テラーノベル
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忘れ物をしたことに気付いて、恥ずかしながら戻ってきた時に中を覗き見れば3人で話し込んでる様子だった。
何を話してるかまでは声をひそめてるせいか所々しか聞こえない。
若干の気まずさもあったけど、スマホはないと困ると思って開け放たれている引き戸から中に入ろうとした。
『無理かな』
その声のトーンはいつぞ勇気を出して、自分に触りたくないのかを聞いた時と同じもの。
ガラガラと足元から崩れていくような感覚がして、なんとか保っていた均衡が崩れ去っていった。
「は、はは…」
触りたくない、という明確な拒絶だったのだ。
元々、俺みたいな人間がクロノアさんと付き合ってる自体が間違っていたのだ。
隣にいることさえも、もう。
3人の元は近寄ろうとし、引き戸にぶつかって微かに音を立ててしまった。
その音に驚いたぺいんとたちが俺を見る。
「ごめん、なさい…帰るとか言いつつ、忘れ物しちゃって…」
ふらふらするように自分の席に近寄って、机の中からスマホを取り出した。
「トラゾー…?」
心配そうな声のぺいんと。
じっと電源を落としているスマホの画面を見つめる。
真っ暗な画面には情けない顔をした俺が映っていた。
「……俺、クロノアさんに無理させてました?」
「え?」
どう言うこと?と言わんばかりの顔のクロノアさん。
「一緒にいるの、嫌でしたか?」
「トラゾーさん?」
しにがみさんも心配そうに俺を見ている。
「………無理させてすみません」
もうその場にはいられなかった。
ギリギリで保っていたものが壊れる気がしたから。
だから、逃げるようにして教室から走って出た。
「(…俺、だけが好きだったのかな…)」
好きな人に触って欲しいって思うのはおかしなことなのだろうか。
クロノアさんはどちらかと言えば淡白な方だから、あまりそういうことはしたくないのかもしれない。
俺は口に出したり行動で示すタイプだから、もしかしたら鬱陶しく感じていたのだろうか。
友達の延長線上の触れ合いや、手を繋ぐくらいの付き合いたてみたいなことはあった。
そもそも、男同士という点でダメだったんだ。
考えれば考えるほど、マイナスの方に考えがいって嫌なことばかり頭を占め始める。
底なし沼にハマっていくように、どうやっても悪い方にしかいかなくなって。
息を切らしながら走って逃げて、目に入った教室に飛び込む。
足の速さはあの3人には負けないと自負している。
途中まで俺を追っていたと思う足音は途中から聞こえなくなったから。
誰が追いかけてきたのかは分からない。
振り向くのが怖かったから。
あの人だったら、何かが揺らぐ気がしたから。
「は、っ…はぁ…は…ッ」
早鐘を打つ心臓は走ったせいか、傷付いているせいか。
その両方であろう。
すごく息をするのが苦しい。
「、ふ…ぅ…」
ボロボロと泣く姿を見られたくなくて教室の隅に座り込む。
幸いなことに空き教室のようで人はいない。
放課後でもあり、部活も今は中止期間である為静かだ。
「も、ぅ…おれって…」
その場に蹲り、もう消えてしまいたいと思った。
そう思った時、ガラガラと引き戸の開く音がして体が強張る。
クロノアさんだったら逃げ場がない。
他人だったらどう説明しよう。
ぐるぐるといつもより回らない頭で考えていた。
「…トラゾー?」
「へ……?」
顔を上げた瞬間、ズレていた帽子が外れて視界が明るくなる。
「⁈、どうした?泣いてるじゃんか!」
「らっだぁさん…?」
座り込む俺の傍に駆け寄るその姿に力が抜ける。
知り合いというか心を許す人で良かったと思った時には涙が止まらなかった。
「わわ、ちょっ…どうしたのよ」
子供を慰めるように頭を撫でられながら背中をさすられる。
「は、ははっ…おれ、」
疲れたな。
そう思った時には声を出して情けなく泣いていた。
コメント
2件
ありがとうございます(*´◒`*) そう言ってもらえるだけでも嬉しいです!
話に飲み込まれてていつの間にかいいね押すことを忘れてしまっていた自分が情けない…(褒めてますしめっちゃ気に入ってます!)