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ごめん、大好き
てぇてぇ過ぎて背中打った、 ぺんさん鈍感すぎじゃ、? 対応からして脈アリでしょ!
「……ジャージがない」
ある日休み時間、俺はとある問題を抱えていた。今日は体育があり、そのまま体育着の上にジャージを身に纏わせようとしたが机の奥を覗いてもリュックの中身が空になるまで探しても大事なジャージは発見されない。今は真冬だ。針のような冷たい風が肌を突き刺す。そんな中、半袖半ズボンで外に出ろと言うのだろうか。俺が一人で絶句していると面白そうに口元を歪に描きながら、らっだぁがジャージ姿で現れて俺を茶化す為にか、声をかけてきた。
「あージャージ暖かいなあ〜……あっれー?ぺんさん、ジャージはァ?」
「…………無くしたけど何」
「エー!?!?カワイソーに!……ジャージを貸してあげたい気持ちもあるけど、今日は外で15分間走だからなあ〜?」
「……もうらっだぁなんて知らない」
「ア゛ー!!ごめん!!俺が悪かったから!」
「じゃあ貸して?」
「それは無理」
らっだぁは即答で拒否してきた。……もう絶対コイツには頼らない。そう固く心に誓いながら、らっだぁを睨みつけると、少し慌てた様子で謝ってきた。別にそこまで怒ってないので俺は仕方なく諦めたように溜息を一つ零す。その時、視界の端にぐちつぼさんが見えたので俺は彼の肩を叩いた。「あ、ぐちつぼさん!」
「ア、ぺんさん。……ついでにらっだぁ」
「ハ??ついでに??」
「あー!もう!喧嘩しないでよ!……それより、ぐちつぼさん今日ジャージ持ってる?」
「持ってる……ケド」
「じゃ、じゃあさ!!今度何か奢るからさ!今日だけ貸してくれない?」
手のひらを合わせて一か八かと神頼みをするとぐちつぼさんは一瞬目を白黒させたものの直ぐに小さく頷いてくれた。そんな彼の優しさに俺は思わずぐちつぼさんの手を握ってしまう。
「エッ!ほんと!?」
「ェ!?ちかっ、!?……ハ、ハイ……」
「ありがとう!本当に今度なんか奢るね!」
「ア、ウン。アリガト……」
俺が満面の笑みでお礼を言うとぐちつぼさんは顔を赤く染めてそっぽを向く。何故顔を背けたのかは分からないが、本当にジャージを貸してくれたので俺は心の中でもぐちつぼさんに何度も感謝をする。
「……アレ、ぐちつぼサーン顔赤いけどォ〜?いやごめんごめん。顔怖」
「……らっだぁ、人を茶化さないの。……今借りてもいいかな?」
「ウ、ウン!今急いで持ってくるわ!」
「え?そんな急がなくても……」
「イヤ!持ってくるから!」
そう言って、ぐちつぼさんは俺とらっだぁをその場に残して急いで自分のクラスへと戻ってしまった。……そんなに急いでたら転びそうだなぁと思いながらも俺はぐちつぼさんの背中を静かに見送った。らっだぁはそんなぐちつぼさんの背中を見ながら、ニヤニヤと笑みを浮かべている。
「アハハ!アイツ、顔赤かったな」
「ね?なんでだろうね」
(……まあ、ぺいんとは鈍感だから気づかないか……)
────
風が凛と吹き抜ける冬の午前。寒さはグランド中に満ち、凍りつくような空気が身体をくすぐり、息を白く染め上げる。俺はぐちつぼさんから借りたジャージに顔を埋めた。ぐちつぼさんの柔軟剤の匂いがして、なんだか少し恥ずかしい。
「……ぺんさん、めちゃくちゃジャージデカくね?」
「うん、でも暖かい」
「ア、ソウ」
ぐちつぼさんが貸してくれたジャージは俺にはひと回り程大きくて袖から手が出てこない。ぐちつぼさんが直ぐ近くに居る気がして頬を紅潮させながら口角を緩めてしまう。
「……ウワ、ぐちつぼ上から俺達のこと見てるよ、ぺんさん」
「え!!ほんとだ!!手振ったら気づいてくれるかなあ?」
「アイツ、普段は授業受けない癖にこういう時だけ受けやがって……」
「まあ、いいじゃん!今日だけ許してあげようよ」
「マァ、いいけど」
俺は小さく手を振りながらぐちつぼさんに合図を送ると、ぐちつぼさんは俺に視線を向けて少し照れくさそうに小さく手を振り返してくれた。それがなんだか嬉しくて口元を緩ませていると急に背後から走れと先生に怒鳴られ、らっだぁと俺はびくりと身体を震わせる。「やっべ」らっだぁがそう短く零し、俺に背を見せて走り出す。俺も慌てて、らっだぁの背を追うように走り出すのであった。
(ぺんさーん!遅いよー!)
(む、無理!!俺そんなに走れない!!)
────────
後日。
「あ、ぐちつぼさん!」
「……ンァ?アー……ぺんさん」
「これ!ありがとうね!」
俺は下駄箱前でぐちつぼさんと遭遇し、昨日借りたジャージを彼に渡した。俺が手渡したジャージを見るや否やぐちつぼさんは顔を紅く染め上げて照れくさそうに頬を掻く。そんな反応に俺の心もなんだか擽ったい気持ちになって自然と笑みが零れる。
「……ぶかぶかだったでしょ……汗の臭いとかしなかった?」
「ううん!大丈夫!暖かったし寧ろ、ぐちつぼさんの匂い好きだから!」
「……エッ」
「───あ、いや!なんかいい香りするな〜って思っただけだから!気にしないで!!」
俺は慌てて否定するが逆に墓穴を掘ってしまっているような気がしてならない。案の定ぐちつぼさんも顔を紅く染め上げてアワアワと慌てふためいている。二人して、顔を赤く染めながらその場に立ちすくんでいると先に我に返ったぐちつぼさんが俺の肩に手を置く。
「……また、忘れたら貸すから、さ」
「?うん」
「ぜってぇにらっだぁからは借りるなよ」
「???……分かった」
ぐちつぼさんの謎の忠告に俺は首を傾げながらも、素直に頷く。すると、ぐちつぼさんは満足したように「じゃ」と短く零して俺の前から姿を消した。その背中を見つめながら俺はまた小さく笑みを零したのであった。
(……顔あっっつ!!!……もしかしてコレって脈アリ……なの、か?)