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「ところで……柴田しばたさんにとって、春凪はなさんは跡取り娘さんですか?」

父の心をガッツリと掌握しょうあくした辺りで。

不意に宗親むねちかさんが声のトーンを少し変えてそうおっしゃった。


宗親むねちかさんのその言葉に、頬が緩みがちだった父がハッとしたように宗親むねちかさんを見て。

そうしてとてもバツが悪そうな顔をして溜め息混じりに小さくうなずくの。


宗親むねちかさんはそんな父に、心底申し訳なさそうに眉根を寄せると、

「やはり」

つぶやくように言って、憂いを帯びた吐息を落とした。


その横顔がすごく綺麗で、私は思わず見惚れてしまう。



私が子供の頃からずっと言われ続けてきた、「春凪はなは大きくなったら婿養子を取って、息子あとつぎを産むんだよ」という父や祖父の希望ことば


それを私、宗親むねちかさんに話した覚えはなかったけれど、彼はうちの父の先程の物言いから〝跡取り〟なんだと確信なさったんだろう。


私は改めて、宗親むねちかさんのことを凄い人だな、と思った。



「――恐らく柴田しばたさんもお察しの通り、僕も織田おりたの家にとって、春凪はなさんと同じ立場の人間です。なので……僕は柴田家そちらに婿養子として入ることは出来ません。実は本日ご挨拶に伺うに際して、それだけが気がかりだったのです……」


そこまで言うと、宗親むねちかさんはそばにいる私の手をいきなりギュッと握っていらした。


「まぁ!」

途端、お母さんが嬉しそうな歓声を上げて、

「ひゃっ、宗親むねちかさっ……!?」

私がそれをかき消すように驚きの声を上げた。


両親の前で恋人繋ぎの要領でガッツリ指を絡められてしまったのが恥ずかしくて、私、現状からのがれようと頑張って手を引いてみたけれどびくともしないの。

宗親むねちかさんは、そんなに力を入れて握っているようには見えないのに……。

男性の膂力りょりょくにはやっぱり敵わないんだと、私は今更ながら痛感させられる。


お父さんは、怒るでも慌てるでもなく、まるで品定めでもするみたいに無言でそんな私たちを見つめていて。


それが、やけに不気味だった。


(お父さん、ずっと黙り込んでるけど……一体何を考えているの?)


ソワソワと落ち着かない私の手を離さないまま、宗親むねちかさんが、眼前の父をひたと見据えて言った。



「――ですが、申し訳ありません。僕はもう、春凪はなさん以外の女性を伴侶にすることなんて考えられませんし、もちろん、彼女のことを諦めるという選択肢も持ち合わせてはいないのです」


それは、私を手に入れるためならば手段は選ばないと言う決意すら感じさせる宣言で。


さっき、会社のトップの座を誰にも譲るつもりはないのだと明言なさったのと同じ口調で、私のことも手離すつもりはないのだと、宗親むねちかさんが父に高らかに表明なさる。


全ては父を陥落かんらくさせるための宗親むねちかさんなりの作戦だとは分かっていても、本心から彼に「僕が妻になって欲しいのは君だけなんだ」と乞われているように錯覚させられた私の胸は、締め付けられるような痛みを伴って甘くうずいた。



宗親むねちかさんはきっと、自分が欲したものは必ずものにすることを信条としてきた人。



だけど……今回は……今回ばかりは無理なんじゃないかと、私は不安になった。


うちのお父さんもおじいちゃんも、柴田しばたの家を守るためなら手段を選ばない人間だと、私、幼い頃から身につまされてきたから。



宗親むねちかさんの横で彼に手を絡め取られたまま、私は父が「入り婿になれないのならこの話はなかったことに」と言い出すのではないかと、ひとり不安におののいていた。



「…………うちとしても、柴田しばたが断絶するのは……避けたいのです」


ややして父がやっとの思いで重い口を動かしたかのように歯切れ悪くそう言って……。


柴田しばたとは家柄の格が段違いの織田おりたとの縁を失うことは心底惜しいと滲ませつつも、そこだけは譲れないのだ、と言う強い意志を感じた私は、その予想通りの言葉に無意識に身体を強張らせた。



