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ピリッ。
「痛っ!」
連日のように厳しい寒さが続くある日の執務室。
いつものように書類に目を通していたオーターが、突然短い悲鳴をあげた。
集中していたあまり誤って唇を噛んでしまったらしい。
オーターは痛みに顔をしかめながら噛んでしまった下唇にそっと触れ、そこで初めて唇が荒れている事に気づいた。
仕事を優先してしまうあまり、自分の事を疎かにしてしまうのはオーターの悪い癖だ。
「・・・・そうだ。」
オーターは机の引き出しを開け、中から小さい黄色の筒を取り出した。
以前にツララから貰った匂い付きのリップクリームだ。
蓋を開けそのまま唇に塗ろうとしたオーターは、ツララのある言葉を思い出してピタッと動きを止める。
『ちなみにそのリップクリームの匂いね、蜂蜜だから唇のケアだけじゃなくて、カルドを誘うのに良いんじゃないかな。』
「・・・ッ。」
(・・・いや。今塗ったからといってあの人がタイミングよくここに来るわけありませんよね。)
そう思い直して、オーターはリップクリームを唇に塗った。
乾燥してカサカサだった唇がツヤを帯び、ほのかに香る蜂蜜の香りがオーターの鼻をくすぐる。
「さて、仕事を再開しますか。」
匂い付きのリップクリームを引き出しの中にしまい、オーターは再び書類に目を通し始めるのだった。