テラーノベル
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準備万端で入った氷ダンジョン一階。
「さすがに寒くないけど、外よりちょっと寒い程度の認識で入ると凍死は確定かなぁ」
「ダンジョンが凍死のみ遺体が残るようにしたのも理解できる寒さじゃな」
氷ダンジョン内でもペーシュが一人でサポートすると申し出てくれたのだが、彩絲と雪華、ノワールとランディーニが頭を下げて任せてほしいと懇願したようだ。
ペーシュは、まぁ我の出番は何時でもあるしな、と案外簡単に引っ込んだらしい。
ただ私に危険が及んだ場合は断りなく介入する、と約束したとのこと。
彩絲と雪華は勿論、ノワールですらしっかりと冬の登山仕様の装備をして挑んでいる。
ちなみにランディーニは特別な冬毛仕様で完璧じゃぞ? と羽で私の両頬を包んでくれた。
なるほどと感心してしまう、素敵にもふもふの羽毛だった。
「あー早速遺体だけど、どうする?」
雪華が呆れたように肩を竦めた。
確かに一階の入り口付近で凍死とは、認識が甘すぎて手を差し伸べるのも迷うレベルだ。
「五人おりますね」
淡々とした口調でノワールが遺体のそばに腰を屈めた。
「外にいるのと変わらない服装なのは呆れるしかないのぅ……しかも、即時戻ろうとした者を引き留めておるな? こいつだけ置いていくべきかもしれぬぞ」
彩絲が無理に見る必要もないと咎めてきたが、そっと覗いてみる。
一人の遺体が二人の腕をしっかりと掴んでいた。
一人で死にたくないと思った結果がこれなら酷すぎる。
「……それでも、全員連れて行きましょう。ノワール、お願いできる? しかもこのままの状態で」
「畏まりました」
巻き込んだ人間は、巻き込まれた人間の蘇生費を最低でも負担してほしい。
悪評高い冒険者ギルドでも、それぐらいの手配はしてくれるはず。
……っていうか、まだ聞けていない。
彩絲の祖母さん、どうして放置しているんだろう。
私たちが足を運んだ冒険者ギルドの雰囲気はそこまで酷いものではなかった。
しかしイグナーツが語る冒険者ギルドや冒険者はかなり最悪だ。
氷ダンジョンを踏破したら、がっつりと質問に行こう。
腕を組んで考えている間に、ノワールが現場をそのまま保持して遺体を収納する。
私を除けばノワールの異空間収納が一番容量があり、細かく仕分けもされているらしい。
遺体専用のスペースもあると聞かされたときは驚いた。
脳筋冒険者の主人に仕えていたときは、かなりの頻度で使用していたようだ。
自分がかなり過保護に護られているから忘れがちだが、この世界では死が常に隣り合わせに存在している。
条件が揃えば蘇生できるとはいえ、生命の価値の低さは変わらないだろう。
「では気を取り直して……行こうかのぅ。氷ダンジョンは異世界スイーツが満載じゃ。ほれ、こっちも早速やってきたぞ。あれはブーザとドンドゥルマじゃな」
服ダンジョンで服が踊るようにやってきたのには驚かされたが、氷ダンジョンでは冷たいスイーツが踊りながらやってくる。
キューブアイスやスティックアイスと呼ばれる飲食用の氷も出るが、高額取引されるのはスイーツなので、冷たいスイーツのダンジョンという認識が一般的と聞かされた。
「え? ブーザはわかるけど、あれってドンドゥルマなの?」
「レアなドンドゥルマじゃよ。カダイフの上に乗っておる」
どこに突っ込みを入れたらいいかわからない。
ドンドゥルマはカダイフのうえにちょこんと乗っており、時々上に向かって伸びている。
ブーザは見た目ロールケーキのように巻かれていて、ころころと転がってきた。
汚れたら食べられない……と反射的に思ってしまったが、ドロップするのは別物のドンドゥルマにブーザだ。
その点を心配する必要はないだろう。
「え?」
上に向かって伸びていたドンドゥルマが、こちらに向かって伸びてきた。
先端が鋭くなっており、回転までしている。
まるでドリルのようだ。
「ウインドカッター!」
ランディーニの魔法でカダイフごと真っ二つに切られた。
隣で転がっていたブーザ共々瞬殺だ。
「オーバーキルな気もしますが、ドンドゥルマの先端は人の皮膚を裂きますからね。的確な判断だと思います」
おぉ、ノワールがランディーニを褒めている!
