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心地よい温もりを感じながら、しばらく口付け合っている中、ふと、花厳は言った。
― Drop.022『 CocktailGlass〈Ⅱ〉』―
「――そういえば、桔流君。――今更だけど、今日はもう、この後の予定はないのかな?」
桔流は、その花厳の親指に唇をなぞられながら、蕩けた瞳で言う。
「――はい……。――今日は……仕事だけなので……」
「そうか。それなら良かった」
花厳は、それに目を細めて微笑むと、桔流の頬を撫でながら言う。
「――でも、イヴまで仕事なんて、大変だね」
桔流は、その花厳の手に心地よさそうにすると、ゆるりと笑った。
「ふふ。俺が好きで、毎年出てるんです。――クリスマスもそう」
花厳は、次いで、そんな桔流の首筋をやんわりと撫でながら問う。
「そうなんだ。――じゃあ、明日も仕事なんだね」
その花厳からやんわりと与えられる刺激に目を細めながら、桔流は応じた。
「はい……」
すると、花厳はそこで、
「――なら……」
と、言うと、桔流を肌を愛でる手を止めた。
「?」
それに、不思議そうにすると、桔流は、花厳に瞳で問うた。
花厳は、目を細めると、悪戯っぽい表情で続ける。
「――この続きは、明日、――仕事が終わってからの方がいいかな?」
すると、桔流は、すっと花厳に身を寄せ、ひとつ口付けると、唇を触れ合わせたまま言った。
「イヤです……。今してください……」
花厳は、それにまた目を細めると、ゆったりとした深めの口付けをひとつ返し、言った。
「こういう時の桔流君は、特におねだり上手だよね。――凄く可愛いよ」
桔流は、そんな花厳を、熱を帯び始めた瞳で見つめ返すと、微笑んだ。
「ふふ。そう言う花厳さんは、こういう時、――意地悪になりますよね」
花厳は、笑う。
「ははは。そうだね。ごめん。――桔流君が可愛いから、ついね。――反省するよ」
それに、桔流も楽しげにすると、またひとつ、花厳の唇を食んで言った。
「ふふ。反省はしなくていいです……。――俺、してる時に花厳さんに意地悪されると、逆に興奮するので……。――だから、もっと意地悪してくれても、いいですよ……」
花厳は、そんな桔流に、愛おしげに笑む。
「ははは。俺は単純なんだから、あまりそういう事で喜ばないでくれ。桔流君。――君に悦ばれると、よくない性癖にも目覚めてしまいそうだから」
桔流は、それにも楽しげに笑った。
「ふふ。本当ですか? ――それは、楽しみですね」
そんな桔流に苦笑すると、花厳は、
「まったく。――そういうところは、いけない子だね」
と、言い、ひとつ口付けながら、その手を桔流の腰に添えると、優しく言った。
「おいで」
桔流は、その低い声に誘われると、花厳に抱き寄せられるままに、花厳と向かい合うようにして、その身を寄せた。
💎
桔流が身動きをする度、花厳の手に愛でられている桔流の尾も、桔流と共にひくりと痙攣する。
「寒くないかい?」
花厳は、その桔流の尾ごと桔流の背を支えるようにして問う。
すると、桔流は吐息まじりに頷く。
「……は、ぃ……」
だが、そんな桔流の今の様子を見ると、やはり気にかかった花厳は、近場に置いていた薄手のブランケットを桔流に羽織らせた。
それに、またひとつゆったりとその身を揺らした桔流は、甘くこぼしながら言う。
「ん……、ありがとう……ございます……。――でも……花厳さん……」
「ん……?」
花厳と向き合うようにしてその両膝を跨ぎ、花厳の膝の上に腰を据えている桔流に、花厳は優しく問うた。
すると、その花厳の昂ぶりに下から侵されている桔流は、甘い吐息をこぼすと、敏感な体をひくつかせながら、言った。
「ぁ……、これ……、逆に……やらしい気が……します……」
花厳は、そんな桔流の言葉に示されると、改めて桔流の様子を一目する。
そんな花厳こそ、衣服はほとんど乱れていないが、対する桔流はと云えば――、片脚にのみ衣服を残し、それ以外の布はすべて剥かれ、その真っ白な肌をまざまざと晒しており、その上で、今は、素肌にローブを纏うようにして、大き目のブランケットを羽織っている。
花厳からしても、その光景は、桔流の云う通りのものだと感じた。
そのブランケットは、来客用とは云え、日頃花厳が目にしているものだ。
