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凪は千紘が住むマンションを見上げてスマートフォンをポケットから取り出した。仕事もないし、千紘の家から帰ったあとも特に用事はない。

一緒に食事をして少し会話をしたら真っ直ぐ家に帰るつもりだ。だから、髪もセットしなかったし、ラフな服装でやってきた。


2人でどこかに出かけるなんて考えもないし、きっと千紘は凪がどんな格好でやってきても受け入れてくれるだろうと思った。


まだあれから1ヶ月も経っていないというのに、前回からかなり時が過ぎた気がした。このマンションを飛び出したまま振り返ることもなく真っ直ぐ帰宅したのだ。

ここへくると千草の存在を思い出した。千紘を思いやる言葉が耳に響く。同時に凪に対して敵意を感じた。


客観的に見て、あの兄弟はとても仲がいい。千紘が同性愛者だということも千草は知っている様子だった。そして、千紘が過去に泣かされたことがあるかのような発言。

凪の中では、千紘の元彼といったら樹月の印象が強くて、どちらかと言えば千紘の方が相手を泣かしているような印象だった。


けれど、千草があんなふうに敵意をむき出しにするくらいだから、千紘が酷い目に遭ったこともあるのだろう。

そしてその一部始終を千草も知っている。


凪はぼんやりと考えた。自分にも兄がいるが、千紘と千草とは全く関係性が異なる。もう何年連絡を取っていないかわからない。

次に連絡を取るのは両親のどちらかが死んだ時くらいじゃないだろうか。凪の兄は凪がセラピストをやっていることも知らないし、こうしてそれなりに生活できていることも知らない。


反対に凪も兄がどこで何しているかも知らずにいた。兄が頼れる存在だったなら、人生は少し違っただろうかと考えてみる。

しかし、そんなことはなかった。セラピストだってやりたくて始めたことだし、むしろ兄と仲が良かったら止められたかもしれない。

相談したくてもできなくて悶々としたかもしれない。でも、そんなことは考える必要もなかった。


どんなに考えたところで、この先兄との関係性か変わることはない。兄に対して未練はないが、千紘と千草の関係は、ほんの少し羨ましく思えた。


凪が千紘に連絡をすると、2分ほどで下に降りてきた。


「解錠してくれたら上がってったのに」


「俺が迎えに行きたかったんだよ」


千紘は凪の顔を見た途端、瞳を潤ませた。久しぶりに見た千紘の髪は綺麗なミルクティー色だった。けれど、根元が黒くなっていて珍しく染め直してないことがわかる。

いつもならツヤツヤと潤っているのに、毛先は傷んでいる。肌も荒れているようでたった2週間でこんなに変わってしまうものかと凪は驚いた。


何だかんだ千紘はいつもと変わらない姿で出迎えるだろうと思っていたから、コンディションの悪さに少しだけ安心する。

本来なら元気そうな姿を見て安心するだろうが、自分だけ廃人のような生活を送っていたのだと実感するのは辛いから。


凪はどこか、千紘も自分と同じくらい悩んで苦しめばいいと思った。自分を傷付けた分、いっぱい考えて色んなことに後悔すればいいと思った。


「すげぇ体調悪そう」


凪はそう言いながらも思わず笑ってしまった。凪に二度と会えないかもしれない。そう考えただけでここまで見た目に影響するのだ。何よりも凪を1番に考えている証拠だった。


「あんまりよくないかも……でも、凪に会ったら元気になったよ」


それは明るくなった表情を見ればわかる。けれど、女性顔負けの美しい顔をしていた千紘にもクマができていた。肌荒れは、睡眠不足によるものか、と凪は軽く息をついた。


「寝てないの?」


「んー……眠れる時にまとめて寝る感じかな」


「寝溜めはできないって聞くけど」


「ね。できないよね。眠いのに眠れない」


「俺と同じじゃん」


「うん。凪の気持ちを身をもって知った気がする」


会話をしながらエントランスを通り過ぎて、エレベーターに乗り込む。感動の再会のはずが、会ってみたら普段と変わらないやり取りで2人は変に気を使わずにすんだことに胸をなでおろした。


お互いに変な空気になったらどうしようかと身構えていたところがあった。しかし、第1関門を突破した2人はこのまま何事もなく過ごせそうな雰囲気を感じた。


家のドアを開けると、既に食事が出来上がっていることを思わせる匂いが漂っていた。

今まであまり食欲がなかった凪が、空腹を感じた瞬間だった。


「美味そうな匂いする……」


「うん。野菜多めにしたよ。体に良さそうなものがいいって言うから」


千紘はそう言って嬉しそうに笑う。急な食事の依頼にもかかわらず、まるで楽しんで料理したような顔をしている。


「あれから料理した?」


凪が聞くあれからとは、最後に凪とあった日のことだ。あの日も千紘が朝食を作ってくれた。千草とのことがなければあれから定期的に食事をしにこの家に訪れたかもしれなかった。


千紘もどこかそんな日を期待していたから、料理をすることなど全く苦ではなかった。


「作らなかった。自分のためにはあまり料理しないから」


千紘はそう言って恥ずかしそうに笑う。普段料理をしないわりに、いつ提供されてもしっかりした食事が並ぶ。


「それなのにちゃんと作れるんだな」


「うちは両親が共働きだったからね。家事は俺と兄ちゃんとで分担してやってた。凪と同じだよ」


千紘の幼少期の話を聞くのは初めてで、凪は少し驚いた。子供のころ家に両親がいないのは凪と同じような環境のはずなのに、兄弟の関係は全く違う。またそんなことを考える。


「じゃあ、千紘が料理担当だったの?」


「基本的にはね。でも、2人で作った方が早いから、兄ちゃんと一緒に作ることが多かったかな」


「……昔から仲良かったんだな」


「って言っても、兄ちゃん途中でグレちゃったから、中学の頃には俺1人で作ってたけどね」


千紘の言葉を聞いて、やっぱりあの兄はやんちゃしてた類の人間だったかと納得した。


「凪お腹空いてる?」


「今空いてきた。朝飯食ってない」


「俺も。凪の顔みたらお腹減った」


千紘は子供のように笑いながら言った。

ほら、もう諦めて俺のモノになりなよ

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