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朝。都比はいつものように友達数人と話しながら、令夏は黙ってさっさと自転車をこぎながら学校まで着いた。教室でやっと顔を合わせた二人。お互いに挨拶をしてから会話は全く進んでいない。しばらくの沈黙が続いた。
令夏「ねえ」
都比「?」
令夏「これからは令夏って呼んでくれない?私も都比って呼ぶからさ」
都比「何で?」
令夏「私達はこれから長い付き合いになる。名前を呼ぶことも増える。その時、魁さん、一ノ木さんより令夏、都比の方が効率的だから」
そういえば魁図書館であんなことができるのを知っているのは自分だけだと思い出した都比。これからも関わっていくことに驚いたが、それ以上に令夏が話しかけてくれたことにドキドキする。顔も少しだけ熱くなったとかならなかったとか。
都比「分からないけど分かったよ、令夏」
学校も終わったので今日も今日とて魁図書館へ。自動ドアの右隣、絵本コーナーの奥には部屋というよりスペースといった方がいいような本の修理部屋に連れて行かれた。 本当は本を読むための机椅子はあるが、そこは一般客もいるので使えない。
都比「でも関わるったってどうするんだよ。俺、現状登場キャラクターになって実際に物語を進められるって事しか知らないぞ?」
令夏「実はああいうことができる本があらわれたのも意外と最近で…まだ謎も多い。誘ったのも都比となら一緒に解明できるかなって」
都比「俺達、たまに挨拶する程度だったろ…」
とはいえ信じてくれたのは事実ということでお互いに協力を約束。解明にまずできるのはとにかく本に入りまくること。実はあの本は好きなように好きな本に入れるわけではないという令夏。自分が羅生門のことを知りたいと思っていた日に羅生門に入れたのは運が良かったのかなと心の中で都比がツッコむ。令夏も話しかけられた瞬間はそんなことあるぅ⁉︎と言葉を失っていたという。今は誰もが知っているであろうあの作品に入れるということで…
令夏「都比は…この人、知ってる?」
都比「あ、『走れメロス』の←最近、国語で習っている」
令夏「そう。今回は太宰治の『カチカチ山』を見るんだけどね。ちょっと私なりに解説しようかなって」
都比「おー」
令夏「昔話のカチカチ山は知ってる?」
都比「うん…少しなら。今は大分マイルドになったけど原作はもっとドギツイ話だって聞いてる」
令夏「だって原作のタヌキはおばあさんを殴り殺してその肉が入った汁をおじいさんに食わせたんだから。きっと骨が散らばって…」
都比「やめろやめろやめろ」
令夏「だからウサギに背中焼かれるわ、傷口に唐辛子ぬられるわ、泥舟に乗せられた挙句殴られるわ…」
都比「怖い怖い怖い。確かに他の昔話に比べると荒っぽいというか…」
令夏「だからおばあさんにケガさせただけって変わったの。で、今度は逆にタヌキが可哀想って言われるようになっちゃって…」
都比「難しいところだ…」
令夏「それで、太宰治のカチカチ山はウサギがアルテミス型の16歳の女の子、タヌキが愚鈍で大食で助べえな中年男性っていう考察で描かれた話。タヌキはウサギに恋をしていて、縄から頑張って抜け出したのはウサギに会いたかったから」
都比「なのにあんな目に…辛辣…ん?アルテミス?」
令夏「狩の神で処女の女神。特徴としては小柄、胸が小さい、平気で残酷なことをするなど」
都比「ふーん。じゃあ令夏がどんな人って聞かれたらアルテミスみたいな人って答えy」
令夏「あ?」
都比「さーせん…」
令夏「えっと…つまりタヌキは何もしてないのにおじいさんに捕まったんだから、逃げるためならおばあさんにちょっとくらいはケガさせるんじゃない?正当防衛の範疇では?」
都比「ケガで済ませるとそうなるか…」
令夏「太宰治の娘も防空壕で読んでもらった時にタヌキさん、可哀想ねって」
都比「そりゃそうなるか…」
令夏「あと、太宰治はどうせならもっと堂々とやるべきではとも言ってる」
都比「堂々としてればいいのか…」
令夏「もうため息つきながら書いてるって書いてあるもん」
都比「そりゃ当然すぎる反応なんだろうけど……」
以上の解説を経て二人でカチカチ山の世界へ入った。都比がウサギで令夏がタヌキ。逆じゃない?と都比の文句が飛んできたが、私も前、下人やったしと令夏。いざ物語が始まる。俺にはできないと最初は拒否していた都比だが、令夏の早く終わらせたいという気持ちに答え、なんとか進める。その中では都比の謝罪の声と令夏の断末魔がひたすら響き渡る。令夏(タヌキ)が泥舟に沈むと同時に都比(ウサギ)も湖に飛び込み、物語は終了。元の世界へ帰還。ちなみに本の中で受けた傷は元の世界に帰還できればリセットされるという。
令夏 都比「疲れた…!」
令夏「教訓!女性には無慈悲なウサギが住み、男性には善良なタヌキが溺れている!」
都比「お疲れ…」