テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ちろりーぬ
164
なーさん。です
200
ブラスレット作り
秋も深まってきたある日の保育ルーム。子どもたちが昼寝してから、咲茉の口からまたとんでもない報せが。
「えっ、第3シーズン?」
『うん。続編の続編が製作されることになってね』
「それ絶対エマちゃんが視聴率に貢献してるよね」
『そうなのかは分かんないんですけど、また出演させてもらうことになって』
「へーえ。じゃ、次のシーズンもばっちり録画しとくから」
「結城さんのこと応援してるからね」
「大変だろうけど頑張れよ」
『ありがとう…』
そこまで言って、咲茉が深呼吸をひとつしてからまた口を開いた。
『実は少し前から、次のシーズンの撮影に向けてまた別のスケジュールが加わってて』
「「「?」」」
『これ…』
咲茉が鞄から何かを取り出した。見てみると、“診断書”と書かれた書類と、錠剤のシートが入れられた袋。
「…エマちゃん…、これ……」
『心療内科の診断書です。第3シーズン、沖縄でロケがあるらしくて。まだ少し期間に余裕があるけど、安心して飛行機に乗れるように今のうちから対策が必要だって言われたので…。カウンセリングとかセラピーに通ってるから、またその分こっちに来られない日が増えると思います。すみません』
診断書には“PTSD(心的外傷後ストレス障害)”と記されていた。しかも日付は数ヶ月も前だ。
「既に心療内科に行って診断書もらったってことは、何かあったの?」
『はい…。撮影とかロケのスケジュールを見てパニックを起こしちゃって』
「…パニック?」
『うん。冷や汗かいて、過呼吸起こしちゃった。身体も震えちゃって。落ち着いてからマネージャーさんに話して病院に連れてってもらったの』
「そうだったんだ…」
そういえば、咲茉の仕事が早く終わる筈だった日に、予定より大分遅く帰ってきたことがあったことを思い出した竜一。恐らく、パニックを起こしてしまったというのがその日なのだろう。
咲茉は飛行機事故の生存者の1人だった。竜一や虎太郎、羊子理事長のように“家族が”被害に遭ったのとは違い、咲茉は事故の起こった現場にいて、九死に一生を得る体験をしたのだから、それがトラウマになったって何もおかしいことではない。
『定期的にカウンセリングに行って、セラピーを受けさせてもらって、実際に飛行機に乗って、短い距離から少しずつ移動距離を伸ばしていきましょうって』
「そうかー…。やっぱ飛行機は怖い思いしたのがフラッシュバックしちゃうよねえ…」
見せられた診断書に目を通しながら兎田が言う。
「結城さん、これは?」
竜一が錠剤のシートを見てたずねる。
『これね、抗不安薬。お守りに処方してはもらったけど、今のところはまだ使わずにいられてるかな』
そこで、今まで黙って聞いていた隼が口を開いた。
「……結城。そんな無理してまで飛行機に乗るのか?製作がもう決まっちまってるなら仕方ないと思うけど、今の時代、CGとか合成とかグリーンバックとかもあるんだし、わざわざほんとに飛行機乗って行くようなとこまで行かなくたっていいんじゃねえか?」
「狼谷…」
真っ直ぐに咲茉の目を見る隼。こんな提案、余計なお世話で無駄だと自分でも分かっている。でも、責任感が強く、引き受けたことには手を抜かず最後までやり遂げようとする健気な性格の咲茉のことを思うと、口を出さずにはいられなかった。
『狼谷くん、心配してくれてありがとう。正直まだ、飛行機が怖い気持ちもあるけど、ちょっとずつ訓練して今もう空港から空港までの距離が短いフライトはできてるんだ。沖縄まで行くにはまだ練習を重ねないといけないんだけど、いつまでも恐怖心から逃げてられないから。ちゃんと向き合って克服できたらいいなって』
