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ろのみ🩵🫧
43
#愛され
おうか
252
週末、何とか引っ越しを終えた。
というか、運んだだけだけど。ベッドと最低限の服と冷蔵庫、それだけは何とかして後はゆっくり、有給消化中に片付けよう。
新しい家は快適だった。……少し広くなったし。どう片付けるか楽しみでもあった。
それに、彼の家から遠い。会社も遠くなっちゃったけど、あと少しとあれば何とかなる。
「|皆《みな》さん、これからどうするんですか?」
後輩の二宮くんがコンビニでそう聞いてきた。
「建築系のデザイン事務所行くの。ユニコーポの高木さんの紹介」
「いいッスね。やりたいって言ってたやつだ」
「うん、楽しみ」
「5月はほぼ来ないの?」
「そうなるね。もう、引き続きもほぼ終わるしね。手空くから、新卒フォローしようかと思ってる」
「……彼氏、いないんですよね」
「……え……ああ。何?」
私は、あの人を彼氏だと思っていなかった。
じゃあ、何かと言われたら……
「どっか、行きません? 休みにでも」
「何それ、口説いてる?」
「そうですけど」
「あはは! |コンビニ《こんなとこ》で?」
「|コンビニ《こんなとこ》でしか、話聞いてくれないくせに」
「二宮くん、彼女いるの?」
「はあ!?いませんよ。」
「独身?」
「そりゃ、そうでしょ」
「なるほど……そっか。年下だとまだまだ未婚の確率の方が高いか」
これから、年下狙えばいいのか。1つ2つならたいして変わらないし、社会人であれば問題ない。そう思いながら、外へ出た。
いつかの……デジャヴでビクリと身体が跳ねた。
「や、お疲れ様」
「やだ、ビックリした。休憩ですか? 」
「ああ、君は?」
「戻るとこです」
二宮くんが出て来て、彼にぺこりと頭を下げた。
「……えっと……」
「うん、また連絡する」
そう言うと、彼は会社の方へ歩いて行った。
「お知り合いですか?」
「うん、この近辺の会社の……部長さん」
「へぇ、男前ですね」
「はいはい、君もね」
「口説いてます?」
「|コンビニ《こんなとこ》では口説きませーん」
二宮くんが、おしゃれなメガネ越しに意味深な目を向けて、笑った。
「湊!」
誰かに呼び止められて立ち止まる。
声の主の方へ振り返った。二宮くんが居てくれて……良かった。
一瞬、戻って来た清水部長かと思ったが声も姿も違う。
そこにあったのは……
嫌な想い出しかない新卒の時の……男だった。
「やっぱり、湊だよな! 俺……えっと……」
彼は二宮くんに目をやり、言葉を濁した。
思わず、二宮くんの服の端をぎゅっと握る。それを察した二宮くんが
「あ! やべ、昼休み終わる!」
そう言った。すると目の前の男は慌てて名刺を取り出すと、後ろに何やら書くと、手渡して来た。
「話したい事があって、これ! 連絡欲しい。必ず」
それを無理矢理私に押し付けると、彼は去っていった。
「誰」
「昔、の……」
「話なんてしたくない、人?」
黙って、頷く。
「むしろ、一生会いたくないくらい」
「なるほど」
震える手が、まだ二宮くんの服を握りしめていたことに気づかず、彼がそっと、離してくれる。
会いたくなかった。よくも声なんて掛けれるものだな。嫌な汗が額に滲んだ。
「行こう」
二宮くんがそう言うまで、そこから動けなかった。
「冷たっ」
急に頬に冷たい感触。
「あげる」
見ると、フルーツと野菜のスムージー。私が選ばないような女子力の高いやつだ。
「君が、飲もうと思ってたやつでしょ?」
「あげる」
「……ありがとう」
その場でストローを刺して一口。
スッキリとした甘さと酸味が口の中で広がる。
「女子力高っ」
「美味くないです? 俺これ……好きなんですよね」
「うん、美味しい。二宮くんぽい味」
私がそう言うと
パッと手から取り、彼も飲んだ。
「くれるんじゃないの」
「間接キッス。“ぽい”じゃなくて、“俺の味”になったやつ」
そう言って、私の手に戻す。
「いや、飲めない! 飲めなくなるから!」
「ピュアだね~」
迂闊にも顔が赤く染まるのが分かった。
「チャラ眼鏡!」
「間接じゃないの、したいな~」
「バ! 何言ってんの」
「はは、何言ってるんでしょー」
悪びれる事もなく、彼は笑った。
チャラ……。
彼はこうやって年上のお姉さん方を翻弄するのだろうか。
怖い、怖い。小悪魔だな。
だけど、ちょっと気が紛れた。
もう会うこともないと思っていた、男との再会に。
数日後——。
「|皆《みな》さん、しばらく俺と一緒に外、出て」
二宮くんの言葉に首を傾げる。
「何で?」
「……アイツ、いたよ。たぶん、探されてる」
「……嘘」
今さら何の用なのだろうか。話……なんて。
身勝手過ぎる行動に嫌悪感しか抱けない。
どのみち、ここに来ることも減る。そのまま諦めるだろう。そう思っていた。
コメント
1件
第5話、読み終えました……! 引っ越しという新たな一歩と、過去の男とのまさかの再会が重なって、胸がぎゅっとなりました。特に、二宮くんがスムージーで気をそらしてくれる場面、あの間接キスのやりとりにほっとすると同時にドキドキしました。彼のさりげない優しさが沁みますね。それにしても、何年経っても相手はしつこくて…。続きが気になります!