「あぁ〜…。なんか疲れたわ」
首を横に倒しながら通勤の道を歩く伊織。前日の出来事を思い出す。
「こちら今日から新人としてうちの会社で働いてもらうことになった」
「ヴァロック・ルビア・ドゥルドゥナードです!」
…
「あの…オレ悪魔なんです!」
…
リビングのライトをつけるとリビングのど真ん中にルビアが立っていた。
「うわっ!」
感情をあまり出さない伊織が珍しく驚き尻もちをついた。
「信じてくれましたか。伊織先輩」
得意気な顔のルビア。
…
「え、5階まで飛んできたってこと?」
「そーゆーことです」
「…はあ。なるほど?いや、なるほどか?」
「羽触ってみます?ま、触れないと思いますけど」
「え、怖い。大丈夫なん?」
「害はないはずです」
「明確に宣言してくれよ。怖いわ」
「ないっすないっす。害なし!無害っす!」
ルビアは自分の前に羽を持ってくる。
伊織恐る恐る手を伸ばす。珍しく手が震えている。ふわっ。触れると思った手は空を切る。
「あ、触れない」
「ですよね」
「あぁ。夢かな。夢かもな」
そう思い歩き出す。
「ういぃ〜」
背中を軽く叩かれる。気恵(キエ)だ。
「おぉ。尾内(おうち)か」
「おはよ」
「おはよ」
このいつもの感じに
あぁ、あれは夢だ
と思った。
「ルビアくん汐田の近くなんだね?家」
膝から崩れ落ちる伊織。
「うわっ!どったの?」
夢だと思った直後に、現実ですよというバトンを目の前に差し出された。
「ごめん。もうリレーは走れない」
「なにゆーてんの」
膝をパンパンと叩(はた)いて再び歩き出す。
「いや、昨日のことは夢なんじゃないかって思ってね」
「あぁ、ルビアくん?そんな嫌だった?」
「いや。ルビアくん自体は〜」
悪魔なんです!
「嫌ではないんだけど…」
悪魔なんです!
「現実とは思えないんだよなぁ〜」
気恵(キエ)は「?」といった顔で隣で歩く。オーライ おおらか不動産に着き、中へ入る。
「お!伊織先輩!おはよーございます!」
元気いっぱいに手を振るルビア。その耳は尖っており、黒目は縦に細長い。またも伊織は膝から崩れ落ちた。
「どう考えても現実だ…」
「伊織先輩!大丈夫ですか!」
ルビアが駆け寄る。優しい子である。
「はい、これ」
伊織の目の前に差し出された約1日分の鉄分 のむヨーグルト。やはり超絶優しい。
「伊織先輩、貧血だって聞いたので」
「ありがとう。でもこれは貧血ではない。違う原因で目眩が…」
約1日分の鉄分 のむヨーグルトを受け取り、立ち上がる。
「ありがと。150円でいい?」
「いや、いいっすよ。昨日ビールとか夜ご飯奢ってもらっちゃったし、これくらいは」
「え!?」
気恵(キエ)が口に手をあてる。
「ルビアくん汐田の家行ったの!?」
驚く気恵(キエ)。
「はい」
「あぁ…いや…うん」
「なにその歯切れの悪さ」
「あれじゃない?一線越えちゃったんじゃない?」
明観(あみ)がオフィスからスマホをタプタプしながら出てくる。
「え…」
ドサッっと膝から崩れ落ちる気恵(キエ)。
「嘘でしょ。汐田ってそっちなの?」
ショックすぎて変な表情になる気恵(キエ)。
「嘘嘘。ごめんごめん。嘘だって」
明観(あみ)もスマホの操作をやめて、苦笑いでしゃがんで気恵(キエ)の背中に手を添える。
「なにそっちって」
「いや、わかれよ。汐田がルビアくんとそーゆー関係だって冗談を言ったんだよ」
「あぁ。なわけないだろ」
「ほんとに?」
今にも泣きそうなうるうるした目で伊織を見上げる気恵(キエ)。
「当たり前だろ。ただの同性の後輩」
「よかった…」
ホッっとする気恵(キエ)。
「うん。冗談言った私もなんか安心したわ」
なぜかホッっとする明観(あみ)。4人でオフィスに入って社長に朝の挨拶をし
テキトーな朝礼をし、営業開始時間までしばらく各自の時間。
伊織は休憩スペースのバーにあるような少し高めのイスに腰掛け
バーにあるような丸テーブルにルビアからもらった約1日分の鉄分 のむヨーグルトを置き、突っ伏している。
ルビアは気恵(キエ)と楽しげに話していた。明観(あみ)はスマホゲームをしていた。