「そうか……」
咲茉が笑った。自分にはトラウマなんてないから、そのつらさを想像してみることしかできないけれど、それを克服するのはきっと容易なことではないだろう。余程の強い意思と、本人の努力や周囲のサポートが必要になることくらいは隼にも分かる。
「…エマちゃんは強いね。こっちのことは心配しなくて大丈夫だから、自分の心と身体を何より大事にしてあげて」
そう言って、兎田が咲茉の頭を優しく撫でた。
『はい。ありがとうございます』
竜一が咲茉の手を握る。
「正直心配だけど、結城さんが決めたことなら応援するよ。俺にできることがあれば何でもするから言ってね」
『うん、ありがとう』
咲茉も竜一の手をきゅっと握り返した。
その後、咲茉は学校と部活と仕事に加え、定期的に心療内科にも通う日々を送った。そして学校が休みの日には実際に飛行機に乗る練習も続けている。経過は順調とのことだ。
12月。ついに沖縄までのフライトに挑戦する日が決まったので、保育ルームのメンバーに報告する。
「そっか。緊張するだろうけどエマちゃんなら絶対大丈夫だよ。頑張れ」
『はい。ありがとうございます』
「きりんちってゆ!おちなわには、ちいしゃあっていうかみちゃまがいゆんでしゅ!」
帰りの仕度をしながら奇凛が話し掛けてきた。
「そうそう、シーサーね。奇凛は物知りだな」
「えへへっ」
兎田に褒められて満足気な奇凛。
「おでっ!おでもおきなわいぐ!」
付いて行く気満々な鷹。
「いや、遊びに行くんじゃないから」
兎田が笑いながら宥める。
『お仕事で飛行機に乗る為の練習なんだ。今回は行ってすぐ帰ってくるから時間ないけど、本番で行った時はお土産いっぱい買ってくるよ。だから楽しみにしててね』
咲茉が順番に子どもたちの頭を撫でた。
「おみやげー!」
「やくしょくだじょ!」
「あーばっ!」
大喜びの子どもたち。
『そういえばもうすぐクリスマスだけど、みんなはサンタさんに何をお願いするの?』
ハッとする子どもたち。そして口々に欲しいものを叫んで教えてくる。
「いや、聖徳太子じゃあるまいしいっぺんに言われても分かんねえから」
兎田がケラケラ笑う。そして子どもたちは順番に欲しいものを言い直す。
クリスマス…、か……。
竜一は昨年のクリスマスを思い出した。毎年サンタクロース役をしていた父に代わり、昨年は自分がサンタの格好をして虎太郎を喜ばせようとしたが、猿渡父の扮したサンタクロースと、森ノ宮邸に集結した保育ルーム関係者たちによって、借りてきた衣装は使わない結果となったのだった。しかも後から知ったが、一時滞在していた咲茉も、その作戦に加担していたらしい。
今年はどうしようか。咲茉が飛行機を克服すべく努力しているのを知っているので、何か彼女の力になるものを贈りたい。
……!そうだ!
今度保育ルームのメンバーでショッピングモールへ行くことが決定しているので、そこで何かいい案が浮かぶかもしれないと思った竜一だった。
次の日曜日。保育ルームのメンバーでショッピングモールに出掛けた。咲茉は撮影で来られず残念がっていた。
「りゅうにいちゃまみてくだしゃい!ほうせきのおみちぇでしゅよ!」
奇凛が指差したほうを見ると、ブライダルジュエリーの店だった。
「およめしゃんのどれしゅもありましゅ!」
ウエディングドレスのサンプルも飾ってあった。奇凛が店舗の前に展示されているショーケースの中を見たがるので、竜一が抱き上げて見せてやる。
「わあっ!ちれい!」
やはり女の子だ。キラキラ輝く指輪やネックレス、ピアス等のアクセサリーをうっとりと眺めている。
「ほんとだ。綺麗だ…ね……!?」
高校生には目玉の飛び出るような金額だ。
「う!にちゃ。こたも」