それを、あられもない姿をした想い人が、目の前で羽織り、甘く啼きながら、その身を揺すっている。
さらには、暗いエバーグリーンの布地をバックにしているため、桔流のその身は、その肌の白さと共に、妖艶さすら感じさせる美しいボディラインを、より一層際立たせていた。
そんな眼前の光景に、花厳がつい見惚れていると、
「もう……スケベなんですから……」
と、桔流はこぼした。
「え?」
ハッとして桔流を見やれば、頬を染めながら艶っぽく笑んだ桔流が、花厳を見つめていた。
そんな桔流は、腹の奥を侵される感覚に目を細めながら、濡れた唇で吐息まじりに紡ぐ。
「そうやって……大きくされると……、動けなくなっちゃうじゃないですか……」
花厳はそれで、改めて自身の様子を悟ると、色を込めて言った。
「ははは。ごめん、ごめん。――自業自得なんだけど、君がさらに色っぽくなっちゃったからさ……」
桔流は、それに楽しげに笑うと、花厳をからかうようにして、またゆったりと腰を揺すった。
すると、それに煽られた花厳は、桔流のやわらかな部分へそれぞれの手を添えると、花厳の昂ぶりで押し拡げられているあたりをさらに拡げるようにして、その拡がりを窘めた。
「あっ……ぁっ……」
その刺激に、思わず背を反らせた桔流は、その身を二、三と痙攣させると、甘く啼いた。
次いで、花厳は、そんな桔流の胸元にひとつ口付けると、そのまま舌を這わせながら、再び、両の手で桔流の拡がりを弄ぶ。
「あ……ぁ、あ……、花厳さ……」
そうして、拡がりを弄ばれる度――。
その間に、舌で愛でられる度――。
桔流は、忙しなく腰をひくつかせ、その身を痙攣させては、不本意でありながらも、自身で花厳の昂ぶりを幾度も深く受け入れた。
また、その中、花厳のものと同様に昂ぶった桔流のそれも、桔流がその身を揺らす度に、花厳の腹回りの布地を擦りあげては、自身を通じて桔流を刺激した。
すると、あらゆる刺激で追い詰められてきたのか、桔流は、
「んっ……、ぁ……、花厳さ……、が、おっきくするから……も、俺……」
と言って俯くと、右手の甲で口元を隠すようにした。
その様子に、桔流の状態を悟った花厳は、
「ほら。君がそういう事言うから、俺が興奮しちゃうんだよ……?」
と囁くと、口元を隠す桔流の手を取り、見上げるようにして桔流の顔を見る。
桔流は、そんな花厳を、熱に浮された瞳で見つめ返すと、
「……花厳さ……」
と言い、何かを強請るようにした。
その間も、桔流は腰をゆったりと揺すり続け、予兆に従うまま、その身を焚きつけていた。
花厳は、そんな桔流に目を細めながら、
「ん?」
と応じると、不意に、やんわりと両手に力を籠めるなり、桔流の律動を制した。
それにより、最も深いところまで花厳を受け入れたまま、峠越えを禁じられた桔流は、しばし驚いたようにして啼いた。
「ぁっ……、んン……、……花厳さ……なんで……」
花厳は、それに目を細めて笑むと、低く言う。
「もうちょっと、見ていたいなと思ってね……」
桔流は、それに駄々をこねるようにして言った。
「ん……でも……、こんな……とこで……止められたら……、おかしく……なるから……」
しかし、桔流の駄々に応じる気はないらしい花厳は、手の力を緩めずに言う。
「いいよ。おかしくなっても。――そんな君も、見てみたい」
桔流は、それに、さらに強請るようにして言った。
「んン……、意地悪……」
花厳は、また低く言う。
「俺に意地悪されるの、好きなんでしょう……?」
すると、桔流は、そんな花厳に、蕩けた視線を向けるなり、
「………………好き……」
と、言い、片方の手を花厳の肩から離すと、次いで、花厳の片手に添え、愛おしげに撫でた。
花厳は、それに、
「うん。可愛いね」
と、愛おしげに笑む。
そして、桔流の身体をそっと解放すると、
「おいで」
と言いながら桔流を誘った。
桔流は、そうして誘われると、花厳を抱き締めるようにして、その首に腕を回した。
花厳はそれに、
「いい子だね」
と囁くと、そのまま桔流を軽く抱き上げ、体勢を変えると、桔流の身をソファに沈めた。
そして、そのまましばし舌を絡めるようにして口付け合うと、花厳は問う。
「桔流君。――今日も、このままがいいの……?」
それに、桔流は頷く。
「はぃ……このまま……欲しいです……」