営業開始時間になり、各々パソコンをカタカタといじりはじめる。
「お。あそこ引っ越し1件決まったらしいね」
「あ、今ちょうどそのメール見たわ」
「間取りって前のと同じ?」
「さあ?部屋番同じ?」
「知らん。覚えてない」
「じゃあ聞くしかない。ついでに陽当たりとかそーゆーのも確認して」
「私が行くわ」
「頼んだ。社長、ルビアくんのデスク諸々まだなんですか?」
「今日届くはずだけど」
しばらくすると入り口のドアが開く鈴の音がして気恵(キエ)が飛んでいく。そして戻ってきて
「内見行ってきます!」
と言って気恵(キエ)がお客様と内見へ行った。
「意外と暇なんですね」
とルビアが言う。
「忙しいときは忙しいよ」
「不動産の繁忙期は基本的に1月〜3月。8月〜10月頃って言われてるね」
「うちも例に漏れずそれくらいが忙しいね」
「へぇ〜」
「だから私もスマホゲーげできるってわけだよ」
「景馬(ケイマ)く〜ん?社長の前で堂々と言っちゃダメだよ?」
「だから4月から落ち着き始める」
12時頃に入り口の鈴が鳴り、伊織が出ると業者の方々だった。
ルビアくんのデスクの組み立て、設置が終わり、備品もたくさん届いた。全員で設置する。
パソコンは明観(あみ)が設定をしてくれた。なぜか全員で拍手した。
真新しいデスクに真新しいデスクチェア、真新しいパソコン。ようやく新人が来たという感じだった。
「デスクトップ画面は自分の好きな画像にしな?ちなみの私は〜」
明観(あみ)がニヤニヤしながら自分のノートパソコンをルビアに見せる。
「ワスベスの画像!知ってる?ワスベス。The Worst to be the Best。
まだ発売日先なんだけどさ、発売が楽しみすぎて
発売日書いてあるパケ画をデスクトップ画面にしてるの。忘れないけど忘れないようにね」
「うん。景馬(ケイマ)くんのお陰で全員好きな画像に変えたよね。
本当はお客様に見られるかもしれないから無難な景色とかが望ましいんだけどね?」
「好きな画像かぁ〜。オレはどうしよっかなぁ〜」
「ルビアくんももう僕の話聞いてないよね?」
「ちなみに伊織先輩はなんでしたっけ?」
「オレはイギリスの景色」
伊織がデスクトップ画面を見せる。
「あぁ、イギリス」
「そうそう。伊織くんみたいのが望ましいのよ」
「なんでイギリスなんですか?好きなんですか?」
「うん。なんかキチッっとしてるけどせかせかしてないイメージでさ。
スタイリッシュだよね、イギリスって。おしゃれだし」
「へぇ〜」
「イギリス行っても不動産すんの?」
「行かねぇし」
「不動産やることは否定しないんだ?」
「ま、慣れてるから。今から新しいこと覚えようなんて気力ねぇわ」
「それな」
「お前は新しいゲームで新しいこと覚えてってんだろ」
「それな」
そんな話をしていると入り口のドアが開く鈴の音がして
ダラァ〜っと動き出す明観(あみ)を見て、明観(あみ)のお客さんだと伊織は腰を下ろした。
「伊織先輩、今日は入ってないんすね」
「今日はなーんもない。だから来なくてもよかったんだけどね」
「よくないよ~?」
「ま、飛び込みのお客さんも来るからこんなときいないとダメなんだけどね」
気恵(キエ)と明観(あみ)のデスクを見る伊織。
「あぁ、そっか。お2人いないから対応できる人いないんですね」
「僕がいるけどねぇ〜」
「そ。ま、ルビアくんいるからオレ来なくても良かったんだけど」
「ダメっすよ。オレまだ全然わからないし」
と話をしていると入り口のドアが開く鈴の音がする。
Speak in the devil.噂をすればなんとやらである。早足で入り口へ向かう伊織。
ルビアは社長を見ると優しく頷いていたので伊織の後を追って行った。
「いらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます」
先程の伊織とは180°違う爽やかな笑顔の伊織。
「突然すいません」
「いえいえ。こちらとしては嬉しい限りです。お部屋をお探しですか?」
「はい。引っ越しを検討していて」
「なるほど。ではお手数なのですが、こちらのほうをご記入をお願いいたします」