ペーシュと夫の言葉は大変効果があったようだ。
ドロップアイテムはころころと転がった。
ガチャガチャのカプセルを大きくした物に似ている。
「氷ダンジョンのドロップアイテムは特別なのじゃ」
「そそそ。このボールの中に入っている間は、溶けないんだよね」
「ボールを手にした状態で『食べます!』と宣言しないと、ボールは割れぬぞ」
「収納場所は取りますが、食品が劣化しないのは本当に有り難いのです」
なるほど。
特殊なシステムらしい。
凍死者の遺体が残ったり、ドロップアイテムをしっかりと保存できる状態にしたりと、このダンジョンマスターは随分と働き者のようだ。
ドロップアイテムの鑑定を興味津々の心持ちで試みる。
氷ダンジョン専用保管庫
ボール状。
中身が劣化しないように時間停止の効果が施されている。
ボールが転がっても、中身は固定されている安心仕様。
必要であれば、ダース単位でドロップさせますよ?
は!
鑑定で話しかけられた。
人にプレゼントするには便利かもしれないなぁ。
私自身は素敵な収納を持っているから、なくても大丈夫だけど、あったら嬉しい。
「ん? 何か気になることでもあったのかぇ、アリッサ」
「鑑定で『必要であれば、ダース単位でドロップさせますよ?』って出たから……」
「はい?」
「……奥方はどこまでも規格外じゃのぅ……」
「何かと便利ですので、是非ドロップをお願いしたいです!」
ノワールの食いつきが凄い。
彼女なら便利に使いこなしそうだ。
「じゃあ、お願いしておくね」
氷ダンジョン専用保管庫、ドロップお願いします!
了解しました!
は!
脳内に何処か社畜を思わせる声が聞こえた。
ダンジョンマスターの声だろう。
む、無理はしない方向で!
ありがとうございます!
やはり社畜……。
癒やし系のアイテムでも差し入れしようかしら。
できるかしら。
「アリッサー」
「あ、はいはい。ごめんね。今度は中に入っているスイーツも鑑定したいから、もう少し待っていてね」
ブーザ
刻んだスタッチがたっぷりとまぶされた伸びるアイスクリーム。
ロール状に巻かれている。
お餅のような食感。
食べ応えがあります。
お皿付
ドンドゥルマ レア
伸びるアイスクリーム。
滑らかな舌触りで、もっちりとした食感。
器の代わりにカダイフが使われている。
カダイフにはナッツやドライフルーツがふんだんに使われており、食感が楽しい。
お皿付
あ、あちらの世界については書かれていないんだ。
ドンドゥルマ、別名トルコアイスくらいの説明はあるかなと思っていたんだけど。
あくまでも異世界仕様ってことなのかな?
個人的には美味しければその当たりは気にならない。
あちらの影響があるのだとしても、ここまで世界各国の氷菓が食べられる場所はたぶんないだろうしね。
嬉しいなぁ。
夫と食べたい。
異世界で手に入れたアイテム、帰還するときに全部持ち込めないかしら。
食べ物だけでも。
夫としか食べなければ許される気がする……。
「どうだった?」
「美味しそう!」
「ほほほ。何ともアリッサらしい。本当に美味だから安心するがよいぞ?」
微笑ましげな顔をされてしまった。
ま、まぁ美味しいは、正義なのでよしとしよう。
「では、引き続きゆくぞ!」
「……モンスターが渋滞しているのに、襲ってこないとか……明らかにダンジョンの意思を感じますね」
ノワールの言葉に私は苦笑で返す。
何しろ、一階で出現するらしいモンスターがずららっと二列縦隊で並んでいたのだ。
他の冒険者が見たら絶句するだろう。
「有り難いよねぇ」
「その感想も、何ともアリッサらしいよねぇ」
何故か雪華が呆れた声でそう言った。
他の三人もうんうんと頷いている。
……解せぬ!
スパゲッティを模したアイスと果実入りアイスが重なったモンスターが仲良く現れた。
ドイツとイタリアのアイスかな?
