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ろのみ🩵🫧
43
#愛され
おうか
252
──どんな浮かれた顔で来るのだろう。
彼の来社をこんなに気楽に、楽しみに出来るのは湊の存在も手伝っての事だろう。
意外にも、神妙な面持ちでやってきた|吉良くん《イケメン》は言った。
「清水部長、何て言っていいか……ありがとうございました。……すいません、この前」
「あー……何が? もっとニヤけて来るのかと思ったら、そんな顔して」
「あの状況で、手出さずにいて下さいましたよね」
「買い被りすぎ。他の男を好きな女を口説く趣味はないさ」
「でも、そうしてくれた。口説こうと思えば出来たはずだ」
「虚しいだけだろ、こっちが」
「譲ってくれた」
ため息をついて続けた。
「譲るも何も、元々君のものだよ。彼女の気持ちは」
「あなたが本気出せば、誰でも落とせたはずだ。でも、しなかった。……感謝してます。背中、押してくれた事も」
「まぁ、壁ドンはされるよりする方がいいかな」
「……すみません」
ばつが悪そうに、謝罪する。
「だから、『君が代わりに行く?』って言ったのに、物凄い早さで走って行くんだもんなぁ。あれは、俺には追い付けない」
からかうようにそう言うと
「え? 本気で取ってたんですか? あそこ……」
「いや、貰ったんだよ。会社からインセンティブ。まあ、ただのスライド品だけどね。せっかくだから、君たちにプレゼントしようと思ったのに。俺はわざわざ金曜に、会社の近くなんて泊まりたくないんでね」
「……普通にそう言って下さいよ。かかなくていい恥かいちゃったじゃないですか」
「ま、それ以上にいい夜過ごせただろ? 」
「……はい。ありがとうございます」
「いーえ、良かったね」
「すみません。そういえば、ホテル……一人で泊まったんですか?」
「いや……あー……えっと……」
「何?」
俺の歯切れの悪さに彼が眉を寄せる。
まあ、言っておくべきか。うん、そうだな。
「……彼女が……付き合ってくれたんだ」
「は? 彼女……? 誰だよ」
彼がしばらく空を見つめ、何かを思い出したように……パッと表情を変えた。
「まさか! 」
「ああ、うん」
「うっわー、手はええって! あとめちゃめちゃ面食いですね、清水部長」
「いや、君に言われたくない」
「僕は顔だけじゃ……」
「俺も、だよ」
「あー……まぁ、湊も確かに」
それから、俺をじっと見ると
「大事にして下さいね」
はっきりとそう言った。
「約束、する」
そう言うと、彼はニッと生意気に笑い
「なんだよ、あいつ……やるじゃん」
そう言われて、安堵する。
彼から見ても、俺たちの関係が……良いものであることに。
湊との付き合いは、いい意味で楽だった。
物分かりがいいというか。サッパリしてるというか……面倒臭くない。
彼女の気配りの出来る性格と、頭の良さ。
それと、自立した女性であること。
故に……相手に依存しないのだろう。
とにかく、付き合い始めた時期が悪かった。
ただでさえ、忙しい。
前もっての約束が全く出来なかった。
いつもこちらの都合で空いた日にそのまま電話を入れた。
それなのに、文句も言わず来てくれた。
いつも疲れた時に癒しだった。
にっこり笑う彼女に、癒されていた。
ただ……もう少し、甘えや我が儘を出してくれても……もっと面倒臭くてもいいのに。そうは思っていた。
彼女から会いたいとも、会えない事に文句も、何処かへ連れて行けとも、何か買ってくれとか、そんな、ねだるような事も。
女性と交際する上で大なり小なりある、そんなのが何も……何も無かった。
「はぁ、やっと会えた」
久しぶりだった。
部屋に入るなり、湊を抱き寄せて言った。
「悪い、湊……最近忙しくて」
