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あざらし
10
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たべ
103
【熱愛報道!?】
【夜、二人きりの食事会…!?】
そんな記事が出たのは、僕の誕生日の一週間前。つまり三月十八日、今日だった。
朝から事務所はてんやわんや。電話は鳴りっぱなし…だった、らしい。僕は朝に熱愛報道を知ってから、ぼうとしてしまっていたから。
嘘なのか、ホントなのか分からない。
セラ夫に限って、ってアキラは言ってたけど、人の裏側なんて見れるものじゃないし、どれだけ長い時間一緒にいたって崩れ去るものだって知らないことだってあるんだから
ただ、紙面に載っていた写真には、せらが昔配信でコラボしてた女の子と二人で飲食店から出、そのままホテル街に消えていく所が写っていた。
こんなの、信じたくても信じられない。
今この瞬間、目の前の紙面から伝わる偏見に満ちた報道だけしか頭に入ってこなかった。
頭を冷やそうとスマホを見れば、気持ち悪いくらいの数字。
最近せらと表でもスキンシップが多かったからか、僕の方にまで報道の認否を聞いてくるリプライが溢れている。
どうなんですか、って
セラフくんは本当に付き合ってるんですか、って
知らないよ、そんなの。
僕が知りたい、でも余裕なんてない。
せらがくれたあの熱が嘘かもしれないだなんて、思いたくない。
ああ、せらの事を、世界に縛り付けて動けない様にして、ヴォルタを存続させることが目的だった筈なのに。
「おかしくなっちゃった、全部」
いつの間にか自分も変わってしまった。
こんな報道が出て悲しいと落ち込んで調子が出なくなるくらいには、せらのことが好きになってしまったらしい。
”奏斗、…その、なんて言ったらいいか……今日は、ゆっくり休んでくださいね…”
そう言ってきたのは誰だったか。あきら…だった気がする。あんまり覚えていない。僕とせらが付き合っているという事情をふんわりとだけ知ってるメンバーを筆頭に、事務所からあれよあれよと帰されて、気付けば自分の部屋にいた。隣には大量の酒の缶。買った記憶が無い。怖い。
スマホの通知を見ても、肝心の彼からは何も来てないし。
「馬鹿、馬鹿男。」
「泣いてなんか、やらないからな亅
ベッドでヤケ酒だなんて、痛い女がすることみたい、 こんなに沢山飲んでしまったら、明日の仕事なんて出来ないんじゃないか。
まさか僕が、全部どうでもいいと思えるくらいせらに堕とされる事になるなんて思わなかった。
好きになるわけないと、なってはいけないと、思ってたのに。
「好きに、なっちゃったなぁ」
昔、誰かに言われた。
チョロいから心配なんだって、 意味がわからなくてちょっと怒ったこともあったけど、今ならその意味がわかるかもしれない。
男一人に本気になっちゃって、挙句の果てには二股かけられてて、その結果自暴自棄で酒を飲んだくれてるなんて、学生の頃の自分が見たらなんて言うだろう。
こんなの、自分らしくない。
そんなの僕が一番わかってる。
でも、アルコールを煽る手を止められない。
気を紛らわすためになにかしていないとおかしくなってしまいそうだった。
もういっそおかしくなったほうが楽なのかもしれない。
せらはどうしているんだろう。
バレたから、火消しに躍起になっていて、僕に構ってる余裕なんてないのかも。
いや、でももしかしたら、浮気なんてしてなくて全部デマで… いやそもそも、僕の方が浮気で、エイズだって、あの人から移されてたりして…
彼と何度も体を重ねたベッドに、上半身を預ける。
あの時、同情なんてしなければよかった。
そうしたらきっと、僕だってそのままでいられた。
不意に、視界がぼやける。
アルコールの影響か、眠気が来ているらしい。
泣いてなんかないから、きっとそうだ。
どうせ連絡も来てないんだから、さっさと寝た方がいい。
全部知らないフリで、早く意識を落とすが吉とみた。
ぱた、と目を瞑って寝返りを打てば、雫が頬を通る感触がした。それが何かは分からない。だって僕は泣いてないんだから。
あんなやつにあげれるような涙なんてひとつもない。僕の涙、そんなに安くないし。
あぁ、嫌だ、嫌になる。
こんな事考える自分にイライラする。頭がぼんやりして上手く回らない。本当にらしくない。これもお酒のせい?