とバインダーを差し出す伊織。
「当店へのご来店は初めてですか?」
「あ、はい。初めてです」
「あ、では初めてのところにチェックをつけてもらって。当店はなにでお知りになられました?」
「あ、通勤のときに通ってて」
「あ、そうなんですね。じゃあ…その他でいいかな?その他のところにチェックをしていただいて
あとの部分なんですけど、できるところは書いていただいて。はい。よろしくお願いします」
伊織はパソコンを立ち上げ、ルビアは静かに見守る。お客さんがバインダーを伊織に差し出す。
「ありがとうございます。お預かりします」
伊織がバインダーを確認する。
「加藤様ですね。当社へのご来店、誠にありがとうございます。
1DK希望ということで。なるほど。現在の最寄り駅がここで
ご勤務されていらっしゃる会社の最寄り駅がここですね。
ここの範囲内でなるべく駅近ですね。かしこまりました」
「よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いいたします」
と言いながらパソコンを操作する伊織。
「なるべく駅近ですもんね〜」
「そうですね。なるべくでいいのですがそのほうが」
「なるべく寝たいですもんね」
「そうですね」
と笑う。
「1DKで駅近となると10万円を越えてしまうかと思いますけど」
「はい。まあ、出来たら抑えめでお願いしたいです」
「まあ、そうですよね。家賃抑えめで…とりあえず」
伊織がルビアを振り返って
「今印刷出てきてると思うから取ってきてくれる?」
と言う。
「わかりました!」
ルビアが取りにいく。
「すいません。新人で」
「あ、そうなんですね。2人体制なのかなと思ってたんですけど」
「いえいえ。本来は私やスタッフ1人1人が対応するんですけど、勉強としてです。申し訳ないです」
「あ、いえいえ。全然」
ルビアがプリントを片手に戻ってくる。
「ありがと」
プリントを受け取り、お客様に出す。
「パッっとですけど、こんな感じですかね」
お客様がプリントを眺める。
「なるほど…」
「一応一般的に駅近と呼ばれる物件が駅から徒歩5分から10分と言われているんですけど
徒歩5分と10分だと条件が大体同じでこれくらいお家賃が変わりますね」
「あ、まあまあ変わりますね」
「そうですね〜。ちなみにこの物件が
一応駅近の5分から10分から少しはみ出した徒歩12分なんですけど、お家賃がこんな感じになりますね」
「あぁ、なるほど。また変わりますね」
「そうですね〜。大体ボーダーが5分、10分なので、そのボーダーをどうするかでも変わってきますね」
「なるほど」
「もちろんその他、平米数、陽当たり、立地なんかでもお家賃の上下はします」
「なるほど」
「どうされます?本日内見は厳しいですが、後日日程を決めて、何件かご覧になられますか?」
「そうですね。内見はしたいです」
「はい。もちろんそうですよね。ではまず、担当させていただく汐田 伊織と申します。
よろしくお願いいたします」
と伊織が名刺を差し出す。
「あ、頂戴いたします。よろしくお願いします」
「早速なのですが、本日から近い日でご都合の良い日わかったりしますでしょうか」
「あ、そうですね。仕事があるので…土日であれば大丈夫なのですが土日でも大丈夫でしょうか?」
「はい。うちは定休日が火曜日と水曜日なのでそれ以外でしたら」
「じゃあ、土曜日お願いしてもいいですか?」
「土曜日ですね。すいません。ちょっと自分も確認しますね」
伊織がスマホを取り出してスケジュールを確認する。
「土曜日土曜日…。そ う で す ねぇ〜…。
午前中に時間的に2件ほどでしたら行けますけど。どうしましょう?」
「あぁ、そうか。土日なんて内見する人多いですよね」
「そうですね。午後は完全に埋まってますね」
「じゃあ、とりあえず午前中にお願いできますか?」
「かしこまりました。ではうちが午前10時に始業なので、10時過ぎに来ていただければと思います」
「はい。わかりました。手ぶらで大丈夫ですか?」
