「だって……私、ずっと……彼女と比べられて生きてきましたから……。〝リリアンナ様の方が綺麗だ〟〝リリアンナ様の方が気品がある〟〝リリアンナ様なら、もっとちゃんとしている〟って……」
ダフネの父ダーレンは、兄であるデンサイン伯爵から、おこぼれのような仕事をもらって細々と生計を立てていた。母・エダはいつもそんな父に吐息を落とし、『あなたが長男だったら、ダフネも私ももっといい生活が出来ていたのに』とぼやいていた。
エダは娘のダフネを可愛いと絶賛してくれたけれど、多くの者たちがあんな異国の色をした薄気味悪いリリアンナの方を褒め称えていた。
――リリアンナ様がダフネみたいなお色で生まれていらしてたら……もっともっとお美しかったでしょうに。何でダフネの方が赤毛じゃなかったのかしら。本当残念。
そう下女たちから陰口を叩かれるたび、ダフネは腸が煮えくり返るような思いに苛まれてきたのだ。
(せっかくデンサイン伯父様が亡くなって、お父様が伯爵家を乗っ取ったって言うのに!)
ここの領主ウィリアム・リー・ペインと、その友とか言うランディリック・グラハム・ライオールにまたしても全てを奪われてしまった。
(以前より落ちぶれた暮らしを余儀なくされているのだって、全部全部お姉さまのせいじゃない!)
セレンはダフネの言葉に眉をひそめている。
このまま放置していれば、きっと、リリアンナを庇うセリフを紡ぐだろう。
(そんなこと、させない!)
ダフネは強い意志を持って、スッとセレンへ近付いた。
「――ねぇ、セレン様。もし……〝リリアンナお姉さまじゃなきゃ嫌〟なんだとしても……」
そこまで言いかけ、ダフネは苦しげに目を伏せ、細い肩を震わせる。
「……どうか今夜だけは……哀れな私を見て頂けませんか……?」
静寂。
けれど、ダフネはもう止まるつもりはなかった。
夜着のボタンへ手を掛けるとひとつ、またひとつと……前をくつろげていく。
バストを覆う胸布なんて元より身に着けていない。
これをストンと肩から落とせば、パンティだけになる。
――まだ初潮がくる少し前。伯爵令嬢リリアンナ宛の招待状を横取りして、社交界お披露目前の練習会に潜り込んだ。付き人役に落とした本物を連れ歩き、すり替えを疑われたら〝保険〟にするつもりで。
その夜、ダフネはどこかのお坊ちゃまをたぶらかした。ふくらみかけの胸にさえ夢中で、髪を乱され、口づけの仕方と触れられ方を覚えた。
初めてはそのときに済んでいる。夜伽の所作は頭に入っているし、胸の張りにも自信がある。
ダフネは潤んだ瞳をセレンへ向けながら、ほんの少しだけ、胸の膨らみが見えるように前をはだけさせた。
「あなたがリリアンナお姉さまを望む気持ちは分かっています。みんなそうでしたから。でも……今夜だけは……私を見て? 私を感じて? 私の方があなたに相応しいって……気づいて下さい……」
コメント
1件