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「な、んでっ、そんなこと言うんですかっ」

寝室の扉を背に、パジャマ姿の日和美ひなみはスウェット上下の信武しのぶと押し問答の真っ最中。


――と言うのも。



「日和美、今夜なんだけどな」


「ご自宅に戻られるんですよね?」


「はぁ!? んなわけねぇだろ!」


記憶も戻ったようだし、夕飯を食べ終えたらてっきり自宅へ戻ってくれると思っていた信武なのに、至極当然のようにそのままここへとどまると言い出して。


このひとは、一体全体何を言い出すんでしょうね?と思った日和美だ。


そう言えば夕方にも『ことに関しちゃ、日和美も異存はねぇみてぇじゃん?』とか意味不明なことを言っていたのをふと思い出して。


日和美は(え? あれって冗談じゃなかったの?)と背筋を凍らせた。


大体おかしいと思ったのだ。


夕飯後、信武は当然のように風呂へ入ると言い出したのだから。

今から自分のマンションに戻って風呂の湯を溜めたりするのが面倒なのかな?と思い直した日和美は、そのまま外を出歩いても大丈夫そうなスウェットの上下とタオルを用意して。

「なぁ、せっかくだし一緒に入んね?」などと寝言をかす信武を「生憎あいにくと、せっかくの要素を見つけられません」と溜め息まじりにあしらって風呂場へと押し込んだのだけれど。


風呂から上がるなり日和美の混乱に追い打ちをかけるように一緒の部屋で寝るとか言い出したからたまらない。


「風呂は我慢してやったんだから寝るのはお前が譲歩しろ」


などと訳の分からない持論を振りかざす信武に、冒頭のセリフ。


「な、んでっ、そんなこと言うんですかっ」

を発動した日和美だ。


本当、何故そんな馬鹿なことを言い出したのでしょうね!?と眉根を寄せて、禁断の秘密の花園へと続く扉の前。

信武を寝室なかへ入れないよう一生懸命通せんぼをしながら、日和美は困惑しながら眉根を寄せる。


「何でって……お前、俺の彼女になっただろーがっ」


言われても、それとこれとは話が別だと思ってしまうのは、日和美の恋愛偏差値が低すぎるからだろうか?

そもそもあれは不破ふわに対して告げた言葉で、信武しのぶへのものじゃないと断言できる。


「大体今までだってずっと記憶のねぇ俺と一緒に寝起きしてたんだろ? 何を今更そんなに必死になって拒否る必要があんだよ。そんなに〝俺〟は嫌で〝不破〟なら良いのかよ」


言われて、日和美は信武が盛大な勘違いをしていることに気が付いた。


「ふ、不破さんとも一緒の部屋で寝たりしてません!」


身体ごとこちらへ寄せてグイグイ迫ってくる信武をギューッと腕を突っ張ってあちら側へ押しやりながら懸命に言ったら「はぁ!?」と頓狂とんきょうな声を浴びせられる。


「まさか俺、記憶喪失の間に不能になっちまったって事か!?」


言うなり心配そうに自分の下腹部を見下ろす信武に、日和美は思わず「そんなことありません!」と叫んでから、とんでもないことを口走ってしまったと真っ赤になる。


いや、でも……確かに日和美がルティとして添い寝を余儀なくされたあの朝。

恥ずかしかったので考えないようにしていたけれど、不破の下腹部からは確かに男性としてのいわゆる朝の生理現象があったのを何となく肌で感じたのを覚えている日和美だ。


だからこそ不破だってきっと、あのとき日和美に不埒なことをしなかったか心配したのだろう。



「なぁ、その口ぶりからすると……もうその辺はとお試し済みってこと?」


何故か「何か……すげぇムカつくんだけど」と付け加えられた日和美は、全身がカッと火照るのを感じながら首をぶんぶん振った。


「そっ、そんなわけないじゃないですかっ。不破さんは付き合ってもいない女の子にそういう下世話なことをする人じゃありません! ――あ、あの日は……色々あってただ添い寝しただけです!」