こちらでも仲良しなのかしら……と、某作品のイメージのまま頷く私の横で、今度はノワールがさくっと箒で倒してしまった。
私の出番は来るのだろうか。
来ないのかもしれない。
などと思いつつ、私はドロップしたアイテムをさくっと鑑定した。
シュパゲティ・アイス
スパゲッティを模しているアイスクリーム。
下から順番にこっそり嵩増し用のルミクリーム、麺を模したバニラアイス、トマトソースを模したロベリートスソース、パルメザンチーズを模しているのは細かく刻んだホワイトチョーコレト。
更に飾りとしてハート型のウェハースが頂上に鎮座。
お皿付
スプモーネ レア
赤、緑、茶色の三食一セットの果実&ナッツのアイスクリーム。
ポメグラネイトン、メロメロン、マローンチョーコレト。
刻んだチェリリン(サクランボ)の果肉が入っている。
一番多い組み合わせは、チェリリン、スタッチ、チョーコレト。
お皿付
「あ、レアってお皿が豪華なんだね」
「ん? 言われてみれば柄付きだね。シンプルな白皿もいいと思うけど」
「使い勝手は白皿の方が良いかも知れぬな」
指摘されるまで気づかなかった。
どれだけスイーツそのものにしか興味がないのだろう。
まじまじと見ればスプモーネの載っているお皿は、可愛らしい小花柄だった。
「早速ドロップしたようです。主様もいくつかお持ちになりますか?」
ノワールが氷ダンジョン専用保管庫を手に問うてきた。
即座に一ダースドロップしたようだ。
全くダンジョンマスターは仕事が速い。
「まだ出ると思うから、最終的に一ダースもらっておこうかな?」
「了解いたしました」
「私たちも欲しいなー」
「我もな」
専用保管庫が大人気だ。
食べ物に限らず、個別に状態維持できるアイテムらしいので、使い勝手がいいのだろう。
「……おや? 妾たちの得物を横取りしようとしている輩がおるようじゃぞ?」
和気藹々とやり取りをしていれば、二列縦隊最後尾のモンスターたちに挑んでいるパーティーがいる。
人数は三人。
年齢は二十代~三十代。
女性のみのパーティーだ。
「うーん。でもこの状況はそもそもおかしいから横取り判定はされないかも?」
「横取り判定はされないかもしれませんが……モンスターが許さないようですね」
「ふむ。そもそも一階のモンスターじゃ。一体相手にあそこまで手こずるのはおかしいわい」
「実力がないだけなんじゃないの?」
ふんと鼻息が荒い雪華は、横取りされたと思っているようだ。
「ちょっとー! 助けなさいよー!」
女性の一人が声を上げる。
助けを求める台詞じゃない。
「助けを求める態度じゃないわねー」
雪華が大声で返事をした。
その声に反応したように、大人しく順番待ちしていたモンスターが彼女たちに襲いかかっていく。
そうだよね、これが正しいモンスターの反応なのだ。
「人数多い方が助けるのが、当たり前でしょ!」
「違います」
「じゃな」
ノワールと彩絲の返事は届かないだろう。
しかし一歩も動くつもりがないのは伝わったようだ。
「信じられない! 帰還したら言いつけてやるんだからっ!」
「馬鹿じゃな。口にせなんだら、生きて帰れたやも知れぬのに」
冷ややかなランディーニの言葉に全員が頷く。
私も倣っておいた。
「ふざけるなあああああ!」
断末魔は罵声だった。
最後まで期待を裏切らないパーティーだ。
三人いたら一人ぐらい真面な人がいてもよさそうなものだが。
朱に染まれば赤くなってしまったのかもしれない。
「あら、呆気ない」
「ま、その程度の実力だったのじゃな」
「……遺体は残らないようですね」
「我らの邪魔をしたのじゃ。当然の報い」
本来のダンジョンと同じく、遺体は即座に吸収されてしまった。
「あ、装備は残っているのね」
「届ければ謝礼が出るのぅ」
「横取りの話をすれば、慰謝料も出ますね」
モンスターがいそいそと並び直すのに、若干不憫な眼差しを向けつつ、回収に向かう。
「……あら。貯め込んでいるわね」
さくさくとマジックバックの中身を漁った雪華が、意外だ! と声を上げた。
「ダンジョン探索で稼いだのではなく、男たちに貢がせたのじゃろ」
彩絲が素っ気なく呟く。
たぶんそれが真相で間違いなさそうだ。
柊麻莉彩 ひいらぎまりさ
HP ∞
MP ∞
SP ∞
スキル 鑑定∞
偽装∞
威圧∞
奪取スキル 生活魔法 育児 統率 礼節 謀略 地図
王宮料理 サバイバル料理 家庭料理 雷撃 慈悲
浄化 冷温送風 解呪 神との語らい(封印中)
ウインドアロー ウインドカッター
固有スキル 弱点攻撃
魔改造
簡単コピー
特殊装備品 *隠蔽中につき、他者には見えません。
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特殊アイテム
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魚屋紹介状
衣類屋紹介状
称号 時空制御師の最愛
コメント
1件
紗葵さん、第153話読み終わったよー!😭💕 氷ダンジョン、寒そうだけどスイーツがめっちゃ美味しそうでテンション上がる!!特にドンドゥルマとかブーザとか、異世界スイーツの描写がリアルでお腹空いてきた…笑 あと、凍死体の描写はちょっと切なかったな…「一人で死にたくない」って気持ちが遺体に残ってるの、胸が痛む😢 でも最後の社畜ダンジョンマスターのノリ、めっちゃ笑った!「了解しました!」って脳内に響くの、なんか愛おしいキャラだね✨ 次話も絶対読みます!楽しみにしてるよ〜!❤️
#女主人公
主
86
#体格差