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夜。
風が、妙に重い。
「……気づいてる?」
リュシアが小さく言う。
「ああ」
ノクスが剣に手をかける。
アルトも、静かに構えた。
フィリアの周囲で、光が揺れる。
――来る。
その瞬間。
闇が裂けた。
現れたのは、“花人”。
だが。
「……違う」
アルトが低く言う。
その身体は歪んでいた。
花弁は裂け、茎は黒ずみ、まるで無理やり形を変えられたように。
「敵、確認!」
リュシアが叫び、銃を構える。
光弾が連続して放たれる。
細かく、速く、正確に。
だが。
「……効きが浅い!」
「再生してる!」
止まらない。
「……なんだ、これ……」
アルトの声が、かすれる。
そのとき。
一体の“敵”の顔が、わずかに歪んだ。
「……た、す……」
声。
かすかな、声。
アルトの動きが止まる。
「……今の……」
「アルト、下がって!」
フィリアの叫び。
だが。
遅い。
敵が、突進する。
ノクスが前に出た。
大剣が振り下ろされる。
一撃で、身体を断つ。
だが。
断たれたその中心に――
「……核」
アルトが呟く。
「……壊せば、止まる」
その言葉は、どこか機械的だった。
「……やるしかないの!?」
リュシアが歯を食いしばる。
「でも……」
「やるしかない!」
ノクスが吠える。
戦闘が、激化する。
光と、刃と、衝撃。
フィリアの武器が、空間を裂き、吸収された光が、一気に解放される。
広範囲を、焼き払うように。
「……ごめん……!」
彼女の声が、震える。
一体、また一体。
核が砕かれていく。
そのたびに、敵の動きが止まり、崩れ落ちる。
――静寂。
戦いが終わる。
残ったのは。
動かない“花人”たち。
その身体は、元に戻りかけていた。
歪みが消え、穏やかな形に戻っていく。
「……これ……」
リュシアが言葉を失う。
「元の……花人……?」
アルトは、膝をついた。
一体のそばに手を伸ばす。
「……シオン……」
低く、呟く。
「お前……」
拳が、震える。
フィリアは、その光景を見ていた。
静かに。
でも、その瞳の奥で。
何かが、確実に揺れ始めていた。
怒り。
悲しみ。
許せない、という感情。
「……こんなの……」
小さく、呟く。
風が、止まる。
「こんなの、違う……」
その声は、静かだった。
けれど。
嵐の前の、あまりにも静かな海のように。
――次に来るものを、予感させる。
その夜。
誰も、よく眠れなかった。
残されたものが、多すぎたからだ。
生きるために壊したもの。
救えなかったもの。
そして。
――奪われた、選択。
アルトは、空を見ていた。
暗い夜の奥。
そこにいるはずの影を、探すように。
「……シオン」
その名は、もう祈りじゃない。
確かな“対峙”の予兆だった。