「……添い寝?」


日和美は恥ずかしさをそそぎ落としたい一心だったから、自分が告げた不用意な発言で信武の眉が不機嫌そうにピクッと動いたことになんか微塵も気付けなかった。


「なぁ、その添い寝とやらは一体どっちから仕組んだんだ?」


「え? どっちから……って」


信武の声があからさまにワントーン低められたことに気が付いてやっと。恐る恐る彼の顔を見上げたら、怖いくらい真剣な目で見下ろされていて……期せずして心臓がトクンと跳ねてしまう。


これはきっと怖くてそうなったに違いないと、必死に自分へ言い聞かせながら、日和美は懸命に言い募った。


「わ、私がっ。……眠ってる不破ふわさんのお顔を不用意に覗いたりしたから……その、る、ルティちゃんと間違えられて……。それで……グイッと」


「は? お前……寝てる男の顔覗き込んだのか。……一体どう言うシチュエーションだよ」


「あ、あのっ、信武さんが思ってらっしゃるような変なアレじゃなくて……。ただっ、不破さんのことが色々心配だったので、つい……。その……ほんのでちょっぴりだけ彼の上に覆い被さってしまったに過ぎないんですっ。……断じて他意はありません!」


しどろもどろ。

テンパるあまり言わなくてもいいことまでバカ正直に交えながら。


「――あの時の私っ、本当に下心はしかなかったんですっ!」


言えば言うほど信武の目がすがめられて不穏な空気を漂わせているのに気付けないまま、日和美はどんどん墓穴を掘り進める。


「――お前さぁ、俺が強引な感じで迫るのがダメって口振りだけど……不破だった頃の俺に対する日和美の態度んが、よっぽど今の俺以上じゃねぇか」


日和美の伝え方が悪かったんだろうか。

もちろん自分は不破に対して全然強引なんかじゃなかったし、絶対に信武以上の押しの強さだってなかったのに。


なのに――。


「結局んトコ、不破だったころの俺だって据え膳食わぬは男の恥って感じでお前のこと布団に引きずり込んだわけだろ? ――今の俺とどう違うのか、俺が納得いくようちゃんと説明してみ?」


「ぜっ、全然違うもんっ!」


「だからそこ、具体的に」


思わず否定してみたけれど、すさかず信武に先を促されて。

日和美はどう口を開いてもドツボにはまる気がして、うまく説明できないもどかしさにグッと言葉に詰まった。



「ほらみろ。結局説明出来ねぇじゃんよ。――で、何だっけ? 〝不破さんは付き合ってもいない女の子にそういう下世話なことをする人じゃありません!〟だっけか」


オマケにこの記憶力の良さ。


日和美は、自分が大きくて強い女郎蜘蛛じょろうぐもの仕掛けたわなに絡めとられた非力な羽虫にでもなったような気持ちでオロオロと信武を見上げる。


「じゃあさ――」


先程日和美が勢いに任せて口走った言葉を一言一句たがわずスラスラと続けると、信武が含みをたっぷり感じさせる表情でニヤリと嘲笑わらうから。


その笑顔にゾクッと身体をすくませたと同時、グッと腰を引き寄せられて「俺たち、もうし、そういう下世話なことしても許されるんじゃね?」とか。

語るに落ちるとは正にこのことなのではないかと、日和美は自分の軽率な発言に歯噛みした。


それでもやっぱり不破と違って信武が相手だと添い寝だけではすみそうにない気がするから。


「でも……でも……でも……。私……」


上手い逃げが見つけられなくて涙目で信武を見上げたら、「……そこまでイヤかよ」と至極悲しそうな顔をした信武に小さく吐息を落とされた。


日和美はその表情と声音に、何だか自分が信武に物凄く酷いことをしている気持ちになってしまう。

溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜

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