「ばかみたい、ほんと」
ぽつり、ため息を吐きながらそう呟いた瞬間、玄関の方からガチャガチャガチャ、と焦った様な音が聞こえた。
何事かと上体を勢いよく起こしたら頭がグラッとして気持ち悪い。失敗した、吐きそうかも。
その間廊下の足音は一旦リビングに向かって、それから焦った様に駆けて部屋のドアをノックもせずぶち開けてきた。
「ッ、奏斗っ、!!!」
ーーー
ノック無しで慌てて開けた扉。朝の報道のせいで奏斗の様子がおかしいって、雲雀に言われて仕事を早めに切り上げた。
あんなのは嘘っぱちだし熱愛なんてないし、いい迷惑でしかない、 飲食店から二人で出てきたのは、仕事の打ち上げを次の日の都合で早抜けしたからだし。
ホテル街に向かったのは、件の女の泊まってたホテルがそのホテルだらけのエリアを抜けた先にあったからで。夜一人じゃ危ないし、タクシーは車酔いするって言うから送っていっただけ。手も出してないし何もしていない。
ただ様子が変だと言う奏斗が心配で、このままだとなんだかどっかに行ってしまう気がして、仕事も切り上げて早々に会いに来た。それが今。
はあ、はあ、と息を切らしている俺を、奏斗はぼんやり見つめている。すっかり日も落ちて、些か暗すぎる室内は、奏斗の心情を表しているようだった。
廊下から漏れ出た光が、彼の顔を照らしている。
一歩一歩、ゆっくり近付く。
「奏斗、」
「…なに」
カラン、と足に空き缶が当たった。奏斗がいつも飲んでるのじゃなくて、もっと度数が高いやつ。なんなら、俺がいつも飲んでるようなやつ、 それを見てまじまじと彼の顔を見つめれば、真っ赤っかだったし目も赤い。涙の跡もあるし、なんていうか、ぼろぼろ。
「なんか」
「ぼくにいうこと、ない、?」
すん、と鼻をすすりながら、キッ、とこちらを見てくる。彼の顔からは怒りと、裏切られた悲しみがひしひしと伝わってきた。
そんな顔をさせてしまったのが申し訳ない反面、まるで本当に好きになってくれたみたいで、嬉しくなる。
だって、俺の事、好きじゃないはずなのに。
俺の熱愛報道にこんな顔をして、こんな風に泣いて、ヤケ酒までしちゃうなんて。
まさか、ほんとうに俺のこと好き?
…やめよ、期待するだけ無駄だって、そんなの。
「…ごめん」
「…ごめんって何。、ほんとに…浮気、してたの、 それともぼくが、浮気相手だったって、」
「違う」
声を震わせて八の字眉。苦しそうな顔で瞳を細めてこちらを見、その後顔を伏せてそう言う言葉をさえぎった。
「違う、違う、違うんだよ、全部違う」
「好きなの、奏斗だけなの」
「浮気なんかしてない、言い訳にしか聞こえないかもしれないけど、本当に…」
そう言った瞬間、涙が出てきた。情けないくらいぽろぽろでてきた。何、おれなんで泣いてるの、泣きたいのは、奏斗の方でしょ。
不注意で週刊誌に撮られて、好きな人を不安にさせて。挙句の果てに弁解しようとして泣くだなんて、そんな自分が不甲斐なくて仕方ない。
涙を止めようと唇を噛んでも目を擦っても止まらなくて、寧ろ量が増えた。
「…え、せら…何泣いてんの?」
「そんなに目、こすんないで。」
せらの綺麗な顔台無し、と奏斗は自分の服の袖で優しく俺の顔を拭いてくれた。
奏斗だってぼろぼろの顔のくせに、…なんて、させた俺が言えることじゃないけど。
「、かなと、俺が言うこと、信じてくれる?」
「… …ぼくだってさ、正直、記事出た時怒ったし、なんでって思ったよ。それは嘘じゃない。
………今だって、怒ってないって言ったら嘘になるけど… でも、そんな捨てられた子犬みたいな顔されたら、話聞かないわけにいかないよね」
ずるいよね、せらってさ
そう言って、奏斗は儚げに笑った。
ーーーー
「ね、 今の話、全部信じてあげてもいいよ。」
そのかわり、今日はナマでシようよ。
せらが目を見開いて、信じられない、という表情を浮かべた、 何を言ってるのかわかってんの、って顔してる。
わかってるよ、全部。
せらが、本当は沢山キスしたいのだって、もっと頻繁に僕と身体を重ねたいのだって。