その桔流にひとつ口付けると、花厳は愛おしげに言った。
「分かった」
そんな花厳が、再び桔流の熱を押し拡げ、ゆったりと追い立てるような律動を始めると、桔流は、あっという間にその予兆に善がり始める。
「ぁ……あっ……花厳さ……俺、……っ」
それを、花厳はさらに後押しした。
「うん。いいよ。――可愛いとこ、よく見せてごらん」
そんな、幾度目かの律動の果て――。
「あっ……、ンんっ……、も、………イ、く……、あっ、ぁ……っ」
その予兆にまで善がらされている桔流を追い込むようにして、蕩けた熱を今一度最深まで侵した花厳が、そのまま腰を押し付け、桔流が腰を引けないように制すると、桔流は、その重い仕上げに反射的に腰を反らせた。
そして、そのまま、
「――あっ、ぁっ、ぁ……っ」
と、一際甘く啼きながら、限界を超えると、桔流は、その身を緩くひくつかせながら、深くに注がれる充足感に蕩けた。
それから――、熱情の余韻をしばらく味わった後。
花厳は、未だその身を緩く揺らしながら、くたりと蕩け、肩で呼吸をしている桔流に、愛おしげに言った。
「桔流君。今日、ちょっと深めだったね。――凄く可愛かったよ」
そんな花厳に頬を撫でられると、桔流は、その手に頬をすり寄せるようにして言った。
「ん……多分……久しぶりだったから……。――っていうのと……、――本当は……、ずっと欲しかったから……」
花厳は、それに、目を細めるようにして微笑む。
「そう言ってもらえて、――嬉しいよ」
そして、そのまま、桔流の身体をひとつ見やると、
「――それにしても、君は本当に綺麗だね」
と、続け、いかんなく晒されている桔流の肌をやんわりと撫でた。
桔流はそれに、くすぐったそうにして笑った。
「ふふ。ありがとうございます。――でも、今、言われるのは、ちょっと恥ずかしいですね」
花厳は、微笑んで言う。
「ははは。照れてる君も可愛いよ」
桔流は、その言葉に嬉しそうにしながらも、苦笑する。
「ふふ。ちょっと褒め過ぎですよ」
それにも穏やかに笑むと、花厳は言った。
「いいんだよ。――随分と褒められない時間を挟んだからね」
そんな花厳に、またひとつ笑った桔流は、ふと、想い人の名を呼ぶ。
「――花厳さん」
花厳は、愛おしげに応じる。
「なんだい?」
桔流は、その花厳の唇に人差し指を添えると、
「キス、したいです……」
と、紡いだ。
花厳は、それに愛おしげに目を細めると、
「いいよ」
と紡ぎ返し、桔流のやわらかな唇に、静かに口付ける。
そして、触れ合うだけの口付けから、幾度か食み合うようにすると、その口付けをゆっくりと深めていった。
その口付けの合間、花厳がそっと唇を離してみれば、桔流は濡れた瞳で今一度と強請った。
「桔流君。キスするの好きなの?」
そんな桔流に問いながら、花厳がその唇を指で撫でるようにすると、それにも心地よさそうにした桔流は、蕩けながらこぼす。
「……はぃ……。――前は、そうでもなかったんですけどね……。――でも……、花厳さんがしてくれたら、なんでか凄く気持ちよく感じて……、それで……、気付いたら……好きになってました……」
そんな桔流に嬉しそうにすると、花厳は、
「君は、本当に可愛い事を言うね……」
と、言い、再び口付けると、桔流の欲求を満たした。
それから、桔流の気が済むまで口付け合った後。
花厳は言った。
「――そうだ。桔流君。――明日は、俺もお店に行って大丈夫かい? ――もちろん、一人のお客さんとして。――せっかくなら、クリスマスの夜も、君と同じ場所で過ごしたいなと思って……。――迷惑かな」
そんな花厳に、桔流は嬉しそうに言った。
「まさか。大歓迎です。――花厳さんがいらしてくださるの、俺は嬉しいですから」
そして、その中、
「――あ。でも」
と、ふと思い立ったように呟くと、次いで花厳の口元に人差し指を添えながら、その金色の瞳と視線を絡め、続けた。
「独り占めとお触りは、厳禁ですからね。――お客様」
花厳はそれに、楽しげに笑う。
「ははは。――はい。気を付けます」
そんな花厳に、桔流も楽しげに笑うと、花厳はまたひとつ、桔流に口付けた。
💎
その後。
しばらくして寝室に移動した二人は、またひとつ酷く濃密なひと時を過ごした。
桔流は、温かなベッドでその余韻に浸りながら言った。
「――そういえば、花厳さん」
「ん? なんだい?」
