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「桜井渉さんですよね?」
この言葉を放ったあの人の顔が頭から離れない。最初はただの人違いだと思ったけど、どうしても気になる。あの時の真剣な眼差し、そして言葉が何度も頭をよぎる。
「渉、お疲れ!今日も遅かったな。」
突然声をかけてきた彼は大菊拓海。いつものようにニコニコしながら缶コーヒーを手に持って差し出してきた。
「お疲れ…」
「何かあったのか?最近、お前、元気ないじゃん。」
僕は一瞬、答えるのをためらったが、すぐに軽く肩をすくめて言った。
「別に、なんでもない。」
またやってしまった。いつもこうだ。僕は自分の悩みを打ち明けられない。拓海にだって、話すべきだろうに…でも、どうしてもできない。
心配してくれるのはありがたいが、それに答えるのは気が引ける。いつも悩みを打ち明けられず、無理に笑顔を作る自分が嫌だった。
拓海は少し不安そうに僕を見つめたが、深く追求はしなかった。そのままお互いに無言で歩き出す。風が少し冷たく、心の中で何かがつっかえているような気がした。
拓海との会話を終え、帰路に着く。歩きながら、あの人の言葉が何度も何度も頭の中で再生される。『あの人、なんで自分のことを知っているんだろう?』 その疑問が頭から離れない。
しばらく歩いていると、ふと前を歩く人影が目に入る。
驚きと同時に、胸の奥に何かが引っかかるような感覚に襲われる。その衝撃で足が動かなくなってしまった。目の前が真っ暗になるようなそんな感覚さえあった。
「また会えたね。」