テラーノベル
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週末、他校との練習試合。
私はコート脇のベンチで、成瀬先輩の隣に座り、必死にペンを動かしていた。
初めて見る、本気の凌先輩の試合。練習の時とは違う、鋭い眼光と激しい呼吸がダイレクトに伝わってくる。
「……っ、入った! 15-40(フィフティーン・フォーティー)!」
私が夢中でスコアを書き込むと、隣で成瀬先輩が「落ち着いて。今のサーブ、少し腰の開きが早かったわね」と冷静に呟く。
でも、試合が進むにつれて、凌先輩の動きに精彩が欠け始めた。
相手校の強力なバックハンドに翻弄され、徐々に点差が開いていく。
「先輩……頑張って……」
祈るような気持ちでペンを握りしめていたその時。
フェンスの外で試合を見ていた遥が、小さく舌打ちをしたのが聞こえた。
「……あのバカ。昨日の夜、寝る前に無理して走り込みすぎたんだよ。左足、少し引きずってんじゃねーか」
私には気づけなかった。でも、遥にはわかっていた。
一番近くで兄の背中を追ってきた彼だからこそ、その小さな異変が。
試合がセットポイントまで追い込まれた瞬間、凌先輩がこちらを見た。
でも、その視線の先にいたのは私ではなく、成瀬先輩だった。二人が言葉を交わさなくても、頷き合うだけで意思疎通しているのを見て、私はまた「スコアラー」としての自分の無力さを突きつけられた気がした。
結局、凌先輩は負けた。
悔しそうにベンチに戻ってくる先輩に、私はタオルを差し出すことすら一瞬ためらってしまった。
「……お疲れ様、凌。あとでアイシングしなさい。紗南ちゃん、今のセットのミスショットの傾向、後で教えてくれる?」
成瀬先輩に促され、私は震える手でノートを差し出した。
でも、凌先輩はタオルを被ったまま、絞り出すような声で言った。
「……ごめん。今は、ちょっと一人にしてくれ」
その言葉に、胸がキリキリと痛む。
何も言えずに立ち尽くす私の腕を、誰かが背後から強く引いた。
「……もういいだろ。行くぞ、紗南」
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