その桔流の髪を愛おしげに梳きながら、花厳は微笑む。
桔流は、続ける。
「ちょっと気になってたんですけど。――花厳さん。――俺の指のサイズ、いつ測ったんですか?」
花厳は、そんな桔流の問いに、
「あぁ。それはね」
と言い、不意に桔流の右手を取ると、自身の左手と桔流の右手を合わせるようにして手を組んだ。
そして、そのまま桔流の右手をそっとシーツに押し付けるようにすると、言った。
「君の左手と、こうしてる時」
「えっ……うそ……」
桔流は、シーツに押し付けられた自分の右手を見るなり、目を見開く。
「こ、これだけで分かるんですか……」
「うん。なんとなくね」
そんな桔流に、花厳は穏やかに笑む。
すると、桔流は、何故か切なげな表情を浮かべると、言った。
「――もう、花厳さん……。――そんなに凄いとこいっぱいなのに、なんで前の恋人と同じデザインの袋で贈り物とかしちゃうんですか……」
花厳はそれに、心の臓を抉られた。
「う……。――それは、本当にごめん……。赦さなくていいけど……、――あれは本当に反省してる……」
そんな花厳は、言うなりやんわりと桔流を抱き締めると、その肩口に顔を埋めた。
桔流は、それに愛おしげに笑うと、花厳の背を優しく撫でた。
「ふふ。ごめんなさい。――冗談ですよ」
そして、
「花厳さん。ヘコむとすぐ耳下がっちゃいますね。――可愛い」
と言うと、その首筋にひとつ口付けた。
花厳は、それに、
「耳に出やすいんだよね……。――はぁ……」
と紡ぐと、またやんわりと桔流を抱き締めた。
その様子にも楽しげにした桔流は、そんな花厳を抱き締め返し、ふと話題を転じた。
「あ。そうそう。――花厳さん。俺ね」
「ん?」
その桔流を抱きしめたまま、花厳は応じる。
桔流は、続ける。
「実は、――恋人とイヴを過ごすの、これが初めてなんです」
すると、それに身を起こした花厳は、しばし驚いたようにして言った。
「え。――そうなのかい?」
しかし、すぐにはたとすると、花厳は、
「――あ。でも、そうか。――イヴは、お互いが仕事だったりとか」
と、言ったが、桔流がさらに、
「クリスマスもね。――初めてなんです」
と重ねると、花厳はさらに驚いた。
「えぇっ。――それは、凄く意外だな」
桔流は、楽しげに笑う。
「法雨さんの店で働き始める前から、そうだったんですけど。――俺、友人や家族を置いて、クリスマスを一緒に過ごしたいって思えるような恋人、できた事なくて」
「そうだったのか」
「はい。――なので、イヴも、クリスマスも――、恋人と過ごすのは、花厳さんが初めてです」
そんな桔流に、未だ驚きの余韻を残しながら、花厳は言った。
「――なんだか、今年は、――早めのクリスマスプレゼントが沢山もらえる年だな……」
すると、桔流は、にこりと笑んだ。
「ふふ。喜んでもらえて良かったです」
そして、ふとベッドサイドを見やると、言った。
「――あ。でも、――もうクリスマスになってますよ」
「え?」
その桔流の言葉に促されると、花厳もまた、ベッドサイドに置かれた時計を見た。
すると、時刻は確かに、すっかりと日を跨いでいた。
花厳は、その事実を確認するなり、
「――ほんとだ」
と、言うと、次いで桔流に視線を戻し、微笑んで言った。
「――じゃあ、改めて、――メリークリスマス。桔流君」
そんな花厳に嬉しそうにすると、桔流もまた、
「ふふ。――メリークリスマスです。花厳さん」
と言い、微笑み返した。
そして、二人はそのまま視線を絡めると、ゆっくりと額を合わせ、次いで、そっと唇を重ねた。
そのやわらかな感触が、再び脳を痺れさせ、心を幸福感で満たしてゆく。
(――幸せ……)
心の中、桔流はひとつこぼすと、そっと抱き締めてきた花厳の首に、やんわりとその腕を回した。
そうして互いに抱き締め合い、深く食み合うような口付けを重ねるうち、理性は再び熱で蕩け始める。
そんな、幾度重なり合っても冷めやらぬその熱情に身を任せた二人は、それからもまた、幾度となく、互いの熱を宥め合った。
幾度も――。
幾度も――。
桔流にとって、“指輪”は、絶望の象徴でしかなかった。
しかし、その日を機に、“指輪”は――、桔流にとっての、二つとない幸福の象徴へと、その身を転じた――。
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