『キスされたくらいで、いちいち怒りませんよ。海外に住んでた時はキスなんて挨拶みたいなものでしたから』
『そうなんだ…。なら良かった。だったら何で急に態度が変わったの?』
『別に私たち付き合ってる訳じゃないし、私は瑛太さんの彼女じゃないんですから、いつも一緒っていう訳にはいきませんよ』
『そうだよね。僕たち付き合ってる訳じゃないもんね…‥わかった。それが聞けてよかったよ。じゃあ、またね』
『はい…‥』
これ以上、亜季ちゃんからそんな言葉を聞きたくなかった。
…それから数日が経った。
葵さんは体調が回復し、登校するようになった。
僕と仲村だけど、あの事があって以降、どことなくお互いにぎこちない感じになってしまった。
亜季ちゃんとの関係は、僕の無理矢理のキスをキッカケに終わりへと突き進んでいった。始まってもいないのに、終わってしまった。
メールや電話でのやりとりもなくなったし、学校の帰りも待ち合わせをする事なく別々に帰った。
かと言って、葵さんとの距離が縮まる訳でもなかった。
学校に復帰した葵さんは相変わらす授業中でも、どんな時でも構わず教室から慌てて出て行った。
でも、今日の葵さんは何事もなく5時限目の授業が終わるまで教室にいる事が出来た。
たまにはこんな日がなければ、いくら葵さんだって体がもたないだろう。
そして、休み時間になったのでトイレに行こうと席を立つと、葵さんの様子がおかしい事に気付いた。
葵さんは口をおさえブルブルと震えていた。
「葵さん…どうしたの?」
「・・・・・」
葵さんは苦しそうにしているだけで、何も答えなかった。
「うっ…」
葵さんは突然イスから立ち上がると、口とお腹をおさえながら、猛ダッシュで教室から飛び出して行った。
「葵さん…」
僕も葵さんの後を追って教室を飛び出した。
すると葵さんは女子トイレに、ものすごい勢いで駆け込んで行った。
「おぇっ…うおぇっ…」
トイレの外からでも、葵さんの苦しそうな嗚咽が聞こえてきた。
「葵さん!」
僕は聞こえるように、大きな声で葵さんを呼んだ。
「来ないでっ。うっ…ゲホっ…おぇっ…」
僕は何も出来ずに、トイレの外で待ち続けるしかなかった。
「おいっ、紺野! こんな所で何してるんだ? 痴漢か?」
松下だった。
面倒なのが来た。
「葵さんが、トイレで…‥」
僕は、女子トイレを見ながら言った。
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