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#異世界転移
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これと、これ。それからこの図も必要よね。
煜峰から頼まれた資料を書庫から探し、引っ張り出す。それを腕に抱えて煜峰が普段いる執務室へと向かった。
「あら、麗霞さん。そちらの荷物はまた煜峰殿下のところへ持っていくの?」
呼び掛けられて振り向くと、回廊から同僚の官女が三人来るところだった。三人とも麗霞より前から画院で働く先輩だ。
『また』の所に少々引っ掛かりを覚えつつ「はい、そうです」と答えると、前にいる方の官女がスっと手を出した。
「なら私が持っていってあげる」
「え? いえ、頼まれたのは私ですので」
「いいのよ、ちょうど手が空いているの。貴女は他にもやる事があるあるでしょう?」
先輩に頼んでしまうのは申し訳ない。それに煜峰は麗霞が執務室へ行くと、その後大抵お茶を持ってこいとか、そこを整理しろだとか、色んな用事を言いつけてくるのだ。
今回も麗霞に資料を持ってくるように言ったということは、この後もまだ何か仕事があるに違いない。
「私の方は大丈夫です」
「鈍いわね! 私に渡しなさいって言ってるの!」
「きゃっ」
腕の中から無理矢理に書物を取られてしまった。
先輩とは言えあんまりな態度に、流石の麗霞もイラッときた。
「書物をそのように扱っては傷がついてしまうではないですか」
芸術作品ではないけれど、乱雑に扱われれば作成者だっていい気はしない。それにこれは、貴重な記録画だって混ざっている。画院の官女なのにその辺の配慮に欠けるなんて。
ムカムカとしている麗霞に、官女はふんっと鼻を鳴らした。
「最近少し調子に乗りすぎでは無いの?」
「調子にって、一体……」
「煜峰殿下の周りをうろついていたかと思ったら、今度は皇太子妃殿下の宮に出入りするようになっただなんて。たかが栗家の娘のくせに、何様のつもりなの?」
「本当だわ。少し前まで大人しい子だと思っていたけど、どうやって殿下を誑かしたのだか」
「誑かしただなんて、そんなことしていません」
「じゃあどうして貴女みたいな子を殿下が重用するのよ。媚びを売るくらいでは無理だもの。きっといやらしい手を使って取り入っているに違いないわ。そうでしょう?」
これっていわゆる、嫉妬によるいびりってやつ?
麗霞の趣味が煜峰にバレる前までは、他の宮女達が煜峰にきゃあきゃあ言う中、事務的な関わり方しかしてこなかった。だから煜峰に仕事を多く振られても目を付けられなかったのだが、最近麗霞に対してと他の宮女とで煜峰の態度が随分と違うことから、嫉妬されてしまったようだ。
理由を正直に言う訳にもいかないし、どうやって切り抜けようか……。
そもそも、麗霞が煜峰にまとわりついているわけではなく、煜峰が麗霞に絡んで来るのだ。回避のしようがない。
「ちょっと美人でスタイルがいいからって、煜峰殿下の妻にでもなれる気でいるとしたら、大間違いよ」
煜峰殿下の奥さん……?
