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(こんな事になるなら、脱毛すれば良かった)
そう思うものの、後の祭りだ。
皆カジュアルに「脱毛した」と言っているのを聞くと、古くさい価値観かもしれないが、脱毛やエステと聞くと「高額請求されるのでは」と思うので、ハードルが高く問い合わせすらできずにいる。
(御劔さんの周りにいる女性は、みんな綺麗な肌をしてそう)
そう思うと少しだけモヤッとし、その感情が嫉妬だと理解した香澄は溜め息をついた。
佑は世界を股に活躍する有名人で、自分を異性として見るはずなんてない。
(浮かれてる自分が嫌だ。こんな人に相手にされるはずがないのに、ミューズだって言われて特別感を得ている自分がいる。……しっかりしてよ。私はただのモブなんだから)
自分に言い聞かせるも、身長が高く美形で社会的地位のある彼が側にいると、どうしても意識せざるを得ない。
(もう二度と会わない有名人なんて、気にするだけ無駄なのに)
今まで色んな男性を見てきたが、香澄は決して見た目で人を判断しなかった。
なのに美形の有名人を前にして浮ついた気持ちになる自分がいて、溜め息をつきたくなる。
(美形怖い、美形怖い、美形怖い)
香澄は呪文のように心の中で三回呟き、また溜め息をついてから目を開けた。
佑は香澄の前にしゃがみ込み、「脚の長さを測りたいんだけど」と見上げてきた。
「肩幅程度に足を開いてくれるか? デリケートな部分には触らないから、股下の長さを測らせてほしい」
「ううう……」
ここまで測らせておいて、今さら一部分だけ「嫌です」というのも変だ。
(ええいっ)
思い切ってラジオ体操ほどに足を開くと、佑は「ありがとう」と言って、メジャーの端を香澄の脚の付け根近くに近づけた。
「…………っ」
素肌に彼の温もりを感じ、香澄はピクッと反応する。
幸い、佑は香澄の反応をからかわず、いやらしい態度もとらず、真剣な表情で股下を測っていた。
そのあとも佑は香澄の太腿、ふくらはぎ、足首の周囲を測り、最後にA4の紙を出す。
「これを踏んでくれないか?」
やっと採寸が終わったと思ったのに、妙な注文を出されて香澄は上ずった声をだす。
「ふ、踏む……?」
「足のサイズを測る」
「え、あ、はい」
紙を踏めと言われて戸惑ったが、用途を理解した香澄は、おそるおそる足を置く。
すると佑は鉛筆で香澄の足周りをなぞり、終わると香澄にメジャーをを踏ませて足の甲の高さを測る。
「よし、終わり。協力ありがとう」
「はぁー……」
やっと解放された香澄は、熱を持った顔を両手で覆い、紙から一歩離れた所でズルズルとしゃがみ込む。
(無理。無理無理。こんなイケメンに下着一枚で採寸されるとか……。何の罰ゲームなの? だからどうしてこうなった!)
体中丁寧に採寸されても、香澄はCEPのような高級ブランドの服を買えるほど金持ちではない。
服はTシャツにジーンズを穿けばいいと思っているので、オーダーメイドの服を買う思考を持ち合わせていない。
「どうしてこうなった」と何度も思っているが、佑とどう出会い、なぜこうなったかの記憶はきちんとある。
しかしこの状況に納得し、受け入れているかと言われたら話は別だ。
この世すべての美を集めたのではという男性に至近距離で体を見られ、抱き締められるような体勢で体を採寸され、香澄のライフははゼロだ。
「お疲れ様。あとは自由にしていいよ。風呂に入る? 寝る?」
「ふっ……! ねっ!?」
ホテルにいる状況でどちらを選んでも、いやらしい結末になるイメージしかなく、香澄はまた上ずった声をだす。
警戒していると、佑は香澄の肩にバスローブを掛けて「襲わないよ」と笑う。
いやらしい意味で言ったのではないと悟った香澄は、自分だけ彼を意識していると知り、「もうやだ……」と呟いた。
「……タクシーを拾って帰ります」
「つれない事を言わないでほしいな」
「!?」
匂わすような事を言われ、香澄はギョッとして顔を上げた。