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私は仁美に促されるまま、学校に登校した。

その間、仁美は何一つとしておかしな様子は見せなかった。

こうして仁美と一緒に授業を受けている間も、

二人で学食で食事をとっている間も、

そして、二人して堂々と無断遅刻した罰として、空き教室の掃除をするハメになった今も、

仁美の様子には何一つおかしなところは無かった。

(私がおとなしく仁美に従っていれば、なにも起きないっていう事?)

「やっぱり二人で先生に怒られちゃったね」

「まぁ、あんな風に堂々と遅刻したりしたらね」

「みんな驚いてたよね。私はともかく、優等生の一花ちゃんが遅刻するなんてって」

「ごめんね、私のせいで」

「えへへ、私は一花ちゃんと一緒にいられればなんでもいいよ♪」

私は机をぞうきんで拭き、仁美はほうきで床の塵やゴミを集めている。

「これだけ綺麗にすれば充分かな?」

「うん、あー、結構くたびれちゃったー」

そう言って、仁美は床にベターっと座った。

私も彼女の隣に座る。

(なんか、凄く懐かしい気分……)

こうして仁美と二人でぼんやりしていると、まるで本当に昔の頃に戻ったような気分になる。

仁美が身体を近づけてくる。彼女の体温が服越しに伝わってくる。

「なんかアニメが見たくなってきちゃった」

「今何見てるの?」

「女児向けアニメ。最近はちっちゃい女の子向けのアニメってほとんどなくなっちゃったから、レンタルしてるんだけどね」

「そうなんだ」

「一花ちゃんは何かアニメ見てるの?」

「ううん、最近は全然」

「一花ちゃん大変だよね、勉強」

「私より、仁美の方がずっと大変でしょ? だって――」

そこまで言って、失言かなと思って止めた。

しかし仁美は気にしていないようだった。

仁美は私の手に触れる。

「私は一花ちゃんがいれば、生きていけるから」

「……………………」

「一花ちゃん」

「うん?」

「キスしたいな」

「え?」

唐突にそんなことを言われてあっけにとられ、

そして急速に背筋になにか冷たいものが流れる。

気付けば、仁美はうっとりとした目でこちらを見ている。

そして彼女の手が私の手をつかんでいた。

「あはっ♪ 一花ちゃん、照れちゃって、かわいい」

「ちょ、ちょっと、冗談でしょ?」

「私、一花ちゃんのこと好きだもん」

「うっ……」

「お願い、キスさせて」

顔を近づけてくる仁美に、私は――、

「いや――!」

私は仁美の手を振り払ってそれを拒絶した。

次の瞬間、再び何かおそろしい出来事に見舞われるかもしれない。

それが分かっても、恐怖に駆られて仁美の要求を拒んでしまった。

「……………………」

強い拒絶をした私の事を、仁美はぼんやりと眺めている。

そして少し悲しそうな顔で笑って見せた。

「ごめんね、一花ちゃんは別に私のこと、恋愛対象だとは思ってないもんね」

「え?」

それは意外な反応だった。

「ごめんね。私、自分の気持ち抑えるのへたっぴだから」

「えっと、う、うん」

なにがなんだか分からないけど、とにかく彼女の機嫌を損ねる結果にはならなかったようだ。

私はほっとして気を緩めた。

そして適当な世間話で間をつなぐ。

「そういえば、仁美との夢を見たの」

「あ、そうなんだ。どうんな夢見たの?」

「えっと、私と仁美が、アンタのお家でボイスドラマ作ってて――」

「私はそんなの知らないよ」

仁美の顔が感情が抜け落ちた真っ白なマスクのようになる。

目と口が真っ黒に塗りつぶされ、そして頬にはサソリのタトゥー。

気付けば景色も変わっている。

今朝私の家の中で起きたように、教室の中が女の子向けのアトラクションのような景色に変わった。

「ひっ!」

「一花ちゃん、私はなんの取り柄もない女の子なんだよ。私は一花ちゃんの心のよりどころになる以外の価値なんかない。だから一花ちゃん。私ともッと遊ぼうよ♪ また、私に甘えてよ♪ 一花ちゃんの甘やかな声、もっともっと私に聴かせて♪」

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

私は錯乱して教室を飛び出した。

「だ、誰か、誰かいないの!?」

廊下に飛び出ると、やはり廊下も同じように景色が変わってしまっていた。

しかも生徒はおろか教師の姿すらどこにもない。

まるで私一人だけが、誰もいないおもちゃの世界にでも放り込まれたような感覚だ。

一花

「やだ! たすけて!」

私は何も考えられず、一心不乱になって走り出す。

そして外に出た。

――はずだった。


しかし外の景色も変わっている。

さながらファンシーな世界観をモチーフにしたテーマパークのような景色が広がり、歩いているのは着ぐるみを着たキャストたち。

もうなにがなんだか分からない。

ガラガラガラガラガラガラガラガラ……。

おもちゃのガラガラの音が聞こえる。

「うっ……」

私はその場で吐いてしまった。

「もうやだ、もう嫌だ……わ、私、こんなの――」

ブウゥゥゥゥゥゥゥゥ……。

「ひっ!」

スカートのポケットの中で何かが振動する。

スマホだった。

見ると、電話のコール画面。

だが知らない電話番号だった。

しばらくためらうが、私は意を決してその通話に応じる。

「も、もしもし?」

『学校裏にある教会まで来なさい』

「え? きょ、教会? どうして?」

『大人しく従いなさい! 早く来るの!』

そう言われて一方的に切られた。

校舎の中を見る。もはや学校は学校の姿をしていなかった。

だが、位置関係はある程度理解できている。

私はとにかく学校の裏手にある教会へ向かう事にした。


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