「ああ、いいよ。新入社員入ってきたし忙しいよね」
「落ち着いたら、どっか行こうか。温泉でも」
「いいよ、私も今忙しいし」
そう言って、笑う。お互い忙しい。だけど、そう言った湊に多少の虚しさが胸を掠める。そうだ、説明し難い少しの違和感。以前から、ずっと……湊の笑顔に違和感を感じていた。
だけど……深く掘り下げずにいた。疑いたくはなかったから。
彼女が言った「イタリア」に本気じゃないのが、分かる。髪を撫でながらキスをする。
「……6回目」
湊から不意に溢れた言葉。
会った回数……ああ、寝た、回数か?手帳につけて、管理してる子もいたな。
「デキても、いいけどね」
冗談で言った。だけど、すでにそのくらいの気持ちはあった。
確かに、仕事終わりに食事をしてこうやって身体を重ねるだけ。
付き合い初めから、まともに時間も取れていなかった。忙しいとはいえ、申し訳ない気持ちはあった。
何も言わない彼女に対しても。
彼女が、この事を虚しいと思っているかも知れないと……ふと、思った。
どこかで、金曜日か土日、時間作るか。多少無理をしてでも。
今さらながら、彼女の事を何も知らなかった。
独り暮らしかどうかも。
湊は自分の家を散らかっていると言ったが、俺もここへは毎日寝る為に帰って来てるに過ぎない。
最低限のベッドをキープするために、片方の部屋は……ぐちゃぐちゃだ。
「玄関迄でいいなら、行ってみる? 」
彼女は俺の手を取って立ち上がった。外に出ると、手を離して先々と歩いて行った。駅とは逆方向へ。意味は分からないが、彼女に続いた。
歩いて数分のマンションへ、入って行く。湊の家がこんなに近いことに驚いた。ドアを開けると、玄関まで、と言われた意味が分かった。廊下には引っ越しの段ボールが積み上げられていた。
「……引っ越し……」
するのか?
俺を追いかけてきたのかという冗談に笑いあう。少しの違和感。そんないつもの笑顔で。
帰ろうかなという冗談を流し、また俺のマンションへ戻った。
これなら、この近さなら翌朝帰る意味も分かる。
いいな、もう少し気軽に会える。
湊も、忙しいのかなかなか片付かないんだろう。元々引っ越しは決まっていたのか。この偶然に嬉しくなった。
もういっそ、うちに来てくれてもいいのに。まぁ、あの部屋片付けてからだが。
会社も近い、家も近いとなれば……それもいいな。湊とは、自然に少し先の事まで考えるようになっていた。
「清水部長って、彼女いらっしゃいます?」
昼休み、一緒に食事を摂った部下からそう聞かれた。いい加減、社内での女性達にもうんざりしていたし、湊に対しての安心感もあった。
言ってもいいか。
「いる」
「え!? そうなんだ。作らないのかと思ってました」
「何でだよ」
「選びたい放題じゃないですか。まだまだ遊びたいのかなぁって」
元々遊んでないけど。そんな暇もない。……それに、社内は勘弁してくれ。
「ちゃんと、付き合ってる」
「へぇ、じゃあ……そろそろ結婚とか」
「まぁ、そうだな。考えては、いる」
勝手に、だけど。
「いいですね」
それから、噂が回るのは早く、彼女だって言ってるのに話を出す時は“奥さん”とか言い出した。調子の良い奴。
だけど、それで諦めてくれた奴もいるので、そのままにしておいた。単に都合がいい。
……それに否定するのも面倒くさかった。
コメント
1件
うわ、この第4話-4、めっちゃ胸に来た……。 吉良くんが清水部長に「手出さずにいてくれた」って感謝するところ、すごく誠実でいいなと思った。お互い壁ドン話で笑い合える関係、良いよね。 で、話の後半——湊の「6回目」のひと言が不意に刺さった。会うたびに数えてるんだな……。引っ越しのダンボールも気になるし、「違和感」の正体がこれから明かされるのかな。設定が細かくて、読んでてじわじわ来るエピソードだった。