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🫧第4話「泡夢手紙と、ねむるの便り」
泡の庭を抜けた先に、小さな家があった。
壁は泡文字でできていて、屋根には記憶の羽が並んでいる。
玄関の扉にはこう書かれていた。
「ここは、話せなかった気持ちを郵送する場所です」
ふたりが扉を叩くと、中から“ねむる”が顔を出した。
図書館の司書だった灰色の猫。今は寝言郵便局の局長らしい。
「夜になりましたので、夢の便りが届いておりますぅ……
おふたり宛、それぞれひと粒ずつ……」
ねむるはそう言って、小さな泡手紙をふたりに手渡した。
📮聖名(みな)の泡手紙:
差出人:名前のない昔のわたし
内容:
「あの時あなたに声をかけなかったのは、夢が割れる気がしたからです。
泡になる前の気持ちを守るには、何も言わない方法しか知らなかった。
でも、あなたのピアノが鳴った時、鏡の国で見た泡がやさしく振るえました。」
📮律の泡手紙:
差出人:泡果を食べる前のぼく
内容:
「ぼくは君が泡アリスになる前から、記憶の中で待ってました。
君がスプーンを持って泡をすくう姿を見てから、
時間がうまく回らなくなった。
名前じゃなく、感情の風景の中で出会いたかった。」
ふたりは、泡にならなかったそれぞれの手紙を読み終えると、
沈黙の中で小さな笑みを交換した。
ねむるは、ふたりの手紙を見てぽつりと寝言を言った。
「この便り……間もなく“泡の舞踏会”の招待状となります……
言葉の代わりに音で踊る夜が、はじまりますよ……」
律が懐中時計を開く。針は泡の果実の色になっていた。
聖名(みな)は、胸の鍵をそっと触れながら言った。
「泡が言葉になる前に、踊りにいこう。
名前を呼ばなくても、ぜったい通じる気がするから」
そしてふたりは、泡夢手紙を手に、
舞踏会の宵へ向かって足を踏み出した。
泡はやさしく揺れていた。
言葉にならなかった気持ちは、音のなかで呼吸をはじめていた。
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