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その通達は、血より冷たかった。


任務番号:S-88

対象人物:加賀見 悠生(Kagami Yuusei)

内容:対象の暗殺

備考:対象は元工作員。現在は離脱済だが、複数の機密保持違反の疑いあり。

実行部隊:0415・0812(特例バディ再編成により出動許可)


任務の紙面を見た瞬間、栞の手が震えた。


「……この名前、私……知ってる」


「……」


翠は何も言わず、栞の表情をじっと見ていた。


「この人……昔、私をかばって、組織から逃がしてくれた人……」


記憶が蘇る。

まだ殺し屋としての訓練すら始まっていなかった頃、

栞は施設の片隅で何度も泣いていた。


そのとき、誰よりも優しく、

誰よりも早く「ここから出ていけ」と言ってくれた大人──それが、加賀見 悠生だった。


「わたし、あの人がいなかったら……今、ここにいない。だから……殺せない……!」


翠は何も言わなかった。

ただ、書類を閉じ、静かに言葉を落とす。


「断れば、お前が消される」


「……分かってる。でも、殺せない……!」


「……」


「どうすれば……どうしたらいいの……」


***


翌日、現場は郊外の山中にある小屋。

そこに“元工作員”は潜伏しているとの情報だった。


「……来ると思ってたよ」


そう言って、小屋の扉を開けたのは、

黒髪に白が混じり始めた中年の男。

その目は、どこか懐かしさと哀しさが入り混じっていた。


「お前……あのときのガキか。もうこんなに大きくなったんだな」


「……加賀見さん……!」


「わかってる。俺は殺されに来たようなもんだ」


男は静かにソファに腰掛けると、煙草を一本咥えた。


「お前が来てくれて、よかったよ。最後の顔が“恩を返しに来た”誰かだったなら、少しは報われる」


「そんなの……そんな言い方しないで……!」


「殺さなくていいぞ、栞。……代わりに撃たれるだけだ。俺は、逃げ切れる立場じゃない」


そのときだった。


「──お前が死ぬのは勝手だが、うちのバディの手を汚すな」


後ろから入ってきた翠が、男に銃口を向けた。


「お前の罪は、お前の責任で裁かれるべきだ。“感情”で片付けられる命なら、殺し屋は必要ねぇ」


「……冷たいな」


「当たり前だ。殺し屋だからな」


男は目を細めたあと、

手元にあった封筒を栞に手渡す。


「中身は、組織が探してる“証拠”と“資料”。俺を殺せばそれで済む。けど、これを渡せば……命の取引は、できるかもしれない」


「……!」


翠が封筒を開く。

確かに、重大な機密情報が綴られていた。


「これがあれば……」


「俺を見逃せとは言わん。ただ、あの子だけは、これ以上“罪”を抱えさせないでくれ」


男は最後の一言を言い残すと、手を背後に回した。

銃でも、ナイフでもなく──自ら、両手を差し出した。


「拘束しろ。好きにしろ。殺すなら、その後でいい」


***


その夜。


「組織は“生け捕り”を受理した。あの男は“情報提供者”として処理される」


報告書を手に戻ったふたりは、

並んで夜のベンチに腰を下ろしていた。


「……ありがとう、翠さん」


「俺は何もしてない。お前が“撃たない”って選んだだけだ」


「でも、あなたが隣にいてくれたから、踏みとどまれた」


栞は空を見上げる。


空には星が見えていた。

あの日、泣いて逃げた施設の夜と、何も変わらない星の並び。


けれど、そのときとは違う。

今は、隣に“帰る場所”がある。


「私ね、たぶん、やっと“自分の正しさ”を選べた気がする」


「……遅ぇよ」


「え?」


「俺はとっくに、お前のその“正しさ”に救われてたのに」


「……ばか」


ふたりは、そっと手を繋いだ。

恋人らしくもなく、バディらしくもなく。

ただ、命を何度も預け合った、ひとりの“人間”として。


任務は終わった。

けれど、物語はまだ続いていく。


“正しい殺し方”なんてものが、あるはずがない。

それでも──


このふたりの在り方だけは、

きっと誰にも、間違いだとは言わせない。

殺し屋のバディは世界一イケメンです

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