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トラウマ克服
咲茉の沖縄までのフライト練習が近付いてきた。
放課後、久し振りに予定がなかった咲茉は竜一と隼と一緒に保育ルームへ向かった。
『お疲れ様です』
「あ〜、3人ともお疲れ〜」
兎田は今日も床に寝そべったまま子どもたちの相手をしていた。
「えまねえちゃまみてくだしゃい!きりんのぶえすれっと!」
早速奇凛が先日作ったブレスレットを手首に着けて見せる。
『わあ!素敵なのができたね!』
「おでもつくったじょ!」
「かじゅまも」
「う。こたも」
他の子どもたちも見せに来る。
『みんなすごく素敵!頑張って作ったんだね!』
褒められて嬉しそうな子どもたち。
「おれもつくった!これ、えまねえちゃのおめめ!」
「みーんなおなじあおのびーじゅちゅかってゆんでしゅよ!」
『えっ』
見ると全員の個性溢れるブレスレットに数個ずつ同じ青いビーズが通されていた。
「おれおねえちゃだーいすきだから!」
「きりんだっておねえちゃまだいしゅきでしゅ!」
「おでがいちばんすきなんだじょ!」
「う。おねちゃ、しゅき」
「かじゅまもだいしゅき」
子どもたちの言葉を聞いて咲茉が目を潤ませた。
『嬉しい。みんなありがとう。私もみんなのことがだーい好き!』
咲茉が笑って子どもたちを抱き締める。
「エマちゃん、エマちゃん」
起き上がった兎田が声を掛けた。
『はい。何ですか?』
何かを取りに行き、咲茉の前に戻ってきた。そこに竜一と隼も集合する。
「これ。俺たちから結城さんに」
『えっ!?』
「エマちゃんいっぱい頑張ってるから。ちょっと早いけどクリスマスプレゼント」
『!』
「3人で作ったんだ。気に入ってもらえるといいんだけど」
手渡された手のひらサイズの小さな袋。
『ありがとうございます。開けていいですか?』
「いいよー」
そっとリボンを解いて袋を開け、中から出てきた平たい箱を開く。
『…わあ…!』
そこには小さめの透明の石に、それより少し大きい緑、朱色、淡い水色の石が挟まれたブレスレットが鎮座していた。ところどころに組み込まれたロンデルがキラキラと光り輝いている。
「水晶以外の石はそれぞれが選んだんだよね。ちなみに、竜ちゃんが選んだのが緑のやつ、隼が水色、俺がオレンジっぽい赤っぽい石ね。石の名前と効果は…、あー、忘れた。けど、そこに書いてあるよ」
兎田に言われて、ブレスレットと一緒に入っていたカードを取り出して目を通す。
透明の石は水晶。万能の石。浄化にも用いられる。緑の石はアベンチュリン。精神の安定と平穏を授ける石。朱色の石はサンストーン。勝利と成功へと導く太陽神の石。
そして水色の石。シーブルーカルセドニー。心身の調和と、愛情や幸運をもたらす石。
「「「!?」」」
咲茉の目から涙が零れ落ちた。
「えっ、結城さん!?」
「どうした!?」
「エマちゃん!?」
「おねえちゃま、どうちたの?」
子どもたちも心配そうに咲茉の顔を覗き込む。
『………。すっごく嬉しくて。…ありがとうございます!大事にします!』
頬に零れた涙を拭い、咲茉が笑った。それを見て竜一たちも安心する。
「俺たちみんな、エマちゃんの味方だからね」
兎田が咲茉の頭を撫でた。
『ありがとうございます!みんな大好き』
「…危ね〜。エマちゃん可愛すぎてうっかり抱き締めるとこだったわ」
「うしゃいだ!しぇくはやはだめでしゅよ!」
ちろりーぬ
164
なーさん。です
200
幼児にセクハラを注意される大人。そしてみんなで笑う。
咲茉は3人からもらったブレスレットを箱ごときゅっと胸に抱いた。
ついに咲茉が沖縄までの飛行機に乗る日。
理事長と犀川は別の用事で来られなかったが、竜一と虎太郎、隼と鷹が空港まで見送りに来た 。
「ほら、虎太郎。あれが飛行機だぞ」
「う!ひこき!」
「でっかいじょ!おでものる!」
「お前は乗らねえよ」
弟たちは初めて間近で見る飛行機に大興奮だ。
『わざわざ見送りに来てくれてありがとう』
そう言って笑う咲茉だが、少し顔が強張っている。
「…結城さん、緊張してる?」
『うん。少しね。ドキドキしてる…』
「薬は?」
『一応持ってるよ』
「大丈夫?無理してない?」
