「じゃ、じゃあ、打ち合わせこれで終わって大丈夫?」
そして彼女が気まずくなったのかそう問い掛けて来る。
「いいよ~」
まぁ用件は終わったし、今日はこれくらいで解放するか。
まだ仕事場だし、オレの感情もこれ以上暴走しても困る。
「じゃ、じゃあ、また」
そう言ってその場を立ち去ろうとする彼女。
「あっ、そうだ」
会議室を出ようとする手前で呟いて、彼女を引き止める。
「今度は何?」
すると一応彼女は立ち止まって、そのまま呆れたように言葉を返す。
「昨日はありがとう」
こっちを見ないままの彼女を見つめながら、昨日のお礼を伝える。
「え?」
すると彼女がその言葉に反応してこっちに振り返る。
「昨日ホント、ウマかった」
昨日の嬉しかったお礼を優しく笑顔で彼女に伝える。
「何・・今更」
「ごめん。言うの後になって」
ホントは先に言いたかったのに。
まだそんな関係まで辿り着けてないから、こんなタイミングになっちゃったけど。
「そんなの別にいいのに・・」
「でも、オレの為に初めて手料理作ってもらえてホント嬉しかったから」
あなたがオレの為に手料理を作ってくれたことがホントに嬉しくて幸せだったから。
あなたと二人で一緒にいれた時間も、あなたと心を通わせた瞬間も、あなたと唇を重ねたことも、すべてがオレには幸せすぎたから。
「またいつでも食べに来て」
すると、また照れて返してくるかと思っていたら、まさかの優しい微笑みと共にそのそんな言葉を返してくれる彼女。
あぁ、なんだよ。
そんな笑顔と言葉返されたりしたら、勘違いしそうになる。
オレはいつでもずっとあなたといたいんだから、そんな風に言われたらまた気持ちが止まらなくなる。
「・・・今日は? 早い? 残業?」
だから思わずオレは少しも待てなくて、早速そんなことを聞いてしまう。
「あ~。今日はちょっと遅めかも」
「そっか。じゃあ今日は諦めるか」
だよな。
そんなすぐに上手くいくはずないか。
あなたにとっては、それも昨日のお礼的に返してくれただけで、ただの社交辞令のようなもんだろうし。
だけど、明らか落ち込んでしまっているオレ。
つい、そんな残念な感情が入ったまま呟いてしまう。
「ごめんね・・」
すると、優しい彼女はなぜかそんなオレを見て謝ってくれる。
「なんで謝んの。オレが勝手に食べたかっただけだし。気にせず仕事頑張って」
彼氏でもないのに、勝手にオレが気持ち先走っちゃっただけなのに。
そう。
別に彼氏でもない。
あなたのそんな当たり前の権利でさえも手に入れることが出来ないもどかしい関係。
あなたの彼氏なら、毎日そんな望みも伝えることが出来るのに。
「ありがと。じゃあまた」
「また」
そう言って彼女はこの会議室を後にした。
アブなっ・・・。
彼女といるとどんどん勘違いしそうになる。
まだ彼女はオレのモノになってないのに。
少し彼女が優しくしてくれたらオレの願望が先走る。
ようやく彼女がオレと少しずつ距離を縮めようとしてくれているのに、オレはついそれ以上の関係を進めたくなる。
今までは、勝手に女の方が寄って来て、望んでもいない距離を縮めて、勝手にそういうこともしてきたけど。
今彼女への距離感をどう進めていけばいいのか、どう縮めていけばいいのか、やっぱりまだわからなくて。
当たり前だった近い距離感も男女の関係も、彼女とはそんなこと到底まだ遠い話で。
余裕で、無意識でしていたすべてが、彼女に対しては、どれも通用しなくて、ただオレは一つ一つ手探りしながら進めていくしかなくて。
ただ彼女に嫌われないように。
彼女に少しでもオレを意識してもらえるように。
こんなに一つ一つ距離感を考えて、意識しながら、交わす会話も、行動もしたことなくて。
恋愛ってこんな難しかったっけ。
男女の関係ってこんなもどかしいモノだったっけ。
・・・って、そっか。
彼女と出会うまでは、まともに恋愛なんてしたことないもんな。
男女の関係だなんて、そんな薄っぺらいもんじゃないんだよな。
彼女とオレとの関係は。
そう。
そんな薄っぺらいモンにしちゃいけないんだよ。
絶対オレは彼女との関係を確かなモノにしたいから。
彼女の気持ちを確実なモノにしたいから。
一人残った会議室で、オレはまた新たに彼女の魅力と、彼女への決意を再認識して、気持ちを更に奮い立たせた。
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