テラーノベル
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「夏が丘大学から来ました田貫史郎です。田んぼの〝田〟に貫通の〝貫〟で田貫です。趣味は……カドミくんグッズ集めで――」
田貫が、自宅の鍵につけた〝醤油差しが擬人化された愛らしいキーホルダー〟を見せた瞬間、テーブルがざわついた。
「それ、去年の夏にうちの麺つゆに数量限定で付いてたやつじゃん。懐かしい!」
「可愛いよね、カドミくん! 私も別の商品の販促時についた缶バッジ持ってる!」
「カドミくんのキャラ案出した【サルル】さんってどんな方なんでしょうね?」
口々に上がる声に、瑠璃香の眉がわずかにピクリと動く。
実は角実屋のマスコットキャラクター【カドミくん】を生み出したのは瑠璃香だ。
たまたま瑠璃香がメモの隅っこに落書きしていたのを、晴永が見初めた。
そして『マスコットキャラ選抜の企画会議にかけてみないか?』と打診したところ、瑠璃香は『課長が発案者ということにしてくださるなら使ってもいいですよ』と言い出した。
目立つのはイヤだから、と。
だが晴永は『それじゃあ部下のアイデアを盗むみたいで俺もイヤだ』と拒否し、揉めた末――。瑠璃香が【サルル】というよく分からないペンネームを提案してきた。
『私の名前の中にはサルが潜んでるんです。でも……サルだけだと気付かれそうなので、ルをひとつ付け足しました』
〝こざさるりか〟とメモに書いて、〝さる〟の部分をぐるぐる指でなぞりながら告げてきた彼女に、晴永は思わず『は?』と声を漏らした。
すると瑠璃香は、くすりと笑ってこう続けた。
『知ってますか? 実は課長の名前にはイヌが潜んでるんですよ?』
その下に〝にいぬま〟と書かれ、同じく〝いぬ〟の部分をぐるぐる。
そして――、
『私たち犬猿の仲ですね』
と、にっこり笑われた。
(こら、小笹! 可愛い笑顔でなんてこと言うんだ! 名前が並べられただけで嬉しくなった俺のトキメキを返せ!)
そう心の中で抗議していたら、彼女がさらに斜め上の追い打ちをかけてくる。
『課長が偽名を使いたい時は【イヌヌ】にしたらいいと思います』
どこまで本気か分からない。
だが、その発想ひとつひとつが、悔しくてたまらないが……晴永にはどうしようもなく愛しく思えた。
そんなわけで、瑠璃香と二人だけの秘密を守りたい一心。晴永は知っていて、わざとこの話題に乗らなかった。
***
鍋の具材がいい感じに煮えたころ、瑠璃香が立ち上がった。
「取り分けますね。田貫さん、辛いの平気?」
「あ、すみません、俺、辛いのはちょっと……」
「分かった。じゃあキムチ鍋はやめて、こっちの出汁味のを取り分けるね」
「ありがとうございます!」
「部長はネギ多めでしたよね。課長は……椎茸、どうします?」
聞きながら少しだけ口元をフフッと綻ばせる瑠璃香を見て、晴永は(こいつ、わざとだな!?)と思いながらも、
「嫌いじゃないが……よけてくれ」
と、こちらも素直じゃない答え方をする。
「〝嫌いじゃない〟は好きじゃないとイコールですもんね」
クスッと笑われて、なんだか子ども扱いされたみたいな気がした晴永だったけれど、案外それが心地よくも思えてしまう。
そもそも、鬼課長だなんだと言われている晴永に対して、こんな塩対応(?)をしてくる部下は瑠璃香ぐらいしかいない。それが、何だか新鮮で嬉しいのだ。
(だ、だからといって……俺は断じてM体質というわけでは!)
なんて一人脳内で盛大な言い訳をしながら、晴永にだって分かっている。部長や新人には元より意地悪なんてしなかった瑠璃香が、自分だけ〝特別扱い〟してくれたみたいで顔がにやけてしまいそうなくらい幸せなのだ。例えそれが〝いい意味〟での特別扱いじゃなかったとしても!
そうして、そんな風に思えてしまう時点で結構〝小笹瑠璃香沼〟にハマっていることに晴永はあえて気付かないふりをしている。
「私、椎茸好きなので課長の分も食べてあげますね♪」
調子のいい返しだ。けれど、それすら瑠璃香と食べ物をシェアしている(わけではないが……)感じがして心地よい。
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
そうして初っ端からすみません!
先の土曜に更新し忘れていたので今日(月曜に)更新しました💦
次回更新は水曜日の予定です。よろしくお願いします(鷹槻れん)
コメント
1件
既に課長がめちゃくちゃ可愛いのですがっ!(//∇//)