「そうですね。特には必要はないです。ただもしここにしたいって思ったときには
入居審査のために書いていただく書類がありますので、まあ、軽い書類ですので、準備は不要かと思います」
「なるほど」
「はい。しかも物件探しなんて運もありますからね。
ピンとくる物件に出会うまで時間かかるときがほとんどですし
そんな即決なんてこと、滅多にないので大丈夫だと思います」
「たしかに。では土曜日よろしくお願いいたします」
「こちらこそ。よろしくお願いいたします」
入り口のドアが開く鈴の音がしてお客様が出ていく。伊織が
「ご来店ありがとうございました!土曜日お待ちしております」
と言いながら頭を下げる。ルビアも頭を下げる。ドアが閉まる。爽やかな笑顔の伊織の表情がスンッっと死ぬ。
「うわっ。表情死ぬのはやっ」
「いい?こんな流れ。飛び込みのお客様の場合ね」
お客様が帰ってきた。スッっと笑顔に変わる伊織。
「どうかされましたか?」
「あ、当日って車ですか?」
「そうですね。お車で移動して、物件的に近ければ徒歩で。という感じですかね」
「なるほど。ありがとうございます」
「いえいえ。わざわざすいません」
「ありがとうございました」
「土曜日お待ちしております」
またスンッっと表情が死ぬ伊織。
「伊織先輩。ある意味すごいっすよ。表情筋痛くなりません?」
「最初はね、表情筋筋肉痛になったかな。ピクピクしてたよ」
「さすがです」
「じゃ、奥に戻って、さっきの情報でいいとこ探して
2。んん〜一応3件見繕って、管理人さん、大家さんに連絡して
土曜日に内見オーケーか聞いてって感じ。物件探しやってみ?オレ見ててあげるから」
「うっす!」
ルビアがパソコンをいじって条件に合う物件を探す。
「ここなんてどうですか?」
「ほお?ま、いいんじゃない?条件には合ってるし。
じゃ、残り2件。確定で行くところ1件と念のため抑える1件」
「了解です」
「あ。そうだ。時間ある場合はお客様の勤務地と現在の家の最寄り駅間で
まあ、複数の駅の周辺で探したりするし、駅の東西南北で押さえたりするんだけど。
東西南北で押さえるのは似たような条件、間取りでも
時間的に陽があたる時間帯とか周辺の建物によって陽当たりの加減が違うからね?
でも土曜の加藤様の場合は時間がないから近くで。そうすれば3件目行ける可能性も出てくるから」
「なるほどですね。付近で…付近…」
その付近でルビアが探している間に
伊織が先程の物件の管理人さん、大家さんに電話をし、内見のアポを取っていた。
ルビアの探した残りの2件も伊織のオーケーが出て、伊織がまた内見のアポを取った。
「こんな感じ。これをいずれ…ってかなるべく早い段階で1人でやってもらう」
「マジっすか」
「マジ」
「伊織先輩悪魔っすか」
「…」
悪魔はお前だろ
と言いたかったが社長もいるので心の中で思う伊織。
「アポのときだけど、ま、あんまないけど、内見断られるときもあるから」
「あ、そうなんですか?」
「滅多にないけどね。管理人さん、大家さんが体調不良とか同じタイミングで内見が重なりすぎてるとか」
「あ、そんなことあるんすね」
「あんまないけどね。繁忙期に人気物件とかだとたまにある」
「へぇ〜」
そんな話をしていると入り口のドアが開く鈴の音がして
伊織がスッっと立ち上がり、入り口へ行くと気恵(キエ)とお客様が帰ってきただけだった。
伊織はお辞儀をしてお客様をお通しする。お客様に座ってもらって、気恵(キエ)がオフィスへ戻るとき
「お茶出しとく」
と伊織が言い
「ありがと」
と気恵(キエ)がオフィスへ戻った。伊織もお客様にお茶を出してオフィスへ戻った。
すぐに明観(あみ)も戻ってきて、あっという間に終業時間となった。
「お疲れ様でした〜」
「お疲れ〜」
「お疲れ様」
みんな帰っていく。気恵(キエ)は伊織と帰ろうと声をかけようとしたが
またしてもルビアと一緒に帰っているのを見て今回も肩を落とした。そんな気恵(キエ)の横に立って
「ま、いきたいのであればグイグイいくしかないね。命大事に。だとちょっと厳しいね。
