テラーノベル
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ある晴れた日の昼下がり、お店が定休日の日に、俺は阿部を自宅に招待した。
せっかく仲良くなれたこの繋がりを大切にしたくて、連絡してみると阿部は嬉しいと言ってくれた。
阿部は素直で、優しい子。俺のお店にずっと通ってくれていて、いつも幸せそうに俺が作るご飯を食べてくれる。弟みたいで、何かと面倒を見たくなる。
最近阿部は、俺の恋人と一緒に仕事をしている子とお付き合いをするようになったそうだ。そういうことも相まって、今まで以上に阿部と会う機会が増えた。
もうすぐ阿部が来る時間になる。
用意したお菓子をお皿に並べて、阿部の好みに合うようなコーヒーや紅茶の茶葉を、戸棚からいくつか出しておく。
ある程度準備が終わったところで、窓のそばに飾ってある薔薇の水を取り替えに向かう。
この薔薇たちは、あの日からいつまでも色褪せることなく、ずっと咲き続けてくれている。
この家から、薔薇が絶えてしまう日が、この先もずっと来ませんようにと祈りながら、俺は毎日水を取り替える。
花瓶の水を入れ替えて、もう一度窓に戻したところで、スマホが鳴る。
どうやら、阿部が到着したようだ。階段を降りて、バックヤードを抜ける。カランコロンとベルが鳴るドアを開けると、阿部が立っていた。
「いらっしゃい、来てくれてありがとう」
「こんにちは!誘ってくださってありがとうございます!」
「ううん、俺が誘いたかったの。どうぞ。」
阿部がこの前ここに来てくれた時は、みんなんでご飯を食べた日だった。
驚きと幸福と人のご縁に溢れた楽しい日だったと振り返りながら、飲み物の用意をする。
「阿部、飲み物何がいいかな? 紅茶とコーヒーと色々あるけど」
「ありがとうございます! うーん…迷っちゃう…」
「ふふっ、いつも通りおまかせでいいかな?」
「はい!お願いします!」
スコーンとクッキーとマドレーヌを焼いたので、それに合いそうなセイロンを選んだ。
ある程度食べたら、阿部の好きな甘いカフェオレを淹れよう。
「あれからどう?彼とはうまく行ってる?」
小さなお茶会の用意をしながら、阿部に尋ねる。
阿部は少し照れくさそうに笑っていた。
「うまく行ってるのかな…? でも、毎日とっても幸せです。目黒くんはすごく優しくて、いつも大切にしてくれるので逢えない日も寂しくないです。」
「ふふ、初々しくて良いね。二人を見てるとこっちまで幸せな気持ちになるよ。」
ポットに茶葉を入れて、お湯を注ぎ、トレーにカップとお菓子と、全て乗せて、テーブルへ運んだ。
阿部は目の前に並ぶものにキラキラと瞳を輝かせてくれるので、作った甲斐があったなぁと嬉しくなり、自然と顔が綻んだ。
茶葉が蒸れる頃を見計らって、テーカップに紅茶を注ぎ、阿部に「どうぞ」と出す。
二人で他愛もない話をしながら菓子を食べていると、突然阿部が俺に質問を投げかけた。
「オーナーと渡辺さんは、どういう出逢い方をしてお付き合いをするようになったんですか?」
きょと、と固まってしまった。
まさかそんなことを聞かれるとは思っていなくて、少し驚く。
「そんなに面白い話じゃないよー?」
少し気恥ずかしくて濁してしまうが、阿部は興味津々といった表情で、こちらをじっと見ていた。
…これは、話すしかなさそうだ……。
「ちょっと長い話なんだけど、いいかな?」
俺とあいつの長い長い昔話、始まります。
コメント
3件
ゆり組〜‼️‼️‼️❤️❤️❤️❤️❤️
ゆり組来たー!!!!ひそかに待ってました🫣💙❤️ めめあべのお話と繋がってるってことですよね😍🖤💚