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[久部side]
買い出しから帰ってきたら、信じられない光景が広がっていた。中堂さんがミコトさんの手に擦り寄っているのだ。
はやく 、はやく救出しなければ。そう思ってビニール袋から氷嚢を取り出す。“冷たさ4時間継続”だとか本当かどうかもわからない売り文句が書かれたパッケージを破り捨てる。
一応説明も書いてあるようだが、そんなもの関係ない。氷と水さえ入っていれば使える。
「これ 、良ければ…」
そう言って差し出すと、彼女はいつもの様子からじゃ想像できないくらいの冷徹な声でお礼を述べた。氷嚢を受け渡した瞬間、シュバババっと効果音がつきそうな勢いで中堂さんの看病体制を整えた。
終わったのか 、と思ったらミコトさんの充電が切れた。そこに居た僕と神倉さんは、呆然と立っていることしかできなかった。
中堂さんとミコトさんは神倉さんが責任をもって見てくれるそうなので、僕は1度家に帰った。初めはUDIに残ろうと思っていたが、子供は家に帰って寝なさい的なことを何度も言われて、諦めるしか無くなったのだ。僕はもう子供では無いのだけれど。
中堂さん…考えれば考えるほど解らない男。2ヶ月ほど前に夕希子さんの事件は解決した。なのになぜああなっているのか。
確かに今日は朝から彼の様子がおかしかった気がする。ぼぅっとして、いつもの泰然自若な男からは想像できないくらい落ち着きがなかった。
それが明らかになったのは解剖が始まってからだった。いつもなら“ここ撮れ”とか“これ検査にまわせ”とか乱雑に扱われるところだが今日は違った。普通に“頼む”だの“助かる”だの言うのだ。あの男が。
機嫌が良いのだろうと割り切って振り向いたら彼が床に崩れ落ちていた。意味がわからなかった。苦しそうに息を吸う彼がみるみるうちに青ざめていく。神倉さんを呼んでくるように言われ、走り出したのはいいものの頭が働かなかった。
─
神倉さんに事情を説明すると、僕のことは眼中に無いようで一目散に解剖室へ向かった。僕は一応エチケット袋を手にして神倉さんを追った。
─
「 ゛、 ふっ」
中堂さんが嘔吐く。丁度エチケット袋を持ってきたところで良かった…だがゆっくりしている時間は無い。
「中堂さんこれ っ!!」
「 ぅ゛、 ぐ っ 」
袋に重さが増した。間に合った 、皆がほっと息を吐く。だがそんなのは知らないと言わんばかりに中堂さんが力なく目を瞑る。
─
そうだ、こんな感じだった。あの袋に胃液だけが溜まっていったことに恐怖したのを今思い出した。急いでミコトさんとのLINE画面を開く。そして簡潔に情報を伝える。一瞬にして既読の文字がついて“ありがとう”スタンプが送られてきた。ちゃんとスマホを使いこなせているようで感心する…じゃなくて 、すぐに既読がついたことから夜通し中堂さんの看病をしているのでは無いかと心配になる。