ルビアくんいても気にせず入ってくくらいガンガン行こうぜ!じゃないと」
と明観(あみ)が言った。
「伊織先輩お疲れ様です」
「お疲れー」
「お客様いないとマジで表情死んでますよね」
「昨日の今日でよくそんなこと言えんな。先輩に」
「すいません」
「別にいいんだけどさ」
「気になってたんですけど」
「なに?」
「あの空いてるデスクあるじゃないですか」
「はいはい」
「あの人いつ出勤するんですか?」
「…あぁ…」
伊織の頭の中には、きっと今も暗い部屋で
テレビに向かってサイリウム、ペンライトを振っている後ろ姿が見えた。
「さあ。気が向いたら出勤するんじゃない?」
「それで大丈夫なんですか?」
「それで大丈夫らしい。意味わからんけど」
伊織の家の前についた。
「あ!いいか!もう窓から入ってくんなよ?」
聞いたことないセリフである。
「大丈夫です。ちゃんとピンポン押しますんで」
「じゃ、お疲れ」
「お疲れ様です!」
伊織がエントランスのガラス製のスライドドアを鍵で開け、ポストを確認し
エレベーターで5階へ昇って行った。鍵を開ける。ドアを開く。
「あ、伊織先輩」
玄関にルビアが立っていた。
「うわっ!」
思わず大きな声を出して尻もちをつく伊織。
「大丈夫ですか!」
「お前…」
と言いながらも立ち上がれない伊織。
「手貸せ」
「はい」
伊織が伸ばす手をルビアが握る。伊織を玄関に座らせるルビア。
「腰抜けたわ」
「すいません」
「窓から入ってくるなって5分前に言ったよな?」
「聞きたいことがあって」
「LIMEでいいだろ」
その通りである。
「たしかに」
やっと立ち上がれるようになって靴を脱いで手を洗い、うがいをし、リビングへ行く伊織。
その後をついていくルビア。
「で?なに」
「あの名刺って自分で作るものなんですか?」
「あぁ、名刺ね。たぶん社長が作ってると思うから明日明後日くらいにはくれるよ」
「あ、そうなんですね。ありがとうございます」
「そんだけかよ」
「そんだけです」
「マジでLIME案件」
「すいません」
「手洗いうがい」
「へ?」
「夜食ってくならな」
「食います!」
嬉しそうに洗面所へ行くルビアに口元が緩む伊織。部屋着に着替える。
リビングでルビアと缶ビールで乾杯する。
オーバーイーツで食べたいものを頼み、届くまでテレビを見て喋っていた。
「そーいやさ、めっちゃ普通にビール渡してたけど、ルビアは何歳なの」
「何歳…わかんないっす」
「え」
「悪魔って年齢って概念がないんですよね」
「マジ?」
「ま、全然若い方です。てか人間界に来てまだ3年なので3歳?」
「じゃ、ビールはダメでーす」
「待ってくださいよ!じゃ、23くらいで」
「3つ下か。ま、その設定でいくか」
「うっす」
「タバコ吸ってくるからオーバーきたら受け取って」
「伊織先輩タバコ吸うんですね」
「吸うよ」
「職場では吸ってないですよね?」
「吸ってない。吸わない。スーツに匂いつくから」
「なるほど」
「お客様によってはタバコ嫌いなお客様もいらっしゃるから」
「さすがです」
伊織はベランダに出て電子タバコを吸う。オーバーイーツが来て2人で夜ご飯を食べた。
「すいません。今日もありがとうございます」
玄関で靴を履くルビア。
「ま、楽しかったからヨシ」
「良かったです!」
「じゃ、またな。お疲れ」
「お疲れ様でした!」
玄関のドアが閉まる。リビングに戻る伊織。鳴り響くテレビの音。騒がしいけど静かだ。
「タバコ吸うか」
珍しく1日に2本吸った伊織はその後テレビを見て眠りについた。
「ガンガン行こうぜか…。命大事に。なんか聞いたことあるな」
気恵(キエ)はそう呟きながら、オシャレな部屋で
テレビでMyPipeの寿司沢さんの動画を流しながらビールを飲んでいた。
「ワスベスワスベスワスッベス」
ルンルンな明観(あみ)はパソコンに向かい、コントローラーを持ってゲームをし始める。
これはこんな個性的なメンバーが集うオーライ おおらか不動産で働くみんなのストーリー。
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