ああ、そうよね。宦官でも結婚は出来るんだった。
実際、奥さんがいる宦官は普通にいるし、跡継ぎは親戚縁者から養子を迎え入れることで解決する。
でも麗霞には、煜峰とどうこうなろうなどという考えは一切浮かばなかった。
確かに迫られてドキドキしたことは幾度もあったけれど、それだけだ。その先はないことは分かっているから。
だって煜峰には、肝心の『下』が付いていないのだから。
「皆さんは煜峰殿下の妃になりたいとお思いなのですか?」
「まっ、まあそうねぇ。畏れ多いことだけけれど、でももしそんなチャンスが巡ってきたならと思うことはあるわ。ねえ?」
後ろの2人も同意して頷いている。
「お言葉ですが、私は煜峰殿下の……と言うより宦官の妻なんて御免です」
「ちょっと貴女、何て失礼な……!」
「だって! だってですよ?! 宦官の妻になったら、女としての悦びを知らないままに一生を過ごさなければならないんですよ? そんなの耐えられます?! 私は嫌です」
妄想だけで終わるのは絶対に嫌。
ストレート過ぎる物言いに、3人とも口をパクパクさせて固まってしまった。
地位だとか権力だとか、はたまた容姿端麗であるとか、ウマが合うとか、その人と結婚したい理由は人それぞれあると思う。
でも夜の生活があるかどうかは、それら全ての事柄よりも重要事項だと思う。少なくとも麗霞にとっては。
「そういう訳で、煜峰殿下とどうにかなりたいなんて事、一切ありませんので。むしろ私のこういった態度が気安くて、殿下に気に入られているだけなのでございましょう。殿下の気を引きたかったら、皆様も一歩引いてみると良いかもしれませんよ」
「ぐっ……」
「それでは私はこれで」
失礼しようと思ったが、忘れてはいけない。
「あっ! やはりこちら書物は私が持っていきますね」
取られた書物を官女の手の中からもう一度自分の腕の中へ収めた麗霞は、ニッコリと笑ってその場を後にした。
煜峰がモテることは知ってはいたが、ここまでだったとは驚かされる。
確かに煜峰の容姿は画人が描いたかのように完璧な造形をしているし、人当たりも表向きは悪くない。
皇帝から多少疎まれようと、玉が無かろうと、それらを上回るくらい魅力的ってことか。
「確かにまぁ、魅力的なのはそうよね」
むしろ裏の顔を知ってからの煜峰の方が、麗霞の心を揺さぶってくる。
皇族という立場でありながらも割と親しみやすく穏やかという印象であったが、人の事を犬だのメス猫だのと言って使おうとするし、迫ってからかってくるし、かと思えばお兄さん想いのところもあったり……。
この一年ほどで、煜峰の色んな顔を見た気がする。
煜峰は麗霞が今までよくその変態っぷりを隠してきたなと感心してくるが、煜峰だって似たようなものじゃないかと思う。
「誰が魅力的だって?」
「ひっ!」
廊下の角を曲がってすぐの所に煜峰がいた。柱に片手をつき、にこやかな顔で見下ろしてくる。
「な、何でもありません! そそそそんなことより、何故いつもこう、急に現れるんですか!」
心臓に悪いからやめて欲しい。
「急にじゃない。お前が自分の世界に浸ってボーッとしているだけだろう」
「うっ……」
確かにそう。
考え事をはじめると、周りが見えなくなるのは悪い癖だ。
「何をしている。早くその荷物を部屋に運び入れてくれ」
「あ、はい」
言われた通り書物を部屋へと運び、机の上に置いた。続いていつも通り、机の端に置かれた書き損じの紙を片付けたり、墨をすったりしながら煜峰の顔をチラリと盗み見る。
さっきの官女達との会話までは聞かれてなかった、よね……?
煜峰の色んな一面を見る度に、何をどこまで知っていて、何を考えているのか分からなくなっていく。だから余計にもっと知りたくなって、気になってしまうのよね、きっと。
これは危ない兆候だ。
さっき官女達に言った通り、麗霞は夜の生活も楽しみたいのだ。巷で人気の春画家が、実は生涯処女でした。なんてことにはなりたくない。
それに男を知ったなら、より創作の幅も質も上がること間違いなし!
いや、それとも現実を知ってしまったら、失望して上手く描けなくなるかも?
やはり結婚相手はロマンチストでエロティックな人でなくては……!
黙々と考え込んでいたら、いつの間にか煜峰を見つめてしまっていたらしい。怪訝な顔をされた。
「人の顔を見ながら眉間に皺を寄せて。今度は一体何を考えている」
「それは……煜峰殿下が何を考えているのかなって、考えていたんです」
「私が?」
「はい」
「今この時に?」
「はい。……って、お仕事の事ですよね。それはもちろん。何言ってるんでしょう。あははは……」
執務室で資料として持ってきた書物を読みながら考えていることなど決まっている。仕事以外の他に、何があるというのだろう。
これ以上煜峰の邪魔をしないように、大人しく退散しよう。
「他に御用がなければ失礼させて頂きます」
一礼して部屋から出ようとしたが、煜峰に素早く手首を掴まれた。
「待て」
「え……えっと、何か御用が……?」
「私が何を考えているか教えてやる」
え? え??
「私の妻になるのは御免だと言われ、今猛烈に腹が立っている」
――――っ!!
さっきの話し、やっぱり聞かれてたぁぁぁー!
コメント
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第26話読んだわ!最後のオチが最高すぎて声出して笑った(笑)麗霞の「女としての悦び」発言、あれ清々しすぎるし、それを聞かれてた時のパニックが可愛い。宮女たちの嫉妬もリアルだし、宦官設定の活かし方も好き。続き気になる!