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#オリジナル
めんだこ
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朝の光は、花弁の隙間からやわらかく零れていた。
風が通るたびに、葉擦れの音が小さく鳴る。 それはまるで、この世界がまだ優しく在ろうとしている証みたいだった。
「……起きてる?」
フィリアの声。
アルトは目を開ける。
「……ああ」
視界に広がるのは、白と緑の混ざる天井。ここに来てから、何度も見上げた景色。
「今日は少し暖かいよ」
フィリアは微笑んでいた。
その笑顔は、以前より少しだけ柔らかくなっている。
「外、出る?」
「……そうだな」
短く答える。
その声にも、わずかな温度が戻っていた。
広場には、リュシアとノクスがいた。
「遅い」
ノクスが腕を組む。
背には、巨大な剣。植物の繊維で編まれたそれは、光を受けて鈍く輝く。
「アルト、また寝てたでしょ」
リュシアがくすりと笑う。
彼女の手には、銃。枝分かれしたような構造で、小さな光の粒を装填している。
「……悪い」
アルトが言うと、ノクスは鼻を鳴らした。
「別に構わん。今日は戦闘じゃない」
「見回りだけだしね」
リュシアが軽く銃を回す。
その横で、フィリアが静かに手をかざした。
空気が揺らぐ。
光が集まり、形を成す。
――武器。
銃の機構と、刃の輪郭が混ざり合ったもの。
「調整、してみたの」
フィリアが言う。
「前より、少し広く届くように」
その武器は、彼女の特性をそのまま映していた。
吸収し、増幅し、解き放つ。
「……お前、ほんと規格外だな」
アルトが呟く。
「そうかな」
フィリアは少しだけ首をかしげた。
「でも、みんながいるから使えるんだよ」
その言葉に、リュシアが笑う。
「なにそれ、ちょっといいこと言ってるじゃん」
「事実だよ」
フィリアはまっすぐに言う。
そのまっすぐさに、アルトは少しだけ目を逸らした。
シオンに会った後、植物の一種だか、奇形の妙な生物がフィリアたちがいる領域内で度々発見された。
“それ”は彼らを襲うような素振りを見せることもあった
そのためアルトたちはその生物を捕獲するのと同時に見回りをすることにした。
見回りは、静かに進んだ。
何も起きない時間。
ただ歩いて、風を感じるだけの時間。
「……なあ」
アルトがぽつりと呟く。
「こういうの、久しぶりだ」
ノクスがちらりと見る。
「平穏か」
「ああ」
アルトは空を見上げる。
「悪くない」
その言葉は、驚くほど自然に出た。
フィリアは、その横顔を見ていた。
何も言わず、ただ。
その変化を、静かに受け取るように。
――少しずつ、ほどけていく。
それは、音もなく進む。
気づけば、戻れなくなるくらいに。
その日の終わり。
夕焼けが、世界を赤く染める。
「ねえ、アルト」
フィリアが隣で言う。
「もし、このまま何も起きなかったら」
「……ああ」
「ずっと、こうしていられるかな」
アルトは少しだけ黙った。
それから。
「……いられるさ」
そう言った。
その答えは、嘘じゃなかった。
でも。
どこかで、それが叶わないことも――知っていた。