『…ん…、多分大丈夫』
ふううう……、と咲茉が細く長く息を吐く。
「マネージャーさんは一緒じゃないの?」
『お子さんが盲腸になったとかで、緊急手術で一緒に行けなくなっちゃったの』
「えっ!?それじゃ、こっちと沖縄の往復は1人で!?」
『うん…』
「マジかよ」
家族の事情なら仕方ないかもしれないが、それなら咲茉もキャンセルして日を改めてもいいのではないだろうか。
「別の日じゃだめなの?どうしても今日1人で行かなくちゃいけないの?」
『もし今日がだめでもまだ行く日はあるんだけど、本番までに1回でも多く練習しておきたくて』
竜一も隼も、今すぐにでも航空券を買って付いて行ってやりたいと思ったが、小さい弟たちもいるのでそうもいかない。
『大丈夫。頑張ってみるって決めたの。片道3時間くらいのが2回あるだけって思うことにしてる』
「…そっか……」
竜一が心配そうに咲茉を見つめる。本人の意思が固いのだから、いくら自分たちが何か言おうと、咲茉は今日飛行機に乗るのだろう。
『大丈夫。私にはお守りがあるから』
「病院からもらった薬?」
『それもだけど。こっち』
咲茉が服の袖を軽く捲った。
「「!」」
彼女の左手首には、先日兎田と3人で石を選んで作ったパワーストーンのブレスレットが着けられていた。
『これがあるから頑張れる』
大事そうにブレスレットに触れる咲茉。
「結城さん…」
竜一が咲茉の手を両手でぎゅっと握った。
「…絶対、絶対帰ってきてね。約束して」
『うん…!ちゃんと帰ってくるから。待っててね』
咲茉も竜一の手を握り返した。
「おねちゃ、ばんかぁれ」
「おでがぱわーわけてやるじょ!」
虎太郎と鷹が咲茉に抱き着く。
『2人とも、ありがとう。元気出た!』
咲茉が嬉しそうに笑った。
「…結城」
隼が口を開いた。
「きっと大丈夫だから。頑張れ。でも無理だけはするなよ。しんどくなる前に周りに助けを求めろ」
『うん。狼谷くん、ありがとう』
ぽん、と隼が咲茉の頭に手を乗せた。
『…!』
がっしりとした大きな手のひら。温もりが伝わってくる。
『ありがとう。……それじゃ、行ってきます』
「行ってらっしゃい」
「気を付けろよ」
咲茉は4人に手を振り、保安検査場へと向かった。
「………」
「お前も青い顔すんな。虎太郎も不安になるだろが」
「…そうだな」
竜一と隼は咲茉の姿が見えなくなるまで彼女の後ろ姿をじっと見つめていた。
その数十分後、咲茉が乗り込んだであろう飛行機が動き出した。滑走路を走り、空へと飛び立つ。
虎太郎と鷹はその様子を見て大興奮だっだか、咲茉の事情を知っている兄2人は、彼女が無事に飛行機移動の練習を終えることをただひたすら願っていた。
翌日。夕方の便で咲茉が沖縄から帰ってきた。弟たちは家族に任せて、竜一と隼が空港に迎えに来た。
そわそわした様子の竜一。隼も表には出さないが内心落ち着かない気持ちでいた。
咲茉の乗った飛行機の到着予定の時間になった。同じ便に乗っていた乗客がぞろぞろと出てくる。
「…あっ!」
「いたか?」
先に咲茉に気付いたのは竜一だった。
「結城さん!」
竜一の声に、遠くの咲茉がハッとした顔になった。そして速歩きでこちらに向かってくる。
竜一が思わず走り出し、帰ってきた咲茉を思い切り抱き締めた。
「よかった…!結城さん、ちゃんと帰ってきてくれた…!」
竜一の目から涙が溢れた。頬を伝って咲茉の肩に落ちていく。
『鹿島くん…っ…』
咲茉もつられて涙を流す。そして竜一の身体にぎゅっと腕をまわした。
そこへ隼が追いついた。
「…結城、お疲れ。おかえり」
まだ竜一に抱き締められたままの咲茉の頭をそっと撫でた。
『えへへ…。ありがとう。ただいま!』
咲茉が泣き笑いの表情になり、安心したように顔を綻ばせる。
『…鹿島くん、もう泣かないで』
変装の為の伊達眼鏡を外して目元を拭い、とんとん、と竜一の背中を軽く叩く。竜一がぐす…、と鼻をすすりながら、ゆっくりと身体を離した。
「ごめん。正直怖かったんだ。飛行機事故なんてそう起こるものじゃないって頭では分かってるんだけど、やっぱり父さんと母さんのこと思い出して不安になっちゃって…」
服の袖で涙を拭う竜一。
『私も怖かった。でもパニック起こすこともなく乗っていられたよ。鹿島くんたちからもらったブレスレットのおかげね』