虎太郎も見たがっているのに気付き、隼が抱えてショーケースを見せてやる。
「かみちゃ、ほしぇき、きれい」
「あ?…あー、そうだな」
シンプルなものから某有名映画製作会社コラボの凝ったデザインのものまで種類豊富だ。
「あら、奇凛。何を見てるの?」
「きいちゃ!こたろ!」
「ブライダルジュエリーはまだ早いんじゃない?」
奇凛の母、拓馬に数馬、その母もやって来てショーケースを覗き込む。確かに、まだまだ気が早い。
「まま!これほちい!ままのゆびわみたい!」
「そうね、綺麗ね。でもこれはまだ早いわ。奇凛がもっと大きくなって、素敵な旦那さんと結ばれたら一緒に選ぶといいわ」
「うんっ!」
「…セ●ム親父が暴れそうだな」
ボソリと呟いた隼の発言に、竜一や母たちが苦笑いした。
「あっ、ブライダルジュエリーはまだ買えないけど、子ども用のアクセサリー屋さんがあっちのほうにあったわよ」
狸塚母の言葉に子どもたちが目を輝かせる。
「まま!しょのおみちぇいきたい!」
「いいわよ」
他のメンバーにも連絡し、その店の前に集合した。
「わあ〜っ!」
「まま!これほしい!」
「おでこれがいいじょ!」
「おれ、これがいい…」
「にちゃ!こりぇかう」
「あぶーっ!」
一般的に女児が好みそうなものだけでなく、男児が好きそうな商品もたくさんあった。
「おーおー、好きなのあってよかったな、お前ら」
大はしゃぎする子どもたちの様子を写真におさめながら兎田も楽しそうだ。
「こっちにオリジナルのアクセサリーが作れるコーナーがあるわよ」
美鳥の母の言葉に一斉にそちらに集まる子どもたち。
「わあ。ビーズで色々作れるんだ!」
「にちゃ。こた、こりぇつくう」
「えっ?」
虎太郎が指差したのはサンプルで置いてあるブレスレット。
「おで!おでもつくるじょ!」
「きりんもちゅくりたい!」
「おれ、かじゅまにつくるー!」
「おれも…、たくまにつくゆ…」
すっかりやる気になった子どもたち。全員が作る気満々なので店員を呼び、先に製作費の会計を済ませてから、みんなでオリジナルアクセサリーを作ることになった。ゴムテグスの片方の端をセロハンテープで机に固定し、そこに好きなビーズを通していく。
ビーズは大きく、穴も大きめのものが空いているが、太めのゴムテグスをビーズの穴に通して繋げていくのはなかなかに根気が必要な作業だった。それでも1つ、2つとビーズの穴に通せると自信に繋がり、やる気の継続にも繋がった。
「これ、えまねえちゃんのおめめ!」
拓馬が澄んだ青いビーズを指でつまんでみんなに見せた。彼の言う通り、咲茉の瞳の色によく似た青さだった。
「ほんとだ。綺麗な色だね!」
竜一も同意する。
「おでもえまねえちゃのおめめほじい!」
「きりんもえまおねえちゃまのおめめほしいでしゅ!」
「お前らが言ってること、超恐ろしいから」
兎田が腹を抱えて笑っている。
「…あ、でもその青いビーズ、もう入ってないね」
ビーズの容器をかき混ぜながら竜一が言うと、一瞬で子どもたちの顔に絶望の色が浮かんだ。
「在庫がないか聞いてくるわね…」
奇凛の母が店員にたずねに行き、数分後戻ってきた。幸いまだ在庫があったそうで、みんなが欲しがった青いビーズを追加してもらった。
「エマちゃんも一緒に作れたら楽しかったでしょうね…」
残念そうに美鳥の母が呟く。
「結城さんもすごく来たがってました。何かお土産に買って帰りたいと思ってるんですけどいいのが浮かばなくて」
「それなら、エマちゃんにもブレスレット作ってあげたら?ここのビーズだとちょっと子ども向けな感じになるけど、あっちにパワーストーンのお店があるから見てみるといいわよ」
拓馬と数馬の母がまたしてもいいことを教えてくれた。
「そのお店なら私も知ってるわ…。もちろん既製品もあるけど、自分で石を選んでブレスレットを作らせてもらえるのよ。…これがそのお店で作ったものなの」
