、辛うじて岩に生えた蔓のような植物を掴んだ。
足元を見れば、そこは標高56m地点――
あと少しで50m地点の岩棚に叩きつけられるところだった。
リク
「っ……! ま、間に合った……!」
腕が震え、指がかじかんでくる。
水が全身を打ちつけ、気温も低く、体力の限界は近い。
上の方からアイビーの声がかすかに聞こえる。
アイビー
「リクー!? 大丈夫!? 返事してぇぇっ!!」
リク
「い、生きてる!……けど、ヤバいかも……!」
蔓は徐々に引きちぎれそうになっている。
時間は、あまり残されていない――。
アイビー
「リクーーッ!! お願い、応えてよ!!」
リク(心の声)
「まったく……こんな終わり方……冗談じゃない……!」
水飛沫の中で、目を細めながら上を見上げるリク。
しかし――
蔓は裂け、ついに限界を迎える。
リクの手が離れ、身体が宙に浮かぶ。
その瞬間。
リク(心の声)
「……俺は、まだ……答えを見つけてないのに――!」
――そして、彼の身体は再び水の中へと落ちていった。
リクはどうなってしまうのか!!!