咲茉が左手首に着けられたブレスレットにそっと触れる。
『ちょっとドキドキが強くなったりもしたけど、大好きなみんなの顔を思い浮かべたら落ち着いたの。何よりのお守りだったよ。ありがとう』
咲茉の言葉に竜一と隼も微笑んだ。
「じゃ、帰るぞ」
「そうだな。おばあさんたちも待ってる」
『うん!』
3人でバスに乗る。辺りはすっかり暗くなっていた。
「また練習するの?」
『そうだね。今回1人でもなんとか大丈夫だったけど、もう1回くらい乗る練習しときたいかな』
「観光はできたか?…そんな時間ないか」
『時間ないことはないんだけどね。ホテルに着いたら疲れて動けなくなっちゃって、なーんにも見て回れなかった。そのまま夜まで寝ちゃってたの』
「そうか…」
ただでさえトラウマを抱えた飛行機に、しかもたった1人で乗って片道約3時間耐えたのだから、それだけでエネルギーを消費してしまっても仕方ない。
『次行く時はその辺を散策してみようかなと思う。せっかく沖縄に行くんだからね』
咲茉は既に次のことを前向きに考えているようだ。その様子に竜一と隼の心配が少しだけ和らぐ。
『風とか気流の乱れで飛行機が揺れた時はやっぱり怖かったけど、ちゃんと大丈夫だったよ』
「うん、よかった」
「…ちょっとすっきりした顔してるな」
隼の言う通り、咲茉の表情が明るくなっていた。
『無事に行って帰って来られたからね。少しだけ自信もついたんだと思う』
「そうだな」
バスを降りる。
「昼間はあったかかったけど、夜はやっぱり冷えるね」
「12月だしな」
『沖縄は夜もこっちよりあったかかったよ』
そう言いながら、咲茉が首に巻いたマフラーを一旦外す。そして頭と耳と首まですっぽり覆うように巻き直した。
「あ、“マチ子巻き”だね」
『うん。覚えててくれたんだね。あったかいんだよ』
「その面白え格好、冬の風物詩になりそうだな」
『ふふふ』
白い吐息が冬の夜空に溶けていく。
『……ねえ、狼谷くん、鹿島くん。1個だけ甘えてもいい?』
「どうしたの?」
「何だ?」
『少しの間だけ手繋いで欲しいの』
「えっ」
「!?」
竜一が少し顔を赤らめ、隼は目を見開く。
『…やっぱりだめか〜』
そう言って残念そうに笑う咲茉の手を、竜一がぎゅっと握った。
「だめじゃないよ。結城さんが嫌じゃなければ」
『ほんと?ありがとう』
「ほら、狼谷も」
暗いし、まじまじと見なければ手を繋いでいるなんて他人からは見えないだろう。
「…ったく。仕方ねえな」
隼も咲茉のもう片方の手を握ってやる。冷え切った華奢な手の感触に心臓が小さく跳ねた。
『やった!嬉しい。…あのね、行きも帰りも2人が空港まで来てくれてすごく心強かったの。ほんとのことを言うとね、マネージャーさんも来られなくなって1人で行くの不安だったんだけど、2人と、鷹くん虎太郎くんの顔見たら頑張ろうって思えたんだ』
「そうなんだ。よかった」
「行った甲斐があったな」
『うん。ありがとう』
3人で手を繋いで夜道を歩く。
「…つーか、はたから見りゃ異様な光景だろうな、俺たち」
「ほんとだ」
『確かにね』
マフラーでマチ子巻きした女と、それを真ん中に挟んで手を繋いでやる男2人。
「でも、手はあったかいし結城さん帰ってきてくれて嬉しいから、俺はこのままでいいや」
「まあな」
『ありがとう』
結局、竜一と隼と咲茉は家に帰り着くまで3人で手を繋いだまま歩いた。
澄んだ冬の夜空にはたくさんの星が輝いていた。
つづく
コメント
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第24話、読み終えました……! 咲茉さん、トラウマを乗り越えて飛行機に乗る決意をしたところから、実際に沖縄まで行って帰ってくるまで、本当に感動しました。特に空港で竜一くんが涙しながら「ちゃんと帰ってきてくれた」って抱き締めるシーン、もう私ももらい泣きしそうになりました。あと、3人からもらったブレスレットをお守りにしてるのが心に響きます。マチ子巻きでほっこりしながら、最後に3人で手を繋いで歩く夜道、あったかくて優しい空気が伝わってきました。大切な人の存在がどれだけ力になるか、改めて教えてもらえた回でした。お疲れ様です、咲茉さん!🤍🕊️