大学一年の春。旧国側の国境線前に一人で尻を落としている。かつて十歩あった幅は、今や太いマジックで描いた線ほどの溝でしかない。そこに雑草が生い茂り、うららかな日差しを浴びている。自由共和国から吹く風が、やわらかな葉先をこちら側へたおしている。風が細かくやむたびに、穂先は天空を指す。地球は丸いというが、国境線もわずかな曲線を描いているのが、最近ではよく見て取れる。旧国も新国も領土は半々だと思ってきたが、こちら側を内側としているところを見ると、向こうの国の方が広いのかもしれない。
背後の雑木林から離れて、国境線沿いに一本だけ大木が立っている。城壁という主を失った今も、各方面から集まる根に支えられている。かつては、あの大きな枝まで登って一息ついたものだ。あそこに腰かけて見上げる壁はまだまだ高くて、見下ろすと土が遠く見えた。その枝が、今では文化境界線の上空を越えて、向こうの国に属している。俺もあの枝のように、自然に超えられるといいのだが。
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