奇凛の母が服の袖を少し捲るとパワーストーンのブレスレットが顔を出した。
「いいですね!ちょっと見てきます!」
「あっ、鹿島くん待って」
鷹のブレスレット作りを手伝っていた狼谷母が竜一を呼び止める。
「隼。兎田くんも一緒に行ってらっしゃい」
「なんでだよ」
「え、俺もッスか」
「そうよ!あんたたち散々結城さんにお世話になってるんだから。3人からのクリスマスプレゼントってことにすればいいじゃない」
「あー、そッスね。…んじゃ、竜ちゃん、隼。エマちゃんの為にとびきりのブレスレット作りに行こうか」
「こっちはまだまだ時間掛かりそうだから大丈夫よ。子どもたちは私たちが見てるから」
「じゃあ、よろしくお願いします!」
竜一、隼、兎田は今いる店を出て、通路を挟んだ向かいのパワーストーン専門店へと足を運ぶ。
「わあ…、すごいいっぱい種類ある…」
「こんな色付きの石にほんとに何か効果があんのか?」
「竜ちゃんも隼も思ってた通りの反応するね」
3人でパワーストーンを眺める。
「ちゃちゃっと選んで作ってあっちに戻ろ。…すみませーん」
兎田が店員を呼び出した。
「いらっしゃいませ」
「あのー、ブレスレット作りたいんスけど、いいですか?」
「はい、承知しました。ビーズはこちらからお選びいただいて、作業は奥のテーブルへどうぞ。こちらは各石の名前と効果をまとめたものです」
「あ、ども」
兎田が3人分、小さなリーフレットを受け取り、竜一と隼に渡す。
「んじゃ、早速選ぼ」
「そうですね。でもどれを使うか迷うなあ」
「石の大きさは?それによって完成形が変わるだろ」
「金額もね。…んー、とりあえず水晶は入れようか。“万能の石”って言われてるし。で、それぞれ好きなの選んで通そう。エマちゃんは華奢な手してるからビーズは小と中でいいかな。水晶を小にして、他の石は中で」
アクセサリーなんて作ったことがないので、竜一も隼も兎田の言う通りに石を選びに行った。
しばらくして作業用スペースに集まった。それぞれが選んできた石をトレイに並べて配置を決める。
「せっかくだしこれも入れちゃお〜」
「それ何ですか?」
「ロンデルっていうの。装飾用のビーズね。これを間に挟むと華やかさがプラスされるんよ」
「へぇ〜!」
配置が決まったのでゴムテグスに通していく。
「よーし、完成!」
「すごい!可愛いのができましたね!」
「細けえ作業だったな…」
店員に結び目の処理をしてもらい、会計ついでにラッピングもしてもらった。
3人が先程の店に戻ってくると、子どもたちはまだブレスレットを作っていた。
「まだやってんのかよ」
「仕方ないでしょ。子どもは大人と違って指先の神経とか未発達なんだから。みんなよく頑張ってるじゃないの」
呆れた態度をとる隼を母が宥める。
でもまあ、春にシロツメクサで花輪を作った時のことを思い出すと、今回は弟も自分の力でビーズをテグスに通せていると思った。
そこから更に十数分後。やっとブレスレットを完成させた子どもたち。みんな大喜びだ。
「かあちゃ!はらへったじょ!」
「はいはい。じゃあ、ブレスレットもできたしお昼ごはんにしましょうか」
子どもたちは今作ったブレスレットを早速手首に着けて、母や兄と手を繋いでフードコートへと向かった。
つづく
コメント
1件
いやー、今回もめっちゃじーんときたわ…。咲茉ちゃんのPTSDの話、重いテーマなのにすごく丁寧に描かれてて、隼が「無理すんな」って言ったとこグッときた。で、子どもたちが青いビーズで「エマねえちゃんのおめめ!」って言い出すシーン、かわいすぎてやられた。最後の3人でこっそりパワーストーンブレス作るところ、もう完全に愛だよ…🔥 クリスマスプレゼント、絶対喜ぶね。続き楽しみ!