僕を大事にしたいって気持ちがあるのも知ってる、 でもその反対に、めちゃくちゃにしたいってことも。
付き合っただけじゃ、お前を繋ぎ止められない。
「僕の事、好きにしていいよ」
「…、本気で、言ってるの」
「こんな嘘、言うわけないって」
「…ッエイズだよ、移るんだよ!?…一度かかったら、ッもう、治らないんだよ」
「奏斗、俺がいなくなったあと、どうするつもりなの」
「俺がいなくなったあと、もし誰かと、だれかと付き合った時。…辛い思い、するんだよ、 俺はいいよ、どうせ死ぬんだもん。でも、奏斗は死ねないでしょ?」
「ねえ、考え直してよ。酔ってるから今はそんなこと言えるかもしれないけどさ、きっと、後悔するよ。」
「明日の朝になって、あんな事言わなければよかったって思っても、時間は巻き戻らないんだよ」
「ねえ、かなっ、」
「うるさっい!」
ガッ、と泣きそうな顔で肩を掴んできたせらに、叫ぶ。
いきなり大声を出したから喉がジンジンして、酸欠で頭がくらりとした。
「僕の誰かとの未来の話ばっかしてさ、おまえは居なくなる前提なの?」
「どうして、僕と一緒に生きてくれないの?」
「、足りなかった?尽くせなかった?役不足だった?」
「どうしても僕を残していくの?」
「一緒に連れてってくれないの?」
「せめて残されるなら、少しでも好きな人と同じでいたいって思うのは……ッそんなに、いけないことなの?」
「…」
「ねぇ、移してよ。せらと同じにしてよ。未来とかいらない、せらと同じでいられるなら何になったっていい」
「、奏斗…」
ぼろ、ぼろ、と、先程ようやく止まった涙がまた流れ出した。なんだか今日は変だ、感情に蓋ができない。
なんだろう、お酒のせいかな。
…気持ち悪くなるし頭も痛いし最悪だし、変なことばっか口走っちゃったけど、このタイミングで全部、吐露出来てよかったかもしれない。
シラフじゃきっと、こんな素直にできないもの。
「……本当に、いいの?後悔するよ、きっと。」
「今更だって、前も言ったよ。」
「……そっか」
そうだったね、と少し悲しそうに笑いながら、せらが僕を押し倒した。
ぼふ、とシーツに沈む。
ホコリが軽く舞って、けほ、と咳が出た。
せらは僕をひたすらじいと見つめてくる。
あんまり見つめられると居心地が悪い。しかも、そんな哀れむような顔で。
「ねぇせら キス、しよ」
「…うん、」
彼の顔が近付いてきて、柔らかい唇が重なる。
ちゅ、ちゅ、と軽いリップ音が響く。
触れるだけだったものが、段々深くなっていって舌が絡まって、頭がぼやけた。
気持ちがいい。今までの、どんなキスよりも。
輪郭がぼやけて、せらと一体化出来る気がした。気がしただけだから、ほんとに出来たわけじゃないけど。
舌を吸って、絡めて、歯列をなぞられて……いつの間にか閉じていた目を開くと、随分愛おしそうな顔してこっちをまだ見ていたから恥ずかしくて口を離してしまった。
「みすぎ」
「だって、かわいいから」
「〜っ、うっさい、ほら、続きしようよ。」
「はいはい、かなとてば、欲しがりだなあ」
「そんなんじゃないですけど?」
かわいいね、と手を頬に添えて、おでこにキスをしてきた。早く解してくれればいいのに。何回もしてるんだから、ムードとか気にしても仕方ないのに。
…なんの隔たりもない、初めてのセックス。
キスだって気にしないで沢山できる。ゴムだってしないから、体温を直で感じられるし、なにより精液がお腹の中に残っているのが嬉しかった。
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第4話、読み終えました……。熱愛報道の渦中で、奏斗くんが一人で酒に逃げる姿がすごくリアルで胸が痛みました。「泣いてなんかやらないからな」って強がるのに、涙が止まらなくて、でもそれを認めたくない心情が丁寧で。最後の「ッ、奏斗っ、!!!」で終わるカット、最高です。次が気になりすぎて仕方ない……!