と、そんな私の手を宗親むねちかさんが大丈夫だとなだめるようにギュッと握って下さって。


それだけで、不思議と何とかなる気がしてきて驚いてしまう。



「…………もちろん、僕もすぐにお許しが頂けるとは思っていません」


だけど父の言動に宗親むねちかさんは強く出ることはなさらなくて。


珍しく結論を先延ばしにするような、そんな言葉を発していらしたことに、私は少なからず驚かされた。



そんな宗親むねちかさんに、父がどこか勝ち誇ったように言うの。



「では、こちらからひとつ提案です。――春凪はな織田家そちらさまに嫁がせる条件として、その子が最初に生んだ子供を柴田しばたにくださる、というのは如何でしょう?」


言って、笑顔で付け足された父の言葉に、私は瞳を見開いた。


「もちろん乳飲み子の間はそちらで面倒を見て頂いたんでので」



そんな……生まれてくる子供の未来を勝手に!

黙り込んで何を考えているのかと思ったら、本当に酷い!



あまりの言い分に思わずキッ!と父を睨みつけて身を乗り出しかけた私を制して、宗親むねちかさんが動いた。



「――残念ですが何人子宝に恵まれようとも、我が子を手放すつもりは僕にも彼女にもありませんよ?」


宗親むねちかさんの取り付く島もない物言いに、父が負けじと言い返す。


「男女関係なく第一子で構わないと譲歩しているのに、ですか?」


その言葉は言外に、例えと言っているのに?と言う意図が見え隠れして、私は心の底から悲しくなった。


そもそも生まれてくるかどうかも分からない子供のことを勝手に決めようとしていることにも!

その子供のことをまるで物品の授受ででもあるかの様にサラリと権利を主張してしまえる無神経さにも!

あまつさえ男女の分け隔てなく引き受けることを「譲歩」という言葉で片付けようとする物言いにも!


何もかもに堪らなく腹が立って。


私は無意識に宗親むねちかさんに絡められたままの手指に力を込めてしまう。


――と、わたしの怒りを代わりに吐き出してくださったみたいに、宗親むねちかさんが心底呆れたように吐息を落とされた。



柴田しばたさん。失礼承知で申し上げます。――子供は……僕の愛する春凪はなさんも含め、あなた方が家を存続させるための道具ではありませんよ?」


宗親むねちかさんは、怒りに震える私をその広い背中に隠すようにして、気持ち低音で淡々と言葉を紡ぐ。


私は、宗親むねちかさんの言葉に、心臓を撃ち抜かれた気がして瞳を見開いて。

思わず見遣った宗親むねちかさんの横顔が、いつもの何倍も素敵に見えた。


仮初かりそめの恋人への嘘偽りにまみれた愛の言葉だとしても、こんなふうに私自身を尊重するような言葉、ハッキリと言われたことがなかったから……。

今の私には十分すぎるほど嬉しくて泣きそうになる。


「――成長した子供が柴田そちらの姓を名乗りたいと自ら言い出しでもしない限り、血縁だからといって、大人が勝手に彼らの未来を決めていいはずがない。僕はそう思いますけどね?」


宗親むねちかさんのその言葉は、生まれながらにして父と祖父によって手前勝手に未来を決められようとし続けてきた私の胸に深く刺さった。


私はこの呪縛から逃れたくて、ずっと足掻き続けてきたのだから。


言いたかったことを全て言ってくださった宗親むねちかさんのことを、私、心の底から頼もしいって思ったの。


でも、それと同時、これで宗親むねちかさんと私との結婚のお話も、完全に暗礁あんしょうに乗り上げてしまったな、とも――。



宗親むねちかさんと引き離されてしまえば、私はまた柴田しばたと言う檻の中に閉じ込められた、翼をむしられた鳥に逆戻り。


それがどうしようもなく悲しくて、気が付いたら知らず手が震えてしまっていた。


宗親むねちかさんはそんな私に、小さな声で「春凪はな、大丈夫だから。落ち着いて?」と耳打ちなさる。



宗親むねちかさん。

それは……何か他に策がおありなのでしょうか?


それとも……もしかして時間が解決してくれると思っていらしたり?


きっと今、父を陥落出来なかったら、次にうちの実家の敷居をまたぐときには、祖父ラスボスが出てきてしまっていますよ?


そうなったら、いくら宗親むねちかさんでも勝ち目がなくなってしまう気がするのは私だけでしょうか?

好みの彼に弱みを握られていますっ!

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