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それから15年の日々が過ぎた。私は40歳になっていた。いわゆる中堅社員と呼ばれるようになったその頃の私は、若手の時は営業成績トップだったのが、他の新人社員や同僚たちに先を越され、次々と出世していく中で私だけ平社員のまま日常を過ごしていた。なぜこうなってしまったのか、若手の頃キャバクラ遊びにハマり、仕事の最中でもその事ばかり考えるせいか営業能力も落ち、身に入らなくなっていったからだ。だが、こんな私でも営業部の部長は私をここに置いてくれていた。その頃の私はすっかりその部長に甘えきっていたと思う。そんな日々も長くは続かなかった。
ある日、部長が定年退職を迎え営業部を去っていった。それと入れ替わるように新しい部長が入ってきた。いかにも最近部長に昇格しましたと言わんばかりの風貌、年齢は私よりも少し年下の男性だった。
こいつは事あるごとに私に文句をつけてきた。やれ営業のノルマは達成できてないだの書類の書き方がおかしいだの何かにつけて私を叱っていた。彼が部長に就任してからの日々は、毎日が苦痛に満ちたものだった。私はどうやってこいつを殺してやろうか、苦しめてやろうか、もうそれしか考えていなかった気がする。常に仕事をしながらそれしか考えていなかった。ずっとずっと、どうやって殺そうか、何人も殺し、何かにつけてその罪から逃げ続けてきた私。今回も殺したってあの井戸がある。何にも問題はない。殺しても殺しても何もなかったことになる。
そうだ、今回も殺してしまおう。どうせ何も起こらないさ。
しかし、なかなかその時は訪れない。それもそうだ、ここは会社だ。私の方が先に定時で上がるし、それ以降部長とは接点がない。
どうやったら殺せる………?
仕事も手につかないほど考え込んでいた。が、その時は突然訪れた。
先程も話した通り、部長を殺害する事ばかり考えているせいで、ある日残業になってしまった。しかも最悪なことに、部長も一緒に残業すると言い出したのだ。
待てよ、これはもしかしてチャンスなのでは?
と私は思ったが、タイミングがなかなか訪れない。しかし、今日を逃せば今度いつチャンスが回ってくるかわからない。
そんなことばかり考えているせいか、残業も身に入らない。お陰でまた部長に怒られる。
もう我慢の限界だ。私は部長の机の上にあった灰皿を手に取り勢いよく部長に向かって殴りつけた。
私は一心不乱に殴り続けていた。ずっと部長はやめろ!とかやめてくれ!とか叫び続けていたが、しばらくするとその声も聞こえなくなっていた。
もうやってしまったとか、そんなことよりもさっさと死体を処理せねば。
幸い、会社には誰もいない。私は慣れた手つきで退勤処理を行い、会社を出た。死体と共に。
すぐに実家の井戸に向かった。
井戸へ着くと、私は淡々と死体を軽く処理し井戸へ投げ捨てた。どうせ次の日には消えている。明日も会社だ。確認しなくても大丈夫だろう。いや、確認するまでもない。
私は車に乗り込み、自分の家に戻った。
次の日、会社に行くと部長が出社してない事で軽く騒ぎになっていた。
周りから口々にいい部長だったのにとか、待遇が悪いから辞めたんじゃないとか聞こえて来る。私が殺したことはバレていないようだ。
それからまだしばらくはその会社に残り、仕事を続けていた。相変わらず平社員のままだったがあの部長がいないだけ、まだいくらかマシだった。新しく来た部長は穏やかで何も言わなかった。
それから20年、60歳間近になった私は母親の介護のため退職することになった。
ここまでが、私の殺人履歴である。
と、私は取り調べ室で刑事にそう答えた。