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第1話.「コートの外の三角関係」
体育館に響くボールの音。
バレー部の練習はいつも熱気に包まれていて、その中心にはキャプテンの及川徹がいた。
華やかなプレーと明るい性格でチームを引っ張り、後輩や同級生からも絶大な信頼を集めている。
そんな及川の隣で、いつも淡々とボール拾いやスコアを記録しているのがマネージャーの春竜だ。
「春竜ちゃん、今日もありがとう。君がいてくれるから、俺たち頑張れるんだよね~」
ウィンク混じりの笑顔に、周囲からは「また始まった」という視線。
だが春竜は顔を赤くしながらも、なんとか冷静を装っていた。
一方、同じコートの端で、そのやりとりを無表情に見ていたのが国見英。
長身でクールな彼は、感情をあまり表に出さないが、春竜に対してだけは微妙に反応が違う。
練習後、体育館に残って水のボトルを片づけていた春竜のもとへ、国見が近づいてきた。
「……あんまり、あの人の言葉、本気にしなくていいから」
「え?」
突然の言葉に春竜は振り返る。
「及川さん、誰にでもああだから。……春竜ちゃんが特別ってわけじゃない」
国見は視線を逸らしながら、少しだけ語尾を強めた。
そこへ、タイミング悪く及川が戻ってくる。
「え、何何? 国見ちゃん、俺の悪口言ってた?」
からかうように肩を組む及川。
国見は小さく舌打ちし、そっぽを向いた。
春竜は二人の間に立ち尽くし、胸の鼓動が早まるのを感じる。
キャプテンとして眩しい笑顔で近づく及川。
同い年で、不器用ながらも真っ直ぐな国見。
翌日の放課後。
体育館には、今日も力強いボールの音が響いていた。
マネージャーの春竜はスコアを取りながら、無意識に視線をコートに向ける。
「ナイス、国見ちゃん!」
及川の声が飛ぶ。国見は相変わらず表情を崩さないまま、正確なレシーブを返した。
練習が終わり、部員たちが片づけを始める頃。
「春竜ちゃん、今日は帰りに買い出し付き合ってくれない?」
いつものように笑顔で声をかけてきたのは、もちろん及川だ。
春竜が少し迷っていると、国見が横から口を挟む。
「……俺も行く。荷物、重いだろ」
「え~、国見ちゃんまで? これはまさかの“春竜ちゃん争奪戦”ってやつ?」
にやりと笑う及川。
春竜の頬が熱くなる。
「そ、そんな大げさな……」
結局、三人で並んで商店街へ向かうことになった。
夕暮れの道。及川は軽快に冗談を飛ばし、国見は無言で春竜の手から荷物を取り上げる。
どちらも違う形で優しく、どちらも春竜の胸をざわつかせた。
――コートの外でも続く、この攻防。
春竜はまだ、どちらの心に応えるのか決められずにいた。