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「ところで、今は小学校の授業中に選挙するんだってな」と藤田先生。
「まあ、そういう時期だけね」と健太。
先生の唇には、よく見ると海苔がついている。授業前に急いでおにぎりを食べたに違いない。
「我々の世代だと、授業中に選挙って想像つかないんだけど。どんな感じなのかな?」と先生は言った。健太はあくびをしてから、学校って候補者のこと何も教えないくせに、選挙になるといきなり「あなたの意思で選びなさい」って言ってくる。「この人、どんな人なの」って聞くと、「選挙法違反だから一切教えられない」って大人は言う。だから、しょうがないからみんな適当に選んでる、と答えた。
「適当って? どんな風に選んでるのかな、今の子供は」と藤田先生。
「面白い顔とか、へんな名前とか」と健太。
「ふぅーん」と藤田先生。
「今の子供がそんなことしてるから、この国の政治がダメになるんだよ」と、再びついたての向こうから、塾長の濁声が響いた。
今の国会議員。キリンに似た人。サイに似た人。マスクマン。七色に染めた髪を七十七センチ逆立てて固めた人。議員の名前も、「正義のキモ太郎」が出てきたかと思うと、続いて「買い物スーパーウーマン」「カレーマン」「ピザマン」「ずぼしズボン」「うどんとレモン」「ゲーシャガール」「いも」「解決! 説教オヤジ」……
「やっぱり、しっかり選ばなきゃだめだよ」と塾長。
「でも、何も教えてくれなくて、しっかり選べとだけ言われても、子供は困っちゃうよな」藤田先生は健太に笑いかけてきた。健太は力強くうなずいた。
「でも、教えたら平等じゃなくなるだろ? 教えた人だけ知識もっちゃう。この国は自由・平等なんだから。男女平等、大人子ども平等。平等、平等、平等」と塾長。
「でも結局、実際はみんなふざけて投票してるらしいっすよ、他の生徒も言ってました」と藤田先生。
「だから、今の子供はダメだって言ってるんだ」
「まあまあ塾長、その辺にしときましょうよ。もう時間ヤバイです。生徒が私の黄金の指導、受けれなくなります」
「何が黄金だ、ろくに生徒も増やせずに黄金作れないくせに。君のはただの、練りがらし色だ。余計な話ばかり練りこむ」
「ピリッと辛くてコクがある、一味違った授業です。なあ健太君、『練りがらし男』で選挙出れるかなぁ」
それ、意外とウケるかもよ、と健太は言った。
「コスチュームはどうしよか。体をからしチューブにして、頭はキャップか。顔は黄色く塗って、やっぱり声は渋めか」と藤田先生が言うと、近くの席から嘲笑が聞こえた。
「君は余計なこと考えなくていい。授業やんなさい、授業」と塾長。
「塾長の仰せのとおりに。今回の選挙は見送ります」