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「わわわ、泣かないでください」
「トラゾーが泣くなんてよっぽどじゃん…」
慌ててハンカチを取り出し涙を拭く。
そのまま渡すと、トラゾーさんは躊躇いつつもそれを受け取ってくれた。
「…んや、2人に話したらちょっと楽になった。ありがと。しにがみさんもこれ、きちんと洗って返しますね」
「いつでもいいですし、なんならあげますよ」
静かに涙を流すトラゾーさんはふるふると首を横に振った。
「きちんと返さないと…」
「律儀だなぁ…」
「ぅう…ッ」
楽になった、と言われたものの彼からは堰を切ったように涙が落ちていく。
トラゾーさんの見たことないそんな姿にぺいんとさんと戸惑う。
「トラゾーさん…」
「あんとき、…あ、俺、拒絶されたって、思った…」
俯くトラゾーさんの背中をさする。
「、そのあとは、なんとなく気まずくなって…話題を無理矢理、変えたんだけど…」
「トラゾー…」
理由あっての行動なんだろうけど、あのクロノアさんが意味もなくトラゾーさんを拒否するわけない。
拗れてしまう前にどうにかしなければ、と思っていた矢先、
「ん?あれ、みんなどうしたの?」
渦中の人物の声がした。
ビクッと飛び上がったトラゾーさんは更に深く帽子を被って立ち上がった。
「お、俺、用事思い出したから帰るね!ぺいんと、しにがみさん、…クロノアさんさよなら!」
そのまま教室に入ってきたクロノアさんの横を走り去っていった。
そんなトラゾーさんに首を傾げながら僕たちの方に歩み寄ってきた。
「トラゾーなんかあったの?」
「え?」
「なんかとは?」
「泣いてなかった?」
ぺいんとさんの隣に座って、じっと僕たちを見る目は暗に泣かせた?と言いたげだった。
「(あのトラゾーさんをあそこまで泣かせてんのはあんたなんですけど!)」
なんて口が裂けても言えない。
トラゾーさんの為にも。
あの人はそんなこと言われるのを望んでいないから。
「ほら、その、この前しにがみくんと観に行った映画の話してて、それが感動ものでですね。内容教えたら感極まってトラゾー泣いちゃったんすよ」
咄嗟にそう言ったぺいんとさんに僕も話を合わせる。
「そ、そうそう!僕たちより感性豊かだからこう、うるっときたみたいで」
「………へぇ」
訝しまれてる。
めっちゃ訝しんでる。
「………まぁ、そういうことにしとくよ」
「「、……」」
どうやら見逃してくれたらしい。
「それで?2人は帰らないの?下校時間来ちゃうよ」
スクールバッグを肩にかけたまま言うクロノアさんに声をかける。
「…ねぇクロノアさん」
「ん?」
僕は意を決したように話し始めた。
お節介をやくべきではないのも分かっているけど、大事な友達が泣いているのを見て見ぬフリはできない。
「クロノアさんって、トラゾーさんのこと触ってみたいとか思わないんですか?」
「え?」
ちらっと僕はぺいんとさん見たあと、真っ直ぐにクロノアさんを見る。
「好きな人に触ってもらうと安心するんです。だから、クロノアさんはどうなのかなって」
「…うーん」
顎に手を当てて悩む姿に、ハラハラする。
「トラゾーにも同じようなこと聞かれたけど、…まだ早いかなって」
「それは年齢的なことですか?」
「いや、トラゾーには早すぎるかなって」
「「ん?」」
にこっと笑うクロノアさん。
「多分だけど、俺、すごく泣かせちゃうと思うから」
「えっと…?」
「ほら、トラゾーってそれなりの興味と知識はあると思うんだけど、どことなく疎いところあるでしょ」
「あぁ、まぁ…確かに」
頭いいけど変に抜けてるとこは確かにある。
そのくせ、人懐っこいのか警戒心あるのかよく分からない部分もある。
「なんて言うのかな……なんか、泣かせたくなる?」
「おぉ…クロノアさんから凡そ発せられることのないような言葉が…」
「俺だって男だしね?」
椅子に寄りかかって天井を見上げだ。
「ゆっくり、教え込みたいからさ…まだ早いのかなって」
「それでも、それっぽい雰囲気になったらどうするんですか?」
「我慢するよ?歯止め効かなそうで無理だから」
と、カタリと教室の引き戸が音を立てた。
「「あ」」
音のした方を見ると傷付いた顔をしたトラゾーさんが立っていた。
「ごめん、なさい…帰るとか言いつつ、忘れ物しちゃって…」
ふらふらと自分の席に近寄って机の中からスマホを取り出す。
「トラゾー…?」
「……俺、クロノアさんに無理させてました?」
トラゾーさんは震える手でスマホを握りしめ、画面をじっと見つめていた。
「え?」
「一緒にいるの、嫌でしたか?」
「トラゾーさん?」
良くないところから立ち聞きして、これはとんでもない勘違いをしてる可能性が。
「……無理させてすみません」
そう言って再び飛び出していった。
「なんかとんでもない勘違いしてませんか⁈あの人、一度そう思い込むとなかなか聞き入れてくれませんよ⁈」
「ヤバイって」
2人で慌てている間にはクロノアさんが僕らの前から風のように走り去っていた。
「だ、大丈夫かな…喧嘩して、トラゾーさんもっと泣かされたりしないかな…」
「クロノアさんに限ってトラゾーをこれ以上傷付けるようなことしないと